第11話 消失の美姫

「ごめんね! なんか驚かしちゃったみたいで」


「大丈夫大丈夫。俺、全然驚いてないし」


「えっ、でも『ギャアアアアアアア』って」


「俺トイレ出るとき、『ギャアアアアア』って掛け声してから出るんだよ」


「……そうなんだ」


 右京は疑わしそうに俺のことを見てくる。さ、流石に言い訳が苦しかったか。いや違う。言い訳とかじゃない。俺はビビってない。何一つビビってないから。ガチ悲鳴とかあげてない。


「そんなことより、なんでこんなところに?」


 俺は話題を変えることにした。別にこれ以上深掘りされたくなかったからとかではない。


「あぁ。先生に荷物運びを頼まれてね」


 右京はニコリと微笑みかけてくる。クラスの女子がみたら卒倒すること間違いなしのイケメンスマイル。男の俺でさえ、あまりの輝きっぷりに目をつむってしまう。


 ラブコメにも一人は必ずいる。″王子″と呼ばれる好青年ポジなだけはあるぜ。


「どうかした?」


 笑顔がまぶしすぎて言葉が出ませんでした、なんて男相手に言うのは流石にキモすぎるよな。


 俺は適当に返事をして、話をはぐらかすことにした。

 

「いやぁ……先生の頼みとはいえ貴重な昼休みを費やしてこんなところまで来るなんて優しいんだな、と思って」


 俺がそう言うと、右京は目を丸くして一瞬黙った。


 あれ、俺何か変なこと言ったか? 遠回しの悪口を気づかずに言ってたりはしてないよな……?


「ただの善意じゃないよ。先生の頼みを聞いておけば、っていう下心も持ってる」


 俺の不安も束の間、右京はすぐに元の笑顔に戻って言葉を返してきた。俺はそのことに顔には出さずに安堵あんどする。


「それぐらいの下心は、生徒会長を狙っている人なら誰でも持ってると思うけどな」


「はははっ。そうだね」


 右京が小さく笑うと、少しだけ静寂が訪れた。


「じゃあ、これ――」


「なぁ、右京。良ければ少し話をしないか?」


 たまたまだが、せっかく右京「学園の王子様」に会ったのだ。


「? 別にいいけれど」


 俺は右京の了承を得ると、あたりに一息つけるところを案内することにした。


 ―――――――――――――――――――――――


「ここはいいね。面白い部屋だ」


「だろ。たまに来るんだ」


 俺たちが来たのは「演劇部の部室」。部室といっても前に″元″とついてしまうが。


 部員数が今年はゼロで、三年生も卒業してしまったこともあり廃部してしまったのだ。なので、今は演劇道具があるだけの無人部屋になっている。


 ここではたまに昼飯を食べるが、道具が面白くて見てるのに飽きないし、別練にある部屋なので滅多に人も来ない。景色は静かではないが、空気的には静かで落ち着ける空間なのだ。


 俺たちは部屋にあった椅子を二人分持ってきて、中央にある長机の隣同士に置き、座った。


「さてと、で? 僕になにか話したいことがあるのかい?」


 右京はいきなり切り出してきた。俺は右京の問いにゆっくり頷く。


「学園の王子様」であり生徒会を狙っている右京に聞きたいこと……そんなの決まっている。

 

「生徒会長を紹介してくれ」


「は? え? 生徒会長……?」


 右京は予想外といった顔で戸惑いの声をあげた。


 俺の話したいこといや、願いとは……「カリスマ巨乳の生徒会長」との間を取り持ってほしいということ。


 ラブコメでよくいる、有能ではあるものの生徒から恐れられており、ルールに厳しい巨乳生徒会長。


 明智原の性状を念頭に入れつつ、俺の統計ラブコメグラフによれば十中八九、明智原の生徒会長はこのタイプで間違いない。

 

 普段は厳しい生徒会長のあの子が俺にだけ見せる笑顔とかいうシチュエーション。……大好きです。


 是非、お近づきになりたい!


「いるんだろ? 勝ち気でカリスマ性のあって綺麗きれいな長髪で切れ目で超絶美少女の生徒会長が! 是非、紹介してくれ」


 右京はまだ状況を理解できずにいるらしく、困惑の表情を浮かべていたが、俺はそれを無視して詰め寄り、喋り続ける。


「あっ、それと勘違いして欲しくないのだが紹介すると言っても、そんなにあからさまに紹介しないでくれよ。例えば昼休みに、たまたま右京と散歩していたら、たまたま生徒会長と出会って、連れ添いである俺を右京が紹介する流れになるとかが――」


 俺が右京に近づき喋り続けていると、右京は俺の両肩を掴み遠ざけて、口を開いた。


「ちょっ、ちょっと待って。話を勝手に進めないで! そもそも生徒会長、今はいないから!」


「え……」


 間抜けな声を皮切りに俺は肩から膝へと力を失っていき、椅子から崩れ落ちた。


 そんな馬鹿な……勝ち気でカリスマ性のあって綺麗な長髪で切れ目で超絶美少女の生徒会長がいない……だと?


