第58話 波乱の城内へ、再び

 ソウマさんが話をし終える頃には既に私達は洞窟を抜けていて、まぶしい日差しが私の顔に降り注ぐ。手で日光を防ぐ私を気にも留めず、ソウマさんはバイクにガソリンを入れている。


「ごめんなさい生き延びてしまって。私があそこで死んでいれば、貴方はハモンと共に成功者になれたはずなのに」

「俺はハモンを信じられない。アイツはなんか、事が済めば俺の事なんか斬って捨てそうな感じがしたんだ。だから俺はお前に生きてて欲しかったんだよ」

「……まあ、アイツの言う事が信じられないのはわかります」

「とにかく、お前はこうして生きていてくれた。なら俺がやることは一つだ」


 ガソリンの補充を終えたソウマさんは容器を捨て、エンジンを掛ける。


「ダンテとタイガを救出し、ハモンを含めた破龍族を全員倒す。やることはかなり多いが、政府を奪還するにはこうするしかない。覚悟を決めろよスイ、これが最後の戦いだぞ」

「覚悟なら、あの破龍族を殺したときからとっくに出来ています。早速向かいましょう」


 彼はベッドから私の体を抱き上げ、バイクの後部座席に乗せて走り出す。ベッドから体が離れた今でも、傷が癒えていく感覚は続いている。運転しているソウマさんの体をギュッと抱きしめられる位には力が戻ってきて、この調子で行けば向こうに着く頃には魔力も体力も全回復してそうだ。


 バイクに乗り込んですぐはお互い一言も喋らずにいた。しかしふと、かねてから疑問だったある事柄を思いだし、ソウマさんにこの質問を投げかけることにする。


「ソウマさん、貴方はアイリンについてどう思っていますか?」

「どう、というと?」

「彼女は、貴方の仲間を殺した魔獣をセントラルに連れてきた元凶じゃないですか。先ほど彼女との仲は良くも悪くもないと言っていましたが、あの事実が発覚した時、貴方は彼女の事を嫌いにならなかったのですか?」

「そのことか。そうだな……嫌いになったというか、可哀想だなって思った」

「可哀想、ですか」

「ああ。魔獣は自我を持っているって聞いたろ? そいつらが犯した罪を全部背負わされ、あまつさえ魔王だなんて呼ばれている。誰かを害してやろうという悪意などなく、ただ誰かに愛して欲しくて彼女はここまで来ている。なのにこれは余りにも酷い仕打ちだと思ったんだ」

「そうでしたか。実は、心の底では彼女の事思いっきり嫌悪しているんじゃないかと心配していたんです。でもそんな事はなかったみたいで、とても安心しました」

「俺は恨んでいるのは獣であって魔王じゃない。お前が魔王でなく偽勇者を恨むようにな」

「なるほど、凄くわかりやすいです」


 それから程なくして私達は再び王城の下にたどり着く。バイクを降りた私は、予想通り万全の状態で立てている。


「俺はお前の戦いをサポートする。背中は俺に任せて、お前は前だけ見て走れ」

「わかりました。扉の前には大量の兵士が待ち構えているでしょう、なので私が強引に道を切り開きます、下がって!」


 関節三つに魔力を集め、勢いよく抜刀して斬撃を飛ばす。するとその斬撃によって城門が吹き飛び、散らばった門の破片によって門前で待機していた数十名の兵士が消滅する。そのまま城内に突入し、まずはクラウノス旧王の様子を見に療養室へ向かうことに決める。


 しかし療養室に行くための階段はエントランスからかなり遠く、さらにその道を塞ぐように破龍族の兵士が大量に配置されている。


「どうしますこれ!? 一歩も前に勧めませんけど!」

「さっき門を壊したあの技、もう一回いけそうか?」

「ダメです! ここで撃ったら城が崩れてしまいます! 彗星拳も同じ理由で不可能かと!」


「そうか。なら一瞬だけ前に出させて貰うぞ!」


 彼は私を押しのけて前に出て、両手を合わせて地面に大きな魔方陣を出す。その赤い魔方陣からはアイリンと同じ、血の混じった魔力の気配を感じる。


「話で聞いただけだが、術式はなんとなく分かる。故に! 『血界・死屍累々』!」


 呪文を唱えると同時に、前方の上下左右の壁から無数の血の槍が飛び出しその場に居た兵士達の体を思いっきり貫く。弱点ごとその身を貫かれた兵士はみるみる内に溶けていき、上階から降りてきた兵団もその様子を見て萎縮してしまった様子。


「相手はビビってる! 今の内に進みましょう――ソウマさん?」

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