番外編 ある朝のゲスの脳
俺は彼女を再度見た。
――大当たりだぜエエエエエエエエっ!
俺は心の中で俺はゲス笑いを浮かべながら、雄叫びをあげる。
白髪、紅瞳、超美少女。この三コンボが揃っている役満女子なんていないと思っていたが……いるっ! しかも目の前に!
そして、その役満美少女が俺に惚れたっ!
羞恥で染まった頬、耳。そして多分、好意を持ちすぎて目の中にハートが入ってる(気がする)し、俺を完全にロックオンしてる(気がする)!
これは「惚れてる」っっ!!!
いやー、まぁそれもしょうがないかぁ。なんてったって妹を助けた救世主。しかも、その救世主様のこの紳士ぶりっ! 惚れる! 俺でも惚れる!
やっぱり偉大だ"
よし。そろそろ仕上げに入るか。
「ゆっくりで良いから、何か僕に頼み事でも?」
まぁ、言われなくてもわかってるけど。電話番号でしょ? 任せなさい。スマホがある位置は把握してるし、交換の方法も勉強済み。
レイン交換も対策済みだ。戸惑わずにすぐに対処できる。
レインの友達交換の方法が分からず、相手に教えてもらうあの
練習した超高速フルフルで三秒で友達になってやるぜ。
今の俺に隙はない! ドンっとかかってこいっ!
俺はすぐに取り出せるように、スマホの入っている右ポッケに片手を添えた。
「顔真っ赤だけど大丈夫? 熱?」
俺がそう言うと、彼女は耐えきれないとばかりに目線を逸らし早口で言う。
「ち、違いますっ。だ、だびじょうぶですので!」
「そっか。良かった」
「……」
彼女の顔の熱はまだ覚めず、火照りすぎて頭から蒸気を出しているようにさえ見えた。
ハハハハハハハッ!! なんてわかりやすい惚れサインなんだ! 残念だったなぁヒロインA。俺は鈍感系じゃない。俺にベタ惚れしてる君の心なんてモロ見え!
きっとそう。彼女は今こう考えている。
何っ……この人の顔が見れない。お礼しなきゃならないのに……。胸もドクンドクンって鳴り止まない。こんなこと初めて……もしかしてこれが……
――――恋?
初恋……頂いちゃいましたか。まったく罪な男だ、俺。
だが、ここだ。ここで追い打ちをかける。彼女の心をフルスロットルにさせるのだ!
俺はスマホを取り出し、時間を確認するふりをする。
「あっ。すいません。時間が……もう行くね」
ここであえて相手を待たずに相手を急かす。押してダメなら引いてみろ、ならぬ押して良かったら引いたら効果抜群やろ作戦。
あとこれは俺の思う最悪のパターンを消す対策でもある。
ないとは思うが、考えた末、連絡先を交換しないという結論を出したらまずい。
俺があえて彼女を急かすことで、考える暇を無くし、連絡先を交換すると言う選択肢以外を考えさせない。
危険な芽は摘んでおくに限る。
本当は時間には全然余裕があるのだが、嘘をつかせてもらおう。
俺は立ち上がり、ヒロインAと真反対にゆっくり歩き出す。
「……あ」
しかし、ここまでやっても失敗というのは可能性として僅かながらある。彼女が声をかけてくれなければ、そこで終了。呼び止めてくれれば、連絡先交換の成功は確実。
ここからは彼女次第だ……
俺の足はどんどんと彼女へと真反対へと突き進む。
立ち止まるのは流石に怪しすぎる。嫌でも歩くしかない。
お願い。呼び止めて止めて止めて。頼む頼む頼む……
「まっ待ってください! 言っておきたいことが!」
ヨシャアアアアアアアアアアア!
俺は心の中でガッツポーズをした。
よく勇気を出した、将来の妻よ。俺は信じていたぞ。君はできる子だって信じてた!
それにしてもここまでうまくいくとは、やはり女キラー
俺は再度振り返り、立ち止まる。今度は近づかず、距離を取ったまま。微笑みを浮かべながら、彼女に優しく問いかけた。
「……どうしたの? やっぱり熱が?」
「それは……大丈夫なんですけど」
「……ん?」
「えっと、その」
彼女は頬を染めながら、しきりに右手で左の肘を撫でていた。
いやぁ、これは誰がどう見ても告白現場だな。
はっ! もしかして……彼女は電話番号超えて告白する気などでは?
気が早いような気がするけれど、彼女の勇気に応えないわけにはいかない。参っちまうな。俺今日から彼女持ちか……
自分の計画の大成功を確信し、俺は歓喜に打ち震える。心の中では既にこの娘との高校生活を想像していた。
ショッピングに遊園地、夏ならプールもいい。そして極め付けは、二人きりの旅行。親のいない恋人だけの旅行。何も起きないはずがなく……むふふ。なんにせよ――
「……あ」
――俺の花の高校生活が今、始まるのだ!
「した、アイテマス」
「…………へ?」
俺は固まる。
ん? 今、彼女はなんて言った?
俺は彼女の言葉を意図を汲み取るべく、高速で脳を動かす。
シタ? アイテル? シタ……アイテル……
下、空いてるっ?!!
俺は目線を自分のズボンへと移す。
モロ見えだった。俺の赤色の布がモロ見えだった。
助けた少女も俺のことを汚物かのような目で見ていた。
「えっと、あの」
「ひ、ひぃッッ!」
「え」
少し近付くと、彼女は悲鳴を上げた。
「…………」
「あ、ごめんなさいっ」
彼女は謝っているが、その隣の少女はずっと敵意丸出しで俺を睨みつづけている。殺しそうな勢いだ。
あれ、俺はこの女の子を命がけで救ったのでは? 何故、こんなに敵意が……?
「そんな目で見ないの。一応、助けてくれた人なんだから」
「一応……」
それに気づいた彼女は小さい声で少女に
一応………………?
「えっと、ありがとうございました。それではっ」
「えっ、ちょっ!」
俺の静止を聞かず、彼女は足早に俺の反対方向へと駆けて行った。まるで俺から逃げるかのように早足で歩いて行った。いやまるでと言うか、早足で俺から逃げた。
そして、俺はぽつんと一人交差点に残された。
俺は状況の起伏に脳がショートし、考える力を失ってしまった。イマイチ状況について行けてなかった俺だが、時が経つごとに状況を飲み込み始める。
俺はさっきまで彼女の救世主だった。
……何故、彼女に凄いスピードで逃げられたのだろう。
いや、やっぱりだめだ。状況に何より気持ちが追いつかない……
俺はズボンのチャックを閉めながら、考える。
何故、近づかないでと言われたのだろう。
何故、助けた少女にあんな目を向けられなくてはならないのだろう。
「ちょっと……パンツ見えちゃっただけじゃん……」
じわりと涙腺が緩む。
命を張ってこの仕打ち……
なんだろう……この胸の痛みは……この気持ちは……
顔を上にあげれない、学校行かなきゃならないのに……。胸と足がドクンドクンと痛い。もしかして、これが―――――――――――恋?
「んなわけあるかアアアアアア! ボケエエエエエエエエエエエエエエエエッッ!!」
俺の咆哮は交差点で酷く響き渡った。
花の高校生活という俺の理想は数秒にしてバキバキに砕け散ったのだった。
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