「東山くん?!」


 右京は椅子から転げ落ちた俺の近くにひざを抱えて座り、驚きに視線をさまよわせていた。


 俺は動かない体を必死にふるい立たせ、どうにか言葉を発する。


「……今、生まれてきた意味が一つなくなった」


「そこまで?!」


 右京は俺の腕を持ち上げ、肩に回すと、椅子に座らせてくれた。


「……ありがとう」


「う、うん。別にいいけれど。そこまでのリアクションされるとは思わなかったよ」


「もう生徒会長が俺をいやしてくれないと思うだけで、体から力が無くなっていく。これが別れの哀しさか……」


「まだ出会ってもなかったと思うけど……」


 俺は机に上体の体重を預け、横目で右京に視線を合わせる。

 

「……まぁよく考えれば″生徒会長″がいたら、右京は生徒会長を狙って頑張ったりしてないよな……」


 俺の言葉に右京は困り顔で応じる。


「うーんと、生徒会長はいないけど。生徒会長を狙っている女子生徒なら知ってるよ」


「マジか?!」


「……だけど」


 明智原には、ほかの高校でも存在するように生徒会が存在する。しかし、その生徒会はほかの高校にあるような普通の生徒会では無い。


 その普通ではない最たるものが、生徒会長に成ったものに与えられる。″特別措置″と言う特権の授与。


 ″特別措置″とは生徒会長に成れば適応されるもので、将来の安泰と出世が約束される権利……らしい。


 噂口調なのは、概要は「三大王子」やそれに連なる、優秀な生徒にしか伝えられておらず、しかも彼らはその内容を口止めされているため、一般の生徒は誰も真実は知らないから。


 なので、信憑性しんぴょうせい皆無な噂話なのだが……


「生徒会長は絶対に僕がなるよ。他の人には何がなんでも負けない。東山君には悪いけどね」


 右京の普段とは違う野心に溢れた表情にに、俺は思わず気圧けおされる。


 あの優しい右京くんが闘争心剥き出しで、生徒会長を目指すこの姿を見てしまうと、出鱈目でたらめな噂とも聞き流すことも出来ないんだよなぁ。


「まぁ、いくら絶対成ると今の僕が言っても、滑稽こっけいなだけか……」


 右京は自嘲するかのように、そう呟いた。 


「今のままだと厳しいのか? 生徒会長」


「厳しいね。他の人たちとの差が大きすぎて」


 あの「学園の王子様」と呼ばれる右京ですら、第一線に行けないほどのレベル……か。どんだけ高レベルなんだよ。


「『王子様』でも厳しいのか。本当にトップ争いだな。生徒会長の席って」


「……ここの生徒たちを引っ張れるくらい優秀じゃなきゃならないからね」


 俺はそれを聞いた瞬間、絶望以外が湧くことはなかった。


 だって、明智原の生徒引っ張るって……


 みんな己の力にプライドを持ってて、しかもみんなちゃんと優秀だからそいつらを引っ張るってなったら、嫉妬される余地のないくらい圧倒的な能力が必要なのは確実。


 学力、運動能力、そして生徒からの人気などなど、きっと何が抜けても生徒会長になったところで、明智原の生徒はついて行かないだろう。


 俺はごくりとつばを飲み込む。


 無理ゲーすぎる。まぁそもそも、俺は明智原の生徒なんて引っ張りたくねぇけど。


「右京以外の生徒会長を狙っている人って誰がいるんだ?」


 俺は絶対なりたくねぇが、右京と張り合える人たちに興味がある、それにラブコメの匂いもするので聞いてみることにした。


 俺は右ポッケにはいっている手帳を取り出し、貴重な話があればいつでもメモを取れるような体勢に入る。


「えーと男子なら『王様』、女子だったら『才知姫』『天使』が有力候補だね。あとは……『消失の美姫』かな」


 教室内で美形どもがなんか嬉しそうに話している時によく出てくる名前だ。全員「三大どうちゃら」に入ってるやつだろうな。『王様』『才知姫』『天使』って、仰々しいあだ名がついてるのがその証拠。


 ……しかし、最後だけは聞き覚えがない。


「なぁ、右京『消失の美姫』って?」


 名前から察するに、今は学校にいない存在なのだろうか?


 俺がそう尋ねると、物難しそうな顔で俺の疑問に答えた。


「彼女は入学初日から「三代美姫」入りを果たした前代未聞の女子生徒だよ」


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 フォローと★もちろんハートもしてくれると、嬉しいです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る