第5話 学園の王子様

右京 相馬うきょう そうま。明智原でも三人までしかその椅子に座ることのできない三大王子の一人。


 芸能人にも負けない美貌びぼうは当然として、勉学、運動共に好成績、人を惹きつける才能を兼ね備えた彼は他生徒から『学園の王子様』というあだ名で憧れの視線を向けられている超優等生。


 そんな明智原でも突出したイケメンである右京が、冷遇対象である俺を庇うように後ろへ誘導した。


 え、惚れてまう。


 先程まで俺に対して、退去コールをしていた男子が右京の姿を目にし、静まり返る。逆に女子は右京の姿に見惚れて硬直こうちょくしていた。


 右京の登場により、教室の喧騒けんそうが空気に溶けていくかのように消えていく。


 すると、矢沢は俺に巻きついた腕を離して立ち上がり、右京の姿をしっかりと見据えた。


「矢沢君、僕が出ているうちに、君は一体何をしているんだい?」


「……別に、このブスにここでの常識を教えてやってるだけだぜ?」


「常識というのは先程の不愉快な脅迫内容がかい?」


「脅迫? 人聞き悪りぃな。俺は友達にお願いしてるだけさ」


「学校に来るな、と大声で言う友達はいない」


 バチバチと両人に火花が散る。一触即発とはまさにこのことだろう。二人ともクラスの人気者でありながらも、派閥はばつが全く違うものどうし、相性は最悪なのだ。


 顔にも何にも囚われず平等に接し、生徒同士助け合っていこうという平和主義たちのリーダーである右京相馬。


 顔や能力などにこだわりを持ち、自分自身に誇りを持って動いていこうという実力至上主義に属する矢沢拓海。


 明智原のほとんどが矢沢側だが、まれに右京のような平等主義が存在する。


 彼ら、特に三大王子である右京の存在は、俺みたいな冷遇対象には心強い味方だ。


「いい人ぶってんじゃねぇぞ、右京。てめーも心の奥底ではそいつを軽蔑けいべつしてんだろ? 顔も運動も勉強もクソ、なんで明智原に入れたのか不思議なレベルの能力しかない奴だ」


「君から見たらそうなのかもね。でも、明智原に入った時点で彼は明智原に相応しい人材だよ」


『学園の王子様』は噂通りの平等主義のイケメンだなぁ、と俺は再確認した。矢沢に絡まれた時、見かけたらいつも助けてくれるからな。


 矢沢が右京の言葉に明らかにイラついていた。自分の言葉を否定されるのが面白くないのだろう。


「そうかよ。だが、お前が思っててもクラスのみんなはどう思うだろうな? なぁ、みんな」


 矢沢の声が教室中に響く。しかし、その声に賛同する人は誰一人おらず、矢沢の声だけが虚しく反響するだけだった。


「……ちっ」


 確かに矢沢はこのクラスで恐れられている。しかしそれは矢沢ではなく、矢沢の主「暴虐の主」に対して向けられているもの。


 元三代王子で暴力を平気で振るう矢沢の主、しかしそれは現三代王子である右京にとっては脅威足り得ない。


 「元」と「現」では権力も力も何もかもが天と地の差。


 よって、右京がクラスに存在するならば、矢沢についていくものはいなくなってしまう。第三者のクラスメートたちは、あくまで第三者なのだ。強い方に味方する。ほんと、都合の良い奴らだ。


「みんな、がどうかしたのかな? 矢沢君」


 矢沢は自分のツレである生徒らに目を向けるも、彼らは矢沢との目を合わせようともしなかった。


 矢沢は舌打ちをしてから、イライラのこもった声で口籠くちごもった。


「どいつもこいつも情けねぇ……平等派の右京に尻尾振るなんて恥ずかしくねぇのか」


「……そろそろ先生も帰ってくる。東山君に謝罪をして、早く授業の用意を始めなよ」


 右京の言葉を聞いた途端、矢沢は「あ?」と低い声で王子を威圧した。


「東山に謝罪だぁ? なんで俺がそんなことしなきゃなんねぇんだよ」


「当たり前のことだと思うけどね。人に不快な思いをさせ、自分自身に非があるのなら、頭を下げる。というのはなんじゃないかな?」


 右京は矢沢の発言から皮肉として言葉を放つ。

  

 俺はそれを聞いて、カッコいい……ひたすらそう感じた。なんというか、男として負けた気がする。


 しかし、矢沢はますます怒りが増したのか、視線で人が殺せそうなほど目が鋭くなり、怒りで拳がプルプルと震えている。


「さぁ、矢沢君。東山君に謝罪をするんだ」


 右京は追い討ちとばかりに矢沢に口撃こうげきする。しかしそれが良くなかった。


 矢沢は右京のその言葉を皮切りに、握り拳を作り、腕を掲げ始め――これはまずい。


「右京、テメェ。調子乗ってんじゃねぇぞ――ッ!」


「――ッ!」


 ――――ボコッ


 肉が叩かれ、骨がきしむ鈍い音が響く。


「あ?」


「え?」


 そして、その音の後、右京と矢沢が同時に素っ頓狂な声を出した。


「東山君……何を」


 教室の床にポタポタと赤い液体が落ちて、広がる。その液体は――

 


 ――そう、俺の血だ。

 


 俺は矢沢が右京に殴りかかる場所に割り込み、矢沢のパンチを顔面で受けたのだ。パンチが速すぎて、顔面でしか受けれなかったが間に合った。


 暴虐と関わり合いになりたくなくて、これまで黙っていたが、俺のせいで右京が怪我しそうとならば、流石に見過ごせない。


 俺の口からだらだらと、血が垂れていく。


 しかし俺は、そんなことを気にも留めず顔を上げ、矢沢をしっかりと見つめている。


 矢沢が殴られてもひるみもしない俺の姿を見て、後退あとずさりしたのが分かると俺は――




「ギャアアアアアアアア! イテェエエエエエエ――ッ! 誰か、いや大和川先生――ッ。この人、この人に殴られましたアアアアアア」





 ――床にぶっ倒れ、大声で助けを呼んだ。



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書き忘れていたんですけど、ここから後の話は全て変わると思います…


本当に無計画ですいません。

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