第3話 邂逅

 運命は好むと好まざるとに関わらず訪れるものだ、人と人の巡り合わせも、やはり運命の糸が引き寄せるのだろう、そう彼らのように…


 ―南に向かう街道―

 

 南の町へ向かう道を歩く3人

ラーサーとランス、そして旅姿が不似合いのモラウだ、モラウが馬に乗れない為に長い道程を徒歩で旅をしている、だが徒歩で良かったと思える事もあった

道中は聖教騎士団と出会す事は無かったが、盗賊や野獣とは望んでもいないのに何度も遭遇する、いや狙われているのだろう、その原因というのはおそらくこのモラウだろう

狡猾な盗賊や野生の獣から見て狙いやすい『獲物』に見えてしまうのだ、馬に乗っている時にこう頻繁に襲われてはラーサー達とてモラウを無傷で守り切れる自信はない、そんな珍道中ながら南の町まで残り半分を切った辺りでの事だ、激しい馬の足音にラーサー達は揃って疾走する馬の集団を目撃する

見れば先頭の2頭を後方の集団が追いかけているようだった


 「盗賊…か?あれは追われているのか?」


 ランスは目を細めながら迫ってくる集団をみつめる


 「そのようだな…助けるぞ」


 ラーサーの言葉を合図にランスも刀剣を抜く、その横で邪魔にならぬ様に慌てて隠れるモラウの行動は無駄がなく慣れたものである

盗賊に追われていたのはマーゼル卿とその従者クラインだった


 「急げ!追い付かれる!」


 若い頃に培った乗馬の馬術がこんな所で役に立つとはマーゼル卿にも予想はつかなかっただろう、その後ろを必死に食らいついていくクラインも素人ながら見事な手綱さばきだった


 「くッ!マーゼル卿!前方に人が!」


 先に前方のラーサー達に気づいたのはクラインだった、敵に挟まれたと思ったマーゼル卿だがラーサー達の姿から傭兵であると確信して突き進む

ラーサーもランスも2人を通してから道を塞ぎ後続の盗賊を叩き伏せる

馬をかっ飛ばして迫っていた盗賊は、ズダンッと強烈な一撃を受けて地面に崩れた


 「本当によく盗賊に出会すな…どうなっているんだこの国は」


 ラーサーは呆れたようにため息を吐きながらそう言うのだ


 「戦争や治安の悪化をこういった連中は好むのさ…こういう悪人は全て切り捨てればいい」


 ランスに至っては『容赦などする必要なし』という構えだ

しばらく走り抜き安全を確認してから馬を止めたマーゼル卿とクラインは、この2人の傭兵の強さと勇敢さに相当な実力を持った傭兵なのだろうとしばし見惚れていた


 「あの若者達はいったい…」


 装いは傭兵、振舞いは騎士、実に奇妙な様子に見えるのも仕方ない、残りの盗賊達はマーゼル卿に考える時間を与えはしなかった

ラーサー達に殺された仲間の盗賊の仇というよりは反射的に向かってきていた、そんな状態で勝てる程ラーサーもランスも甘くはない

迷いなく振られていく刀剣の剣筋は鋭く盗賊程度の腕では太刀打ちなど出来るはずもない、ほどなくして向かってきた連中は全員斬り倒され、戦意を失った何人かは血相を変えて逃げていった


 「終わったか」


 血を払い布切れで刀身を拭き取ると刀剣を納めながらランスは言った


 「まだだ、死体の処理がある」


 同じく刀身を拭くラーサーは転がる死体を見て言うのだ


 「いつも思うことだがこんな連中埋める必要あるのか?」


 ランスは納得できないらしく無意味だと嘆く

モラウと来れば唯一出来る仕事は死体の処理であり、張り切ったように組み立て式のスコップを準備して作業に取り掛かり始める

ランスもスコップを渡されると組み立てて渋々作業を始めるのだ、慣れた手付きで穴を掘っていく3人にマーゼル卿とクラインが近づき声をかける


 「先ほどは助けて頂き感謝します」


 マーゼル卿は馬を降りて礼を述べる


 「あぁ、俺たちが助けなければここに転がっていたのは貴方達だっただろうな」


 辛舌にランスは言った、忙しそうに手を動かすのを見てクラインが言う


 「何か手伝いましょうか?」


 老齢なマーゼル卿の代わりにクラインは自分が動かねばと思ったのだろうか、そのクラインの背格好を見てラーサーが答えた


 「アンタは動けそうだな…悪いが、そこの死体をこっちに運んでくれ」


 指示をされクラインが死体の足を引きずりながら掘られた穴に死体を落としていく、死んで間もないというのに既に死臭と血の臭い、そして死ぬ間際に脱糞をした者の悪臭、普段の日常とかけ離れた現実を突きつけられた瞬間だった


