第17話 「蒼剣」

 しばらく歩いて目的地に到着すると、私に気づいたリュウが駆け寄ってくる。


「ど、どう? 落ち着いた?」

「うん、ついでに街に寄って過去とのケリも付けてきた。心配掛けてごめんね」

「ごめんはこっちの方だ。すまない、俺が墓を掘り起こしたばっかりに」

「お気になさらず、両親以外の彗星族のことは嫌いなので。というかいい気味ですね。元々人間だったのに、人間に良いように使われる道具として生まれ変わるなんて。自分たちが馬鹿にしてきた少女に使われる屈辱を味合わせようとも思いましたが、まあ見逃してあげましょう」

「そ、そうか」

「ギドさん、申し訳ありませんがその剣は使えません。その代わり、これを使って新しく剣を作って欲しいのですが」


 担いでいた布袋を彼に渡す。布袋の中身を見た男は大層驚き、身体を一回大きく震わせる。


「……青い鉱石? 一体どこから取ってきたんだ」

「私の生家です。寝室にあった宝石塊を砕いて持って来ました」

「まさかこれ、アンタの両親のものか!?」

「ええ、私はこれを使って作られた剣を使いたいのです。一度した苦労をもう一度強いるのは気が引けますが、何とか引き受けて頂けませんかね?」

「それは構わないが、どうしてこんな事を? さっき道具として生まれ変わることをいい気味だって言ってたじゃないか。両親のこと好きなんだろ? なら墓場に撒くのが筋だ」

「それもアリでしょうね、というか倫理的にはそうした方が良い。ただ私は年相応にワガママなので、私が勇者になるところを両親に特等席で見て貰いたいと思ってしまうのです」

「好きだからこそ、出世街道を間近で見て欲しいって事か」

「彗星族の成仏は墓場に撒いて初めて成立する。つまりその剣を持っている限りお別れにならないのです。その剣は母と父の依り代になるはず、ですのでどうかお願いします」

「そういう事なら任せとけ。ただ、再制作期間として一週間ほど貰うぞ。ソウマもそれでいいな? それまで特訓を続けるなら代わりに鉄の剣をやるぞ」

「くれるなら頂こう。俺らは当初、そっちを買うつもりだったからな」

「アンタら相手に対価を取る気はない。俺の武器で世界を救う、それだけで満足だ」


 ソウマさんはギドから剣を受け取る。彼の持つ剣は月明かりに照らされて白く輝いており、その様相はまるで芸術品のようだった。それに見とれつつも、私は一抹の不安を抱いていた。


「世界を救う、ですか。ソウマさん、私はこの旅の末に世界を救いますかね?」

「いずれはな。勇者の役目は魔獣の殲滅、及び支配された地域の開放だ。それが成れば都市の人口過多も解消されるだろうから、世界を救ったことになるだろうな」

「勇者になってからが本番って事ですか……頑張ります」


 私は彼から剣を受け取り、少し離れて素振りをしてみる。確かに剣が重いのは伝わるが、それでも難なく振れる自分に驚く。


(これがあの修行の成果か! 思っていた以上だぞこれは)


 想像の範疇に収まっていた我流の剣術が体現出来る。興奮冷めやらず剣をブンブン振り回す私に、彼は肩を置いて静まるよう言う。


「すみません、自分の体があまりに変わっていた物で」

「気持ちは分かるぜ。だが、素振りはしなきゃ行けない手続きを終えてからだ。それが終わったらいくらでもして構わん」

「わかりました」


 私は鞘に着いているベルトを腰に付け、剣を収めてソウマさんの後を追う。やがて草原を抜け、見慣れた砂漠に再び足を踏み入れる。

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