第12話 純銀の剣

 それからというもの、私は昨日までより遙かに過酷なトレーニングを自身に課した。具体的に言うと、怖くて実行に移せなかったランニングを始めたのだ。


 ただ歩く事でさえ苦痛なのに走るなんて、と思っていた。しかし始めてみればなんてこと無かった。既に全身の至る所に激痛を抱えている私にとって、新たに痛みが増えたところでなんてこと無いんだ。


 そして特訓最終日。リュウが見守る中、私はソウマさんの指示の元体力テストを受ける事になった。とはいえソウマさんから受けた指示はたった一つ。


「キャンプ場を二周全力疾走しろ」


 思わず固まってしまった。もう少し厳しい課題を課されるのかと思えば。私の反応に首をかしげるソウマさんを余所に、私は軽く二周してみせた。


「お前がランニングを始めたことはリュウから聞き及んでいたが、まさかそれがここまでお前を強くするとはな。本来課題はこれだけにするつもりだったが、特別にもう一つ課してやる」


 彼はポケットから紙を取り出し、時々何かを書きながらそれと睨めっこし始める。しばらくして、顔を上げた彼は私にこう言った。


「スイ、その場でジャンプしろ」

「じゃ、ジャンプ!?」


 今まで一度もした事の無いジャンプ。鎧の全質量が肩にのしかかるこの行動は、さすがに私の心に少しためらいを生じさせる。しかしすぐに私はその恐れを振り切り、痛む足を使って五センチぐらい跳んで見せる。


 着地する瞬間に生じた強い衝撃で意識が遠のき、そのままうつ伏せに倒れてしまう。その際私は胸骨を打撲し、胸を押さえてのたうち回る。その様子を見て、ソウマさんは数回頷く。


「ここまで出来るなら十分だろう。スイ、今すぐその鎧を脱いで汗流してこい。今日からは剣術の指南を開始するから、まずは剣を買いに行くぞ」

「え、良いんですか!? ちょ、ちょっと待っててくださいね……」


 地面に寝たまま鎧を外していく。鎧を脱ぎ終えた私は立ち上がり、目を閉じて風を感じる。


「久しぶりだ……昼間に直接肌に風を浴びるなんて」


 シャツの襟をつかんでパタパタと動かし、目を丸くする二人を横目にシャツの中へ空気を送る。胸にペチペチと濡れた布が当たる感覚を覚え、私はふと自分の体を見る。すると、自分のシャツが汗でびしょ濡れになっている事に気づく。


 私は声にならない悲鳴を上げ、シャワー室に飛び込む。


「き、着替えはもう用意してあるから、シャワー浴び終えたら呼んでね!」


 リュウの言葉に大声で返事をした後、私はシャツを着たままシャワーを浴びた。


 諸々の片付けを終えた私達は砂漠へ繰り出していく。ソウマさん曰く、私達がこれから向かう所には「世界一信頼できる鍛冶屋」がいるという。


 なんでもその男は純鉄の武器防具だけを売る店をやっているという。値段は非常に張るが、男が売る商品は他店が大きく突き放す素晴らしい性能を誇る。


「純鉄の剣を持たせてくれるんですか!?」

「これから手に入れる武器はお前にとって一生モノになる。なら、多少無理してでも最高級の剣を手に入れないとな。それにアイツとは顔なじみだ、多少は値引いてくれるだろ」

「ありがとうございます! 後生大事に使います!」


 私がソウマさんに何度も頭を下げると、彼はまんざらでも無さそうな様子を見せる。

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