第18話 余談(風呂)
草原を歩き始めてしばらく経つ。すると、突然ソウマさんは立ち止まる。
「ここら辺で良いだろ。お前ら目ぇ閉じてろ、砂粒を大量に瞼に巻き込む羽目になるぞ」
ソウマさんは一個の小さな爆弾を懐から取り出す。垂れ下がる導火線に火をつけたそれを遠く投げると、轟音と爆風を伴った爆発が起きる。
巻き起こった土煙が晴れると、そこには昨日までいたあのキャンプ場の景色があった。
「ここ、昨日までいた拠点じゃないですか! 一体どうやって……」
「あの拠点はこの爆弾で出すモノでね。こいつは俺の研究で偶然生み出された、魔道具と呼ばれる道具の一つだ」
「え、じゃあ昨日までいたあの拠点はそのまんま放置するんですか?」
「違う、あの爆弾は錨を降ろす為の道具だ。錨が打ち込まれた土地の一部は、錨が回収されるまでの間だけあのキャンプ場へ変化する。気づかなかっただろうが、真人間に対する視覚的、聴覚的ジャミング効果も備えてある。だから、安心してはしゃぐと良い」
私は拠点の中に足を踏み入れ、深呼吸を一回する。
(今日はいろんな事があった。もう二度と、ここへは戻れないんだと嘆いたこともあった。でも、何とか踏みとどまったお陰で戻って来れたぞ! 凄く気分が良い!)
「俺は先に夕飯を作る、お前らは先に風呂でも入ってろ。それと、これからの旅路を加味してシャワー室に浴槽を追加しておいた。二人仲良く浸かるんだぞ」
「やったー! ありがとうソウマ! じゃ早速入ってくるね!」
「あっ! 抜け駆けはダメ! 私も一緒に風呂に入るからね!」
浴室に向かって走り出すリュウ、そしてそんな彼女の背を追いかける私。元気に風呂場へ入っていく私たちの姿を、彼は笑顔で見送っている気がした。
浴室に入った私達はお互いの髪と身体を洗い、それが終わると浴槽へ同時に飛び込んだ。しかし……。
「「あっっつ!!!」」
あまりにも熱すぎる。思わず風呂の中に溶岩が入っているんじゃないかと錯覚するほどに。リュウは裸のまま外に飛び出してしまい、私はシャワーを足に当てて熱を冷ましている。
程なくして、リュウはこぶし大の氷を十個ほど持って戻ってくる。それを湯の中に入れるとようやく丁度いい温度になった。
手を入れて温度を確認した後、今度は右足から慎重に浴槽に入る。問題ないことをお互い頷いて確認すると、一気に身体を入れる。実に五年ぶりの風呂だ、その気持ち良さに少し涙が出てしまう。
「もしかして、風呂に浸かるの久しぶり?」
「そうだね。旅してた時は出来て冷水シャワーぐらいだったからさ」
放つ言葉は普通でも、身体はもうとろけきっている。全身に力が入らず、指一本とて動かすことが出来なくなっている。
「わかるよ、今日凄く疲れたよね。でも浸かりすぎると脱水症状になるから注意ね」
「そんな、脱水はヤバい!」
「あぁごめん! 脅かす気は無かったんだ。というか口の筋肉が麻痺してきた……ちょっとだけ……くつろぐとしよう……」
言葉通り、それからは二人とも無言でくつろいでいた。しばらくして心に余裕が戻ってきた頃、ふと、リュウに聞きたいことがあったのを思いだす。
「気になっていたんだけどさ。リュウとソウマさんってどんな風に出会ったの?」
「聞きたい? じゃあ話してあげる。いくら風呂が気持ちいいからって寝るんじゃないぞ?」
リュウは顔を上げ、私の目を見て話し出す。
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