 「君らは悪人でも弔うのかね?」


 マーゼル卿は『埋葬』と考えラーサーに問う、その言葉にラーサーもランスも手を止めて答える


 「弔う?そう見えるならよほど貴方は平和な場所に住んでいるんだな」


 ランスは感覚のズレた事を言うマーゼル卿に眉をひそめる


 「違うのかね?」


 マーゼル卿は更に問う


 「死体を放置すれば野獣が餌(死体)を食いにこの辺りを彷徨く、それに伝染病だって蔓延する恐れがある」


 ラーサーは手を止めずに答えてみせる


 「なにより臭い」


 ランスが強くそう言い、モラウも無言で何度も頷く、これにはクラインも無意識ながら同調して首を縦に振ってしまう


 「時間がなければ火を焚いて燃やす事もある、この辺りには燃料になりそうな薪が無いから埋めてるのさ」


 辛辣な言葉を遠慮もせずにラーサーは言い放つが、作業をしていたモラウは手を止めて何かに気づいた


 「もしや、あなた様はマーゼル枢機卿でございますか?」


 モラウは聖都で業務をしてきた事もあり、マーゼル卿の顔を見たことがあった、最も服装は地味な外套にフードを被っているので、近くに寄られるまで気づかなかった訳だ


 「あぁ、いかにもマーゼルとは私の事だ」


 フードをとりマーゼル卿が答える、モラウは丁寧にお辞儀をして更に問いかける


 「枢機卿さまが何故このような場所に?」


 マーゼル卿は南の方角に視線を向けながら言う


 「南の町へ少し用があってねそこへ向かう途中だ」


 話しを聞くモラウは首を振りながら熱心に聞く


 「それならばご一緒しましょう、我々も南の町へ向かっているのです、道中の護衛は我々にお任せ下さい」


 モラウはトントン拍子に話をまとめ、簡易的な契約まで進めていく、謙遜しているがギルド協会の敏腕役員と呼ばれるだけの実力は確かだ


 「それは助かる」


 マーゼル卿もラーサー達の戦いを目の当たりにしていた為、二つ返事で了承するのだ


 「このラーサーとランスは若いですが傭兵の中でも腕利きの者です」


 モラウはスイッチが入った様にマーゼル卿に傭兵同盟の売り込みをしていく、ラーサー達はというと死体を穴に放り込み土を被せていく、その瞬間だけクラインとマーゼル卿は祈りを捧げていた、聖教徒たる彼らにはやるべき務めなのだろう


 ―南の町―


 何はともあれ頼もしい護衛を2人つける事ができたマーゼル卿達のその後は、特に盗賊や野獣に出会す事もなく安全な旅路を進めた

そして、ようやく南の町へ到着したのだ

南の町【ヴロラ】は海に面した港町で更に南には古代遺跡や隣国との国境がある

縦に長い国土を有するアルバリア教国はヴロラを含め3つの港町があり

『北は堅実、西は流行、南は伝統』と呼ばれ交易路としてそれぞれの港町は独自の特徴と発展を遂げてきた

そして、その特徴を表すようにヴロラの民は古きよき伝統を愛し、南聖騎士団の掲げる教示も

【己の誇り高き魂に従え、その血には勇ましき戦士の血が流れている】

と、民意に寄り添った志を示している、南聖騎士団のへリア団長は道徳を重んじる人格者という事もあり教会や他の騎士団との親交も厚い、ヴロラに到着したマーゼル卿を出迎えたのは南聖騎士団のへリア騎士団長だった

