第5話 コリーヌ様
今日は、アルのお屋敷に遊びに行くことになった。
アルのお母さまのコリーヌ様が、私をお茶に招待してくださったから。
が、私の両親と執事のジュードは、心配して頭をかかえていた。
あのね、私だって、ちゃんとしようと思えば、貴族令嬢らしく、きちんとできるよ?
ということで、朝から、よそいきのふわふわしたドレスを着せられ、金色のくりんくりんのくせ毛の髪も、きれいに結んでもらって、しっかりと貴族令嬢らしい装いだ。
手土産をもたされて、いざ、出発!
そして、すぐに到着。だって、お隣だしね。
アルが玄関で待ってくれていたが、私を見たのに珍しく無言だ。
「ええと、アル。どうしたの? 私が見えてる……?」
不安になって、手をひらひらさせて、確認する。
フフッと上品な笑い声がした。
見ると、ものすごく美しい女性が立っている。
「いらっしゃい、ライラちゃん。私がアルフォンスの母のコリーヌです。
今日は来てくれてありがとう」
突然のコリーヌ様の登場に、一気に緊張してしまった私。
「はじめまして、ラ……ライラです。本日は、お招きいただきまして、ありがとうございましゅ」
と、最後にかんでしまった。
その途端、プハッとふきだして、笑い出したアル。
「そこでかむか、普通?」
今まで黙ってたくせに、しゃべったと思えば、ほんと失礼だね?
とはいうものの、コリーヌ様の手前、さすがに恥ずかしくて真っ赤になってしまった。
そんな私を見て、コリーヌ様が優しく微笑んだ。
「さっき、アルが黙ってたでしょ。あれはね、ライラちゃんが、かわいくってびっくりしたのよ」
「なっ…、そんなことない!」
アルが叫ぶ。
お、耳が赤くなっている!
耳が赤いアルと、顔が赤い私。
どっちも同じだから、まあ、いいか…。
それより、気になるのは、コリーヌ様の頭に黒い煙が見えること。
そして、コリーヌ様の顔色も悪い。
私は邪気を吸い取るだけだから、病気自体を治すことはできない。
でも、この黒い煙はとても濃いから、吸い取れば少しは楽になると思う。
案内してくださるコリーヌ様のすぐ後ろを歩きながら、さりげなく、自分の両手をあげた。
そして、コリーヌ様の頭にむかって自分の手のひらをむけ、少しだけ動かしてみる。
これで、取れるかな?
歩きながら両手を自分の頭くらいまで上げてるから、かなり挙動不審だと思う。
誰も見ていませんように……。
と、思った瞬間、アルが言った。
「両手をあげてどうしたんだ? あ、ライラ、もしかして…、頭がかゆいのか?」
「はあ!? …あ、でも、いや、……う、うん、そうかも……。ちょっと、慣れない髪型で、かゆいかな?」
と、言いながら、両手の甲で頭をさするようにする。
他にごまかしようがないから。
でもね、アル! 仕方なく合わせてみたけど、それ、すごく変よね?!
一体、私のこと、どんな人間だと思ってるんだろう……?
私の能力を知ってるんだから察してよ!
ほら、メイドさんたちが、かわいそうな子を見る目で私を見てるじゃない!
コリーヌ様がふりむいて、にっこり微笑んで言った。
「ライラちゃんって、とってもおもしろくて、かわいらしいわね」
コリーヌ様の一言で、みんなの見る目が、かわいそうな女の子から、おもしろい女の子に一瞬にして変わった。
ありがとうございます! ここに、女神がいました!!
空気の読めないアルのお母様とは思えない!
ということで、手のひらを見たら、小さな豆粒ほどの花の種ができていた。
あの一瞬で、少しは黒い煙が吸い取れたということだ。
お招きされたお屋敷について早々、頭をかく貴族令嬢みたいに思われたけれど、報われた!
よし、こうなったら、どれだけ変に思われてもいい。
今日、帰るまでに、あの黒い煙を吸い取ってしまおう! 女神さまのために!
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