第2章:砂の皇子と滅びの獣
第21話 相も変わらず勇者達は
気がつくと、既に朝になっていた。アイリンに身体を揺すられて起きた私は、寝起きという事もあって何が起きたか理解出来ずに居る。
「やっと起きてくれた! いくら強く揺すっても起きないんだから、まさか死んじゃったのかと思って焦ったよ」
「へ? 私、寝てた?」
「そうだよ! スイったら会話してる最中に突然寝ちゃってさ。ソウマもビックリしてたよ、何かしてる最中に入眠する奴なんか初めて見たってね」
「あぁ、どうりて身体の調子が良いわけだ。どこも痛まないし軽いぞ! 今なら空だって飛べちゃいそう!」
「そんなに良いんだ! なら今日の旅、上手いこと行きそうだね!」
「……だといいね」
それから私達は朝食を取り、目的地までの道のりを共有してから乗馬して移動を開始する。移動時間は三十六時間ほどで、間に三十分の休憩を四回挟む段取りとなっている。とはいえ八時間連続で乗馬し続ける事の疲労は凄まじく、三回目の休憩を迎える頃には三人とも喋る気力を無くしていた。
四回目の移動中、体力がそこを尽きかけたその時――目の前に村の影が見え、興奮のあまり私は彼等を置いて馬を全速力で走らせる。
「ま、まて! 俺が先に入らないと意味が無いんだ!」
過労のあまり、その言葉の意味を全く解せなかった。さらに馬を加速させる。影が晴れ、村の形が明瞭に見えてくると同時に――村中から聞こえてくる悲鳴と怒号を聞いた。
それに気づいた瞬間、私は手綱から手を放して抜剣する。両足に激しい負担が掛かるが、そんな物は気にならない。今は、さっさとみんなを助けるのだ。
開けっぱなしになった門を通って村に入ると、すぐに村人を恫喝する二人の男が見えた。片手で手綱を引いて軌道を調整し、私はすれ違いざまに一人の男の首を切り落とす。
「て、敵襲! 敵襲だ!!」
私は馬から飛び降りる。馬自体は民家の壁にぶつかる寸前で消滅したが、鞍だけは消滅せずに壁に大きな音を立ててぶつかる。
程なくして村中に散らばっていた四人の男が集結し、私の周りを円状に囲う。しかし、その間も片割れの男から目を離さず、包囲が完了すると私は無言でそいつに近づいていく。
「来るな! 来るなって!!」
男が放つ蹴りに対応できず、みぞおちに強めの蹴りを食らってしまう。数歩後ろによろけて倒れてしまい、それを好機と見た男が倒れる私に近づいて首を絞めてきた。
「へっ、俺達の邪魔しようとするからこうなるんだ。そら、首の骨が折れちまうぞ――」
私は一瞬の隙を突いて男の脇腹を殴って立ち上がり、腹を押さえて倒れる男の首を刎ねた。返り血が顔に付くも、それを意にも介さず他の男達へ睨みを利かせる。
すっかり恐れを成したのか、男達は武器を地面に落として土下座をする。私は剣についた血を払い、私の背後に居た男に近づいて刀身を肩に乗せる。
「奪った宝を地面に置け。一つ残らず全部な」
「お、俺達は持ってない。お前が殺したあの二人が持ってる」
「目が泳いでるな。さては嘘をついたな? よし、今すぐ刎ねてやろう」
「わかった! 出すから、出すから殺さないでくれ!」
三人は一斉に懐から複数個の小袋を取り出して地面に放り投げる。
「こ、コレで全部だ! 足りない分は二人の懐をまさぐって取ってくれ」
「武器も捨てろ」
目の前に居る男は拳銃とナイフ、そしてメリケンサックを取り出し地面に放り投げる。
「他の奴はただの荷物持ちで、武器を携帯してない。本当だ信じてくれ!」
「……よし、心から出て来た本音だな。さっさとどっか行っちまえ、お前らの顔なんか金輪際二度と見たくない」
三人は慌てて門を通って外に出て行く。直後、ソウマさんとアイリンが村に入ってくる。そして辺りの惨状を見渡し、私と目が合うとすぐに駆け寄ってくる。
「死体二つに逃走者三人、こいつらはこの村を襲撃していて、お前がそいつらの始末をしたって事で間違いないよな?」
「はい、私がやりました」
「そうか、ありがとう。とりあえず俺は事件の後処理と秘書への挨拶を済ませてくる。アイリン、スイの事を頼んだぞ」
「う、うん!」
ソウマさんは私に背を向け、村の奥に向かって駆け出していく。それを見送った直後、私は全身に力が入らなくなりその場に倒れてしまう。
「大丈夫!?」
「大丈夫じゃない、とってもしんどい。手足が動かないし、ビリビリ痛む。それに首も激しく痛んでるし、端的に言って死にそう」
「そんな事言わずに頑張ってよスイ――」
「その子の事はオレに任せて貰おう」
顔を上げると、そこにはターバンにポンチョという独特な服装をした青年がいた。
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