第2話 体当たりって‥小学生かよ
六月十日。
俺は遅刻の危機に
「あひぃ、あひぃ。も、もう無理」
俺は体力の限界を迎えながらも体に
(決死の気持ちで学校まで来れたんだ。ここで倒れてなるものか……)
階段の手すりに体重の半分を任せつつ、歩を進める。
俺がこんなしんどい思いをしないといけなくなった原因は、それもこれもそう今朝の出来事のせいだ。
命を張り美少女を助けたかと思えば、その美少女に社会の扉解放を指摘され、その上全力で逃げられた。
俺のメンタルは八十代の肌のようにボロボロだ。
(メインヒロインをやっとこさ見つけたと思ったのに……)
更にその事件の後遺症である擦りむけた右膝。地面に踏み込むたびにキシキシと痛んで、歩くのが難しい。
そのせいで高校まで来るのに普段の二倍近くかかってしまった。……足痛い。
精神と物理ダメージのダブルコンボ。俺のライフポイントはゼロどころか、マイナスを切り始めている。
「クソ、もう二度と、ジッパーのついたズボン、履か、ねぇ……」
泣き言を言っても歩は進まない、とわかっていながらも言わずにはいられない。
ドコッ
「…………」
さっきから俺の横を生徒が全速力で走りかけていた。俺以外の遅刻危機者だろう。
ドコッ
……別に良い。俺を無視して階段を駆け上るのは別に良いんだ。
ドコッ
だって、遅刻の危機なんだからほかの人のことを心配している暇はないだろうし。
ドコッ
でもさぁ、明らか足を汚している俺に対して、わざとぶつかりにくる奴らはなんなんだ。ここの階段広いし、俺邪魔にならないよう端っこ寄ってるのになんでわざわざぶつかってくんだよ。
俺はわざとぶつかってきたと思われる男子生徒に目を移すと、その犯人はにやけながらお友達とこちらを見ていた。
俺の無様な姿を見て、笑い物にしているらしい。気色悪い。
「ふぅ、ふぅ。イッテェ」
「何してんの」
思わず声がした方向へ振り返ると、そこには踊り場でその場駆け足をしながら、冷ややかな視線を送る女子生徒。
前髪は顔を覆いつくすほどに長く、その上にメガネをかけるという前衛的な格好。声だけは綺麗な不審者。
俺はこいつを知っている。
「……ウミウシか」
「ウミウシって呼ぶな。クソニート」
こいつの名前は
見た目は気が弱そうな女子なのに、内面は
苗字で呼ぶと長いし、下の名前は「
ちなみに俺の名前は
「で、何やってんの? プロレスラーごっこ?」
「違う。あいつらがなんか体当たりしてくんだよ」
「なるほど。いつも通りだ」
「嫌ないつも通りだよ。全く。こっちは怪我して、階段登るのキツいってのに」
俺がそういうと、ウミウシはポッケらスマホを取り出し時間を確認した。
「あ、やばい。遅刻する。ニートも走んなよ。遅刻するぞ」
「だから、足怪我してて、走れねぇんだよ。このままじゃ無遅刻無欠席という俺の輝かしい栄誉に傷がついてしまう」
俺は呼吸を
「そこでだな。友達としてお願いが――」
「あー遅刻するー」
ウミウシは俺の言葉の先を待たずに、階段を走り抜けていった。
「おい! 少しぐらい俺の話を聞いてくれよ!」
上の階層からウミウシの声はなかった。どうやらもう、階段を登り切り、俺の声が届かないところまで行ったらしい。クソ……あのアマァ。
いやまずい。まずいぞ。ここまで来て遅刻とか嫌すぎる。
俺は再度手すりに体重を預け、歩き出す。
「いっ!」
心なしか右足の痛みが強まっている気がする。いや、傷ついた右足を酷使したら痛みがひどくなるのは当たり前か。
だがそれも後少しの
「もう一踏ん張りだ!」
俺は気合いを入れるため、声を出して自分に
――ピーンポーンパーンポーンピンポーンパーンポーン♪
と、同時に鳴るチャイム。
こういう変に希望を持った瞬間、殺すのなんなんですかね。まぁ、とりあえず。
「終わった。先生に殺される」
俺はそのまま階段にゆっくり崩れ落ちた。
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この男が学校に来る前に、何があったかは是非、番外編をご覧ください。
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