傭兵同盟と聖教騎士団の小競り合いが激化している事もあり警備態勢も厳重だ


 「お久しぶりですねマーゼル卿」


 ヴロラ出身のマーゼル卿とへリア騎士団長は互いに知らぬ仲ではなかった、久しぶりの再会を喜び握手をするのだ


 「元気だったかね?聖都でも君の評判はよく聞くよ」


マーゼル卿の挨拶にへリア騎士団長は笑顔で応えた


 「ご冗談を…南地方はこんな状況です、戦禍の騎士団長と噂されているのは知っています」


 2人の会話から本音を言い合える仲だというのが分かる


 「そちらは?」


 へリア騎士団長は後方に控えるラーサー達に気付き問いかける


 「道中世話になった傭兵達だ」


 マーゼル卿が説明を始めるとすぐにモラウが自己紹介を始める


 「お初にお目にかかります元ギルド協会職員のモラウと申します、こちらは傭兵同盟きっての腕利きラーサーとランスといいます、傭兵同盟を代表して盟主カルロスから書状をお届けに参りました」


 へリア騎士団長は手渡された書状よりもラーサーの名前に興味を示した


 「ラーサー…すると君が例の……」


 へリア騎士団長が言っているのは第十八方面調査部隊に所属しながら【テペレナの惨劇】唯一の生き残りであることを指している、それを聞くとマーゼル卿とクラインもラーサーをまじまじと見ては『道理で強い訳だ』と納得するのだ


 「へリア団長、その書状の内容を私にも詳しく教えてもらえないかね?」


マーゼル卿がヴロラまで来たのは傭兵同盟と聖教騎士団の仲の取り持ちだ、この話しに興味を示した


 「わかりました、では話しは私の館で…」


 へリア騎士団長の案内で一行はヴロラにある南聖騎士団本部の館に同行するのだった


 ―南聖騎士団本部― 


  団長室でマーゼル卿にへリア騎士団長が現在の南部の状況、引き金になった出来事、聖都で出回っている制限された情報と事実の違いなどを説明していく

更に傭兵同盟の盟主カルロスからの支援要請など、マーゼル卿は枢機卿として聖都にいるだけでは国の本当の事情など見えてこないと苦しい顔をするのだった


 「恥ずかしいものだな、聖都に居ては正しい情報など半分も入って来ないと云うことか」


マーゼル卿が聖都で聞いていた話しと実際の出来事は違っていた、それは、アルバリア聖教会や聖教騎士団に都合がいいように改悪され伝わっていた事も理解したのだ


 「都合の悪い事実を隠すというのは歴史を遡ればどこにでもある事です」


 へリア騎士団長は落胆するマーゼル卿にそう言い宥める


 「モラウさん、傭兵同盟への支援の件ですが、南聖騎士団としては聖教騎士団との争いは極力避けたいと考えています」


 へリア騎士団長はモラウに向き直ると南聖騎士団の方針について語り始める、ある程度は予想はついていたのだろう、モラウも表情を変えずに聞いている


 「食糧、物資に関しては提供できるものは準備が整い次第輸送を開始します」


 この言葉にひとまずモラウのつり上がった眉からちからが抜ける、だが本題はここからだ


 「惜しみ無く支援できるのはあくまでも『物資と食糧』に限ります、兵士の派遣は予定しておりません」


 この回答には盟主カルロスも予測はしていた、そのうえで支援要請を出す決断をしたのだ、逆に言うとそれほどまでに傭兵同盟だけでは継戦能力が低いという事になる

へリア騎士団長としても明主であるカルロスとは旧知の仲だ、出来ることなら派兵をしてあげたい気持ちはあるが、今のアルバリア教国にある全6騎士団のパワーバランスは非常に微妙であり不安定だ

アルバリア聖教会が直接支配下に置く聖教騎士団の規模は最も大きいが、戦力差や経験値などを引き合いに出せば他の騎士団に有利がつく、中でも南聖騎士団は聖教騎士団に匹敵する規模と戦力を持ち、求心力のあるマーゼル卿が南部出身という事もあり聖都でも支持者が増えていた

もし、南聖騎士団が大々的に傭兵同盟に加勢すれば、聖教騎士団と南聖騎士団の正面衝突は避けられない、へリア騎士団長が兵士の派遣を見送った理由にはそういった背景があるのだ


