折り紙の月その6
部屋に戻ると畑野は状態を横にひねる腹筋にいそしんでいた。nine inch nailsをスピーカーで響き渡らせている。手抜き工事の鉄筋コンクリートによく響く。
「あのガキに文句言ってやったか?」
細かく息を切らしながら聞いてきた。
「なんであの子に会ったってわかるんだ?」
「鼻歌と階段を降りる音が聞こえてよ。あいつだろ?」
「よくこの五月蠅いなかで聞き耳を立てれたな。確かに君の言う通りあの子にあったよ。だがいい加減に子供相手にむきになるのをやめろ。いい年して子供いる癖に。怖がるだろ。」
畑野はピタリと上体を止めて、こちらの方をしっかりと両目から見据えた。
「ナめた真似をすれば痛い目に合うというのは早く教えておくべきだと思うぜ。インターネットのやりすぎで何言っても殴られねえと思っている奴が多すぎる。」
「確かに君なら殴るだろうね。前科持ちだし。」
僕はあくびをかみ殺した。
「まあな。だが償いをしたからこうやってここにいるわけよ。」
形だけだろう。畑野がカセットテープのように凄惨な瞬間を脳内でリピートし続けるのは、間違いなく罪の意識から来るものだ。彼はいつまでも抱え続けるだろう。退役軍人のPTSDなら同種療法で治療できる余地があるが、畑野にはそれさえ与えられていないのだ。
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