第4話 『ソウマ・ユウキ』
私は焼けるような喉の痛さと激しい腹痛に耐えながら、私は彼女の後を必死に着いていく。すると突然、少女は何もないところで立ち止まる。その事に気づくのが少し遅れ、私は彼女の背中にぶつかり尻餅を着いてしまう。
「いてて……どうかした?」
「どうしたも何も、ここが目的地なのさ」
「何もないけど……」
「まあ見てなって」
少女は懐から小槌と釘を取り出し、握られた釘の頭に向けて小槌を力強く振り下ろした。すると、目の前の空間にガラスのようなヒビが入る。ヒビはどんどん広がっていき、やがて爆音を伴って砕け散る。
目を開けると、そこには夜のキャンプ場があった。大きな焚き火と、それを囲うように二つのテントが張られている。そして焚火の前に、倒木の上で胡坐をかいて座る白髪の男がいる。男が身につけている黒いローブを見た瞬間、私は両手で口を押さえて息を飲む。
そんな私に構わず、少女は男の傍に駆け寄って隣に座る。
「リュウ! お前今までどこに行ってたんだよ!」
「ごめん、食料を探しに街に行ってたらそこで勇者たちに捕まってさ。でもここにいる子が助けてくれた」
「へえ、この娘が」
「スイ・トニックです……あ、あの、本当に貴方は――」
私の目をジッと見つめてくる彼。緊張して思わず目をそらしてしまうのが当然の反応だが、今は目をそらす心の余裕すら失っていた。それも当然。私の目の前にいる男は、私が尊敬して止まない始祖の勇者の一人だからだ。
「ああそうとも、俺はユウキ・ソウマ。始祖の勇者達においては頭脳役をしていた男だ」
「ほ、本物……!! ああああの、ずっと、お慕いしておりました!」
「敬語なんて使うなよ。今じゃ俺はお前達と同じただの一般人に過ぎん。そうだ、ちょうどクラムチャウダーができたところだ。リュウはスイの隣に座って食え」
ソウマさんは横に置いてあったボウルを手に取り、煮えた鍋の中身すくって差し出してきた。そのおいしそうな匂いと見た目は、今まで忘れていた飢えと渇きをもう一度呼び起こす。
緊張も恐縮も一切吹き飛んだ私はソウマさんの傍に駆け寄り、その手からボウルを奪い取って中身を食べ始める。
「ははは、そんなにおいしいか! 六時間かけて仕込んだ甲斐があったぜ。だがちゃんと水も飲めよ? ジャガイモが喉に詰まると苦しいぞ」
「そう思うんだったらもうちょっと細かく切ってよー! 次こんなでっかいのいれたら承知しないからね!」
「!」
「ほら言わんこっちゃねえ! 口開けろ! 今取り出してやるからな」
指示通りに口を開けると、ソウマさんは掌をこちらに向け魔方陣を展開した。やがて喉から大きな何かがせり上がって行き、口内に到達すると同時に勢いよく外へ飛び出す。
「ご、ごめんなさい。まともなご飯を食べるの、数か月ぶりなので」
「君は謝らなくていい! 全部具を無駄に大きく切った彼のせいだから!」
「そうだな。次からはもう少し小さく切るようにするわ」
そんな言い合いを余所に、私は絶え間なくボウルに鍋の中身を注いで飲んでいる。そんな事を繰り返している内に、いつの間にか鍋の中身が空になっている事に気づく。
「すげえ、あの量のクラムチャウダーを一人で空にするか。美味しく味わってくれたようで俺はうれしいぞ。もっと食べて欲しいが、少女を太らせる趣味は俺には無い。名残惜しいが、鍋は片付けさせて貰う」
ソウマさんは鍋を持ち上げてシンクに放り込み、水で洗い始める。その様子を見ていると、リュウが私の腰を指でつついて来た。
「スイ、良いことすればこうして報われるんだよ。だからこれからもその素敵な性格でいてほしいな。あの時、店に放置された肉を捨てた君のままでね」
「……見てたんだ」
「チラッとね。本当は僕一人でどうにかできたんだけど、君の良心を試したくなってさ。ついか弱い少女を演じちゃったんだ」
「演じるって……貴女、何者?」
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