第62話 ソウマ、出陣

 旧王は振り上げた大剣を、力強い雄叫びと共に地面に叩き付ける。その瞬間辺り一帯を大きな地震が襲い、建物もそれによって揺れて土煙を発生させる。起きた煙は空を飛ぶアイリンを襲い、アイリンは砂が口に入り激しくむせてしまう。


「ゲホッ……気をつけてよね、マジで……」


 やがて土煙は収まり、アイリンはそれを見てクラウノス旧王の下へ降りる。しかし彼はアイリンの呼びかけにも反応せず、ただただ固まっている。アイリンはそれを受け、恐る恐る首筋に指を当てる。


「……ソウマ。彼、死んでしまったよ」

「……そうか。お疲れさま、クラウノス」

「父上!」


 ダンテは旧王の下へ駆け寄り、その遺体にしがみつく。


「父の勇姿、しかと見届けました。このダンテ、父上が命を掛けて守った世界を必ずや良い方向に導いて見せます。ですのでどうか、空から我を応援していてくださいませ……」


 必死に涙を堪えているのが声の震えで分かる。それからダンテは遺体をそっと寝かせ、瞼を閉ざして持ち上げる。


「我は父の遺体を処理してくる、お前達は応接間で休むが良い。城内の状況確認が終わり次第個室を手配する故、それまでそこで固まっておいてくれ」


 亡骸を抱えて城の中へ戻るダンテ。彼の背中を見た私達は何も言えずにいた。しかし――


「みんなまずい! ハモンの奴まだ生きてるよ!」


 アイリンのこの発言で再び振り返る。するとそこには、禍々しい黒い外皮がボロボロに砕け、元の形に戻ろうとするハモンの姿があった。


「……やられた。まさかあの剣には生物の変体を解除し、元の姿へ戻す効果があったとはな。しかも……ああクソ、手足がしびれて、思うように動かない!」


 悪態をつくハモンに向かって、ソウマさんはゆっくり歩き出す。ふと私の左腕を見ると、すっかり元通りになっている事に気づく


「トドメは俺が刺そう」

「!!」

「親友の仇は俺がとる。それに、今までお前達に任せっぱなしだったからな。最後くらい俺がやるさ」

「お願いします。私達の旅の最後に、貴方の勇姿を間近で見せてください」


 ソウマさんはフッと笑い、手の平から液体金属の塊を出す。


 ハモンは顔を上げ、『血界』と唱えて血の槍を飛ばす。それに対しソウマさんは液体金属の壁を作って防ごうとするも、槍は壁を突き抜ける。最終的にソウマさんは槍をつかみ、壁を避け高速移動してハモンとの距離を詰める。


「優れた魔術師は近接戦闘に弱い! ゼロ距離で戦いを挑めば、思うように動けずにリードを取れるはずだ!」


 至近距離で槍を振り回し、ハモンを圧倒するソウマさん。しかしある瞬間槍は溶けて無くなり、その隙にハモンは血で剣を作りソウマさんに刺そうとする。しかしソウマさんは頭突きをしてハモンの体勢を崩し、液体金属で刀を作り胴体を袈裟斬りにする。


 ハモンの体からは黒い血液があふれ出し、それがソウマさんの顔にかかるとその皮膚を溶かしてしまう。


「ソウマさん!」

「フン、やっと被弾したか。私を傷つける愚か者には、私の血液に含まれる強酸による激痛を持って報いてや――る?」


 ソウマさんは微動だにしない。刀を強く握り、ソウマさんは再びハモンに斬りかかる。しかし既に距離を取っていたハモンは血界を唱えて地面から無数の血の槍を出現させる。ソウマさんは液体金属を足場にして高く飛び、地面から伸びてくる槍を身を翻して避けたあと「飛ぶ斬撃」を放ち伸びてきた槍をことごとく折る。


 地面に降りてきたソウマさんを見るハモンの目は、憎悪に満ちていた。


「なんで避けられるんだよ! 私の血界は血界以外で防ぐことが出来ない必中必殺の魔法! その時点で、お前に対して絶対的な有利を取れているはずなのに!」

「有利を取れていることだけが勝因にはならない。それまでしてきた努力と、現場で起こる奇跡をどれほど味方に出来るか。それが勝負の行方を決定する」

「ふ、ふふふ……奇跡だと? 馬鹿なことを言う。ならコイツでどうだ!」


 ハモンは両手を合わせて血の銃弾を八発撃つ。狙いはソウマさんではなく、私だ。


「貴様! ソウマとのタイマン中にスイを狙うとは卑怯だぞ!」

「フハハハ! アイリン様では彼女を守れまい! なにせ誰かを守るための血界は教えてませんからな! 私と同じ、夢を失う苦痛を味わうが良い!」


 血の銃弾の速度は、彗星拳による迎撃は間に合わないだろうと思うほどに早い。ここまでかと思われたその時……

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