第59話 始祖の勇者、再び立つ

「――ソウマさん?」

「これ、大分血を持って行かれるな……破龍族しか使えないって言われるのも、道理だ」


 ソウマさんの顔の血色がかなり悪くなっており、意識が不安定なのか足取りもおぼつかなくなっている。


「大丈夫ですか!? ここから先は私が背負っても――」

「心配するな、お前は前進することだけ考えろ。俺は、なんとしてもこの戦いに最後まで立ち会いたいんだ」

「……わかりました。では進みましょう」


 後方でふらつきながら歩く彼から目を背け、前に向けて走り出す。階段を上る最中にも兵士の波に襲われたが、関節二つ分の彗星拳を連打する事で何なく突破することが出来た。


 階段を登りきった私達は周囲を観察し、敵がいないのを確認して療養室の扉を開ける。その中に居たのは、こめかみに指を当てて座っているタイガの姿だった。


「タイガ!? 捕まってたって聞いてたんだけど!」

「アンタら二人が地上で騒ぎを起こしてくれたお陰で脱出できた。ダンテも連れて来たはずだが、途中で姿が消えちまった。申し訳ない」

「ダンテさんの居場所は分かる?」

「今調べてる最中が……よし、分かったぞ。王の間の裏口を上った先にあるバルコニーに、一人の破龍族と共にいる。しかし何だこの魔力は……アイリンの物とは桁違いに邪悪な魔力を放ってやがる。心当たりはないか? 二人とも」

「ハモンの物だろうな。このままだと間違いなくダンテは殺されちまう、が――」


 ソウマさんは咄嗟にドアを金属で強化する。ドアを挟んだ向こう側にいる兵士はドアを槍で突いたり銃で撃ったりしている。しかしドアは一向に壊れる気配がない。


「壊れる気配はなさそうだ。よし、今の内に先に進むぞ」

「先に進むって、どうやって?」

「オレの魔法には物を砂に変える能力がある。この療養室の直下には王の間があるから、床を砂に変えてそこへ落ちる。着地は頼んだぞソウマ。それとここのドアの強化は維持してくれ」

「わかった。じゃあ早速やってくれ」


 彼は私達を自分の傍に集め、錫杖で地面を叩いて床全体を砂に変える。すぐに私達は落下するが、着地する瞬間、彼の金属が下敷きになって着地の衝撃を和らげる。


 王の間は照明が点いていないせいか暗く、従業員達もどこかへ消えてしまっている。


「さて、裏口ってのはどこにあるんだ? タイガ」

「今探してるところだ、アンタ達は照明のスイッチを――」


 突然王の間の扉が開く、振り返ると、そこにはアイリンと――覇王剣を肩に担いだクラウノス旧王がいた。


「クラウノス!? お前寝たきりじゃなかったのかよ!」

「おう。もう二度と立てないはずだったのだが、この子が儂を救ってくれたのだ」

「アイリンが……? お前、こいつに何をした?」

「クラウノス王にはね、不死の魔法が掛けられていたんだ。だからその魔法をいじくって、不死で無くなるに全盛期の力を引き出せるようにしたのさ」

「……クラウノス、お前はそれでいいのか?」

「ああいいとも。それとソウマ、一つ謝罪をさせてくれ」


 クラウノス旧王は剣を置いてソウマさんの目の前に立ち、頭を深々と下げる。


「先刻は情けない姿を見せてすまなかった。だが城内で謀反が起きたとき、儂はもう一度勇者として立たねばならぬと感じたのだ。その時丁度この小娘が儂の部屋に入ってきたので、戦える様にして欲しいと頼んだ」

「彼は戦いが終わると死ぬ。でも死んでも良いと思ってるんだって。理由は何?」

「誰の記憶にも残らぬまま死ぬのが怖いだけだ。だが今ここで貴様らと共に戦えば、世界のために戦った勇者として後世に語られる。その為に死ねるなら本望だと思ったまでよ」

「なら良し。それじゃ、三百年前のリベンジといこうか」


 クラウノス旧王が剣を拾うと同時に、扉を開けて大勢の兵士がなだれ込む。クラウノス旧王がその兵士達を一睨みすると、兵士達は立ち止まって後ずさりする。


(これがかの『死を知らぬ戦士王』の覇気か! 背後に居る私もゾッとする程の凄い気迫だ)


 私の目の前には今、伝説の勇者が二人立ちはだかっている。大勢の敵を前に仁王立ちするその姿からは、伝説はそこにいると強く感じて仕舞うほどの神々しさを感じる。


「この場は儂とソウマが請け負おう。ハモンは屋上で我が息子と共に貴様らを待っている。くれぐれも、息子の事は頼んだぞ」

「は、はい! お任せください!」

「バルコニーへは玉座の真後ろにある扉を通っていける。さあ行け! 新時代の勇者!」


 二人が兵士の群れに飛びかかると、すぐに轟音と爆風が部屋中に拡散する。伝説の勇者達の戦いを見ていたい気持ちを抑え、私とアイリンは非常階段を駆け上がっていくのだった。

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