第3話 血を浴びて得る活路
足音を殺して男達の元へと向かっていく。男達は少女とのやり取りに夢中になっており、私が右側に控えている男の背後を取ってもまるで気づく様子を見せない。次に男の右側から顔を出した瞬間、私は少女と目があった。その次の瞬間、少女は途端に大声を上げて暴れ出す。
「馬鹿野郎騒ぐんじゃねぇ! 殺されてぇのか!」
「落ち着け弟。ここへは誰も来られない。騒ぎたいなら騒がせてやろうじゃないか」
「……あぁ、そうだな兄貴。これからコイツは奴隷になる。そうなったら好きに叫べないだろうから、慈悲深い俺らはここでうんと叫ばせてやろうって――」
その耳障りな言葉の続きを聞きたくなくて、つい私は短刀を振りかぶってしまう。
「おい弟! 後ろだ!!」
短刀は男のうなじに突き刺さり、次に私は男の背中を蹴って地面に倒す。うなじから出た返り血で左目がつぶれたけど、次の行動に支障は無い。
それから私は左に居る男を睨みつける。男は動転しつつも少女の髪から手を放し、懐からナイフを出そうと手を伸ばす。
その瞬間、私はがら空きになった男の脇腹に短刀を刺し込んで横一文字に斬り裂く。そしてうずくまる男の顎を蹴り、地面に頭を強打した男に馬乗りになって胸に短刀を深く突き刺す。
腹からの出た血が少女の服にかかる。私は咄嗟に彼女の体を抱きしめ、服に付いた血痕が見えないようにする。
「ごめんなさい! 貴女の事はもっと別の方法で救いたかったけど……私不器用だから、これしか、思いつかなくて!」
「く、苦しい……」
慌てて手を放し、後ずさりして距離を取る。しかし少女はこちらに近づき、懐からハンカチを取り出して私の目にこびりついた血を拭き始める。
「驚いたなあ。人を殺して泣く人初めて見たよ。優しい人なんだね」
「!!」
その言葉に思わず涙をこぼしてしまい、咄嗟に袖で両目を拭う。
「いや、貴女の方が優しい。人を殺した私を気づける貴女のほうがね」
「僕はダメだよ。酷いことした人だとはいえ、人が殺されて無反応だったんだもん」
「それでいいの。正当な理由無く他者を害しようとする人間なんか死んで当然だし」
「へぇ、なるほどね」
少女は私を見定めるかのように、全身を舐めるようにじっくりと見始めた。
「君、名前は?」
「スイ・トニック、十四歳」
「仲間や家族とは一緒にいる?」
「仲間は居ないし家族は死んでる」
「あっ……ごめん」
「いいよ、もう五年も前の事だし。それより急に私の事質問しだして、どうしたの?」
「実はさ、君に会ってほしい人がいてさ。会わせて良いかどうか見定めてたんだ。特に……勇者だったりしないかが気になってるんだけど」
「勇者? 私を彼等と一緒にしないで欲しい。アレは勇者じゃなくて、ただの強盗さ」
「なら尚更その人とは気が合いそうだ。付いてきて!」
夕陽に向けて走っていく少女の背中を、よろけながら駆け足で追う。飢えと渇きで体力はもう空っぽのはずなのに走れている。彼女の向かう先で自分の人生は劇的に変わるかもしれない、という根拠のない希望が原動力となっているのだろう。
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