第22話 『タイガ・ロゴス』

 顔を上げると、そこにはターバンにポンチョという独特な服装をした青年がいた。青年は持っている錫杖を地面に軽く突く。すると私の身体は淡い光に包まれ、それに伴って全身の痛みが徐々に引いていくのが分かる。


「コレは、治癒魔法?」

「魔法で自分の体を治されるのは初めてか? まあ無理もない。治癒魔法は現状、オレ達蛇華族しか使えない高等魔法だからな。だが、そんな蛇華族の中でも特にオレの魔法は特別だ! その証拠にほら、もう全快しただろう?」

「……本当だ、もう立てるし歩けるぞ!」

「本当!? ねえねえ、僕にもその魔法掛けてよ!」

「無論だ客人達。アンタ達には万全の状態で話をしてもらいたいからな」


 アイリンの身体も数秒ほど淡い光に包まれる。光が切れた直後、彼女は勢いよく立ち上がって機嫌良さそうに踊り出す。


「たった数秒で一日半にも渡る旅の疲れを完全に治すなんて。貴方、何者?」


 青年は満面の笑みを浮かべて指を鳴らす。


「待ってましたその質問! オレはタイガ・ロゴス。世界最高の魔術師と呼ばれた現蛇華族長の一人息子で、ソウマに届いたであろう手紙の送り主だ! そう言うアンタは、彗星族か?」

「貴方も私の髪が青色に見えるの?」

「変な言い方するな。それが青じゃなきゃなんだと言うんだ」

「いや、今まで誰にもそう見られたことなかったから。うれしい」

「……難儀な一族だな。まあいいや、ところでソウマはどこ行った?」

「ソウマなら君を探しにどっか行っちゃったよ」

「そうか、じゃあ先に待ち合わせ場所に向かうとしよう。ついてこい、この村で最も栄えてる場所へ案内しよう」


 タイガは私達に背を向けて歩き出し、アイリンと私も彼の後に付いていく。ただ、向かう先はもう分かっていた。村に入ってすぐ、三階建てはあろう大きな建物が見えていたからだ。恐らくそこが彼の目的地。そう言う私の予想通り、タイガはその建物の扉の前で立ち止まる。


「ここは公民館。族長が世界中を旅して集めた資料を収めた図書館があったり、怪我人や病人の治療をする病院もあったりするぞ」

「街中のインフラが全部ここに詰まってるんだ……」

「話し合いは会議室で行う。確か……二階の奥だったかな? まあ、行けばわかるか」


 引き続きタイガの後を追って建物の中に入る。タイガの予想通り会議室は二階の右奥に位置しており、ドアを開けると二つの長机と四脚のパイプ椅子があった。


「連れはアンタらとソウマだけだよな? もし他に居るなら椅子を増やすが」

「大丈夫。座って良いかな?」

「逆に何でアンタらさっさと座らないんだ? 遠慮なんかするなよ」


 私とアイリンは各々椅子を引いて座り、タイガも乱雑に座る。その直後、息を切らしたソウマさんが会議室に入ってくる。


「と、とりあえず被害状況だけ確認してきたぞ。死者は居ないが、重軽傷者が十五人ほどいる。医務室への誘導は済ませたが、医者達はこの数を一気に捌けそうか?」

「今日は二人態勢の日だ、少し無理があるだろうな。ソウマ、こっちはこっちで進めてるから、医者達のことサポートしてやってくれないか?」

「わかった。スイ、アイリン、しっかり頼んだぞ」


 再びソウマさんはどこかへ向けて走って行く。


「本題に入ろう。まずは名前を聞かせてくれ」

「私はスイ・トニック。そしてこっちの白髪の女の子がゼノ・アイリン」

「スイ、アンタはどうやってオレ達の問題を解決してくれるんだ?」


 私はタイガに自分の能力について詳しく話す。


「ふーん、じゃあオレの名前は出会ってすぐに把握してたって事か」

「うん。なんなら襲われてた村人の名前も、この施設に行くまでにすれ違った人の名前も全部頭に入ってる」

「なるほど、じゃあ言ってみてくれよ」


 覚えてる限りの名前を、記憶を頼りにいくつも声に出してみる。


「凄いな。アンタが言った名前、全部村民名簿にあるぞ。これなら、アンタの能力を信用してもよさそうだ」

「よかった。ところで、貴方の母親の名前ってどうして必要なの?」

「……それはここでは言えない。アイリンと言ったな、これから彼女に仕事をして貰うから、一旦席を外してくれないか?」

「じゃあ僕は図書室行ってくる。スイ、頑張ってね!」


 アイリンは席を立ち、私に向けて手を振ったのち会議室を後にする。

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