折り紙の月その3
事件の際に、彼は最悪の光景を目にした。
お菓子でそれを表現するのは、精神が防衛反応を起こしているのだろう。
それとも既に支障をきたして幼児退行を起こしているのかもしれない。事情を知っている僕は、話を聞くたびにその光景を連想してしまう。
ドアの錆びた蝶番が軋む音が響いた。畑野が頭を冷やして帰ってきたようだ。
「悪かった。温まっちまうと止まらないんだ。」
そんなことはこの半月で何度も経験して知っている。
「食うだろ?」
アイスを一つ既に口にしながら、畑野はカップの少し値の張るアイスクリームを、婚約指輪を光らせた左手を器用に使って投げてよこした。
彼は和解が上手かった。癇癪持ちであるがためなのか、家庭を持つことで習得したのか。
畑野は妻帯者で、七歳になる息子がいた。癇癪持ちだが、一度も家族に手を挙げたことはない。週末の晩は妻と娘の声が電話口から六畳もない鉄筋コンクリートに響くのがその証拠だ。
住居を共有するうえで不満は多くあるが、その面で僕は畑野を気に入っていた。
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