折り紙の月その2

 気を失う前に確かに見た。鼓動を失っていたはずの体には、エネルギーが宿っていた。頬に赤みが差し、唇は生気を孕み、瞳孔は光を捉えていた。


 ー半年前ー 夏



「キャラメルポップコーンみたいだったんだ。」

僕は気がおかしくなりそうだった。


「聞いてるのか。キャラメルポップコーンが、弾けたんだよ。」

畑野は続けて言った。ほぼ叫んでいた。


「知らないよ、毎日君のトラウマを聞かされて僕の方が発狂しそうだ。心理カウンセラーじゃないんだよ、最悪な話を何度も繰り返すんじゃない。毎回毎回言ってるだろ、理解しろ。」


言い返すと、畑野は立ち上がらずに膝を立てて僕のポロシャツの襟を掴んだ。ラルフローレンに似たロゴが入っているが、偽物だ。


「てめえに何がわかんだよ、どれだけ辛いか知らないからそんなこと言えるんだろうがよ。俺がお前だったらもうちょっと話を聞いてやってるよ!」

そう言って僕を突き放し、わざとらしく足音を立てて素足で外へ出た。


 同居人の畑野 周平は半月前まで収監されていた。彼が癇癪持ちであるがゆえに罪を犯したのではない。裁判では事件として処理されたが、過失はあっても故意ではなかった。

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