 「わかりました、物資だけでも支援していただければ大変助かります」


 モラウは頭を下げて感謝を述べる


 「聖都に帰ったら私からも教会に働きかけてみよう、戦争を止める為なら努力を惜しまんよ」


 マーゼル卿のこの言葉は心強かった、クラインもそんなマーゼル卿の補佐官を務めている事を誇らしく思った瞬間だ

だが、この思惑は予想を超えた事態によって潰されてしまう、話しも佳境を越えて一段落した頃、兵士が団長室へ飛び込んできた


 「失礼します!」


 ぶしつけな入室にへリア騎士団長が声を張る


 「来客中である!」


 しかし、臆さず兵士は続ける

 「申し訳ございません火急の報せです!……」


 兵士はへリア騎士団長とマーゼル卿の顔を見て言葉を詰まらせる


 「どうした?報告せよ」


意を決したように兵士は続ける


 「……はい、聖都の間者からマーゼル枢機卿に手配書が出されたと報告がありました、容疑は『国家転覆罪』傭兵や地方騎士と共謀してアルバリア聖教会を陥れようとしたとの事です」


 耳を疑う言葉に一同が立ち上がりながら声を揃えて言う


 「なんだと!」


 マーゼル卿は驚きと動揺が混じった汗が身体中から吹き出る程に嫌な感覚だった


 「バカな…」


 クラインはその後の言葉が続かない


 「何かの間違いでは?」


 ラーサーはありえない事が起きたと言いたげな口ぶりで言う


 「報せは正確なのか?」


 へリア騎士団長は兵士に問う


 「はい、報告は鳩にて受け取っています」


 兵士は即答した、伝書鳩はこの時代の最も普及している通信方法だ


 「暗号式は?」


 再度へリア騎士団長は確認する


 「ウラノメトリア式です」


 古代の賢人アイリアノスが考案した暗号式を使った通信なら間違いないだろう、へリア騎士団長は沈黙する


 「………」


 「これはどういう事でしょうか?」


 クラインがマーゼル卿の顔を見る、今後の行動を考えるようだ


 「こんな事が出来るのはグローテスの他にいないよ、奴が手を回したに違いあるまい」


 マーゼル卿は歯ぎしり混じりにそう言う


 「聖都に戻り誤解を解いた方がよろしいのでは?」


 へリア騎士団長が心配するように提案する


 「いや、既に聖教騎士団から追手が放たれているはずだ、聖都までの道中で鉢合わせたら問答無用で投獄されるだろう…ここは、動かないほうが得策な気がする」


 口元に手を当てながらマーゼル卿はため息を吐き視線を落とした、ひどく落胆をしている


 「…まさか、先日の盗賊も?」


 ラーサーはマーゼル卿が襲われていた事を思い出しひとつの答えに辿り着いたようだ


 「可能性はあるな、この辺りは我が南聖騎士団の統治下だ、小規模な盗賊などに仕事をさせるほど私は優しくはない」


 へリア騎士団長が机に手を衝いき声を強めて言う


 「嵌められたな…私が聖都を離れる機会を待っていたのか」


 マーゼル卿は額を拭うように手を当てると天井を見上げた


 「マーゼル卿はこのままヴロラに留まり下さい、この町に居る限り我ら南聖騎士団が保護致します」


 へリア騎士団長は直ぐにマーゼル卿の保護を約束する


 「…すまない、へリア団長にも迷惑をかけてしまった」


 少し落ち着いたのか先ほどよりもマーゼル卿の表情は良くなった


 「物資を積んだ馬車を用意させますモラウさん達は早くヴロラを離れて下さい、数日中にこの町を聖教騎士団が包囲するはずです

 へリア騎士団長は傭兵たちの3人に町を離れるように伝える


 「わかりました」


 モラウは即答し書類を片付け始める


 「…俺はここに残る」


 ラーサーは厳しい顔のまま言った


 「ラーサーさん?」


 モラウは驚き問いかける


 「戦いになれば戦力は必要だ、そういう時に役立ってこその傭兵だろう?」


 ラーサーの意見は一理ある


 「ラーサーと同じ意見だ」


 ランスも動かずに言う


 「ランスさんもですか?……2人とも勝手な事を言って…」


 モラウは困り果て肩をおとす


 「我々にしてみれば頼もしい限りだ、モラウさん、2人を置いていってはくれないだろうか?…無論、物資を積んだ馬車には護衛に兵士をつける」


 説得は無理だと観念したモラウはへリア騎士団長の提案を飲むことにした

翌日物資を積んだ数台の馬車と共にモラウは駐屯地へ帰っていった、それからあまり日をおかずへリア騎士団長の予想通りヴロラの町は聖教騎士団に包囲される、ヴロラを取り囲んでいた聖教騎士団から使者が遣わされたのは包囲されてから数日後の事だった


 ―聖都 グローテス私室―

 

 私室で聖書を目線の高さの書見台に置き、黙々とグローテス枢機卿は読んでいた、枢機卿になる程の人物が聖書を読む姿は、熱心なアルバリア聖教徒を思わせるが、残念ながらこの男は神を信じてはいない、ただ日課として聖書に目を通しているだけだ

この時も読んでいる姿を見せながら何かを考えているようだった、私室を4度ノックをすると外からジュリアスが声をかける


 「お休みのところ失礼致します…」


 少し間があった


 「…入れ」


 と、返事がありジュリアスは入室する

グローテス枢機卿はほぼ微動だにせずに一瞬視線を向けたが再び聖書に視線を戻す、ジュリアスからすればいつも通りの状況なのだろう、気にせずジュリアスは淡々と持っていた書類を捲り報告を始める


 「聖教騎士団の部隊がヴロラに到着、既に町の包囲は完了したとの事です…」


 ジュリアス喋り終えると


 「そうか…」


 と、グローテス枢機卿は興味がなさそうに返す


 「マーゼル枢機卿は投降するでしょうか…」


 ジュリアスは書類に目を通しながらグローテス枢機卿に問いかけた、しかし、グローテス枢機卿は聖書から目を離さずこう言う


 「…ん?あぁ、さぁな…」


 この反応と答えにジュリアスはグローテス枢機卿が最初からマーゼル卿を投降させるつもりなど無かったのだろうと理解した、否、この男もまた非情な性格をしている気づいていたのだろう、だからこう続けるのだ


 「南聖騎士団に『あの』条件を着けたのは挑発ですか?」


 この質問にはグローテス枢機卿も興味をひかれたらしい、目をジュリアスに向け聖書を閉じる


 「あぁ、へリア騎士団長は誇り高い騎士だ、『あの』条件を飲むのは屈辱だろう…だが、従わなければ……戦争だ」


 書見台から聖書を外し机にドンッと置きながらグローテス枢機卿は言う


 「どちらでも構わないという訳ですね?」


 上目でジュリアスを見るようにグローテス枢機卿は言った


 「…この戦争は避けられぬのだよ」


 決まっていた未来の話しをするかのように確信を持った言葉を使うグローテス枢機卿にジュリアスは沈黙する、外では時報を報せる鐘がなる、それは開戦を報せるかのように…


 ―ヴロラの某所―

   

 聖教騎士団側の要求は以下の通りだった

【①マーゼル枢機卿の身柄の受け渡し】

【②南聖騎士団の武装解除及び無条件降伏、並びに指揮権の破棄】

 当然ながらへリア騎士団長はその場で断り使者を追い返した


 「馬鹿げた条件を叩きつける…」


 マーゼル卿は条件次第で対応方法を変えるつもりだったが、南聖騎士団への厳しい処罰や対応を見て考えを改めていた


 「グローテスめ…私だけでなく南聖騎士団をも手に入れるつもりか、これでは私が投降しても状況は変わらん」


 残された聖教騎士団の要望書を見てマーゼル卿も憤る


 「残された道は…戦争か」


 クラインは現状を正確に分析したうえでその言葉を選んだ、奇しくもグローテス枢機卿が笑みを浮かべながら言っていた同じ言葉を…

 

 この数日後のうちに両陣営は激しくぶつかり合う事になる、これが後に語られる【神竜戦役】の始まりである

 

 


  

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る