第3話 滑舌練習
//発声練習 「あめんぼのうた」
(ところどころ発音が舌足らずっぽく読む。
特にサ行は
しゃしゃげに しゅをかけ さしすせそ
そのうお あしゃせで しゃしました。
くらいに滑舌悪く読む。は行も弱い。)
「あめんぼ 赤いな あいうえお 浮きもに 小えびも 泳いでる
かきの木 くりの木 かきくけこ きつつき コツコツ 枯れけやき
ささげに すをかけ さしすせそ その
立ちましょ らっぱで たちつてと トテトテ タッタと 飛び立った
なめくじ のろのろ なにぬねの 納戸に ぬめって なにねばる
はとぽっぽ ほろほろ はひふへほ 日なたの お部屋にゃ 笛を吹く
まいまい ねじ巻き まみむめも 梅の実 落ちても 見もしまい
焼きぐり ゆでぐり やいゆえよ 山田に
雷鳥は 寒かろ らりるれろ れんげが 咲いたら るりの鳥
わいわい わっしょい わいうえお 植え木や 井戸がえ お祭りだ」
「……」
「どうですか先輩! 私のこの華麗なあめんぼ赤いなは! 完璧ですよね。……なに変な顔しているのですか? はい。もう一度ですか? 分かりました! やってみます。
あめんぼ 赤いな あいうえお 浮きもに 小えびも 泳いでる
かきの木 くりの木 かきくけこ きつつき コツコツ 枯れけやき
ささげに すをかけ さしすせそ その魚(うお) 浅瀬で 刺しました」
「……」
「えっ? ストップですか? ささげにすをかけをもういちど? 分かりました。いきます。
しゃしゃげにしゅをかけさしすせそ
ストップですか? え? ささげがしゃしゃげになってる? まさか。
しゃしゃげにしゅをかけさしすせそ
大丈夫ですよね? だめですか? もう一度?
しゃしゃげにしゅをかけさしすせそ」
「……」
「録音したから聞いてみろ?」
//SE スマホから流れる声。しゃしゃげにしゅをかけさしすせそ
「本当だ。あれ? おかしいな。
しゃしゃげにしゅをかけさしすせそ。
え? さしすせそですか? さ・し・す・せ・そ、言えてますよね」
「……」
「さしすせそが言えるのに、なぜしゃしゃげになる? 分かりませんよそんなの。もう一度ですね。分かりました。えっ、先輩、顔近いです」
「……」
「こうけいを確認する? こうけいってなんですか?」
「あ〜、またアホな子って言った〜! ひどいですよ先輩。ああ、口の開き方のことですか。なるほど。それでは近づいても仕方ありませんね。ではいきます。
しゃしゃげにしゅをかけさしすせそ!
いかがですか?」
「……」
「先輩! 手がほっぺに……。なぜアゴをつかむんですか! え? 『さ』はアゴを下に下げて? さしすせそ。さ・さ・さ・本当ですね。しゃしゃげに……しやしやしや、確かにアゴが下りていない!
ささげにしゅをかけ
先輩がアゴを触ってくれたからできました! ありがとうございます! でも触る時は事前に言ってからにしてください。びっくりしますよ、急に触られたら……。先輩ですから許しますけど」
「……」
「次は『す』ですか? ささげにしゅをかけ……、そうですね。さしすせそだったらちゃんと言えるのですが。……くちびる? ちょっとした開き具合で『しゅ』になってしまうのですね。えっ、俺の口を見ろ? 分かりました!」
「……」
「分かりません! 何が違うのでしょうか? ……先輩、必死でやればやるほど変な顔になっていますよ」
「……」
「怒らないで下さいよ〜! 両方の唇の端に指を当てるんですか? 私が? 先輩のくちびるに……。なんか不思議な感じですね。ドキドキします。……先輩のくちびる……。あ、はい。真面目にやります。訓練ですもんね。では、失礼します」
//SE くちびるに当たる手のかすかな音
……柔らかい。先輩のくちびる、柔らかいですね」
「……」
「そんなことはいいから? はい。『す』『しゅ』『す』『しゅ』『す』『しゅ』……なるほど、確かに『しゅ』の時は筋肉が固くなっています」
「……」
「『す』『しゅ』『す』『しゅ』。分かりました! では
ささげにしゅをかけさしすせそ! あれ?
ささげにしゅをかけさしすせそ! うまくいきませんね。……えっ、先輩が私のくちびるを?……触るのですか?」
「……」
「だめじゃないですけど……。そうですね、ヒロインになるのに滑舌悪いとだめですよね。分かりました。どうぞ」
//SE くちびるに触れる手の音
「(はう)。先輩の人差し指が私のくちびるに……。見つめないで下さいよ」
「……」
「えっ?チェックするから見ていないと? そ、そうですよね。でも、この距離でこの感じは、キスするみたいな……。はい。目を瞑らないで? セリフを言って? そうですね。特訓ですから! キスなんかじゃないですよね。
ささげにしゅをかけさしすせそ」
「……」
「緊張しないでって言われても……この状況じゃ無理です。……大丈夫、俺が付いているから? 違います! 先輩がいるからです」
「……」
「いりますいります! 先輩がいらないとかじゃなくてですね! もう。恥ずかしいな。こんな近くで、顔は手でくるまれて、くちびるに……。やります! やりますってば!
ささげにすをかけさしすせそ!
できた! できましたよ先輩!
ささげにすをかけさしすせそ!
ほら、完璧です。……てすよね!」
「……」
「ありがとうございます! これも先輩のおかげです。……えっ? 滑舌はなんとかなったけど、ツバ飛ばしすぎ? そんなに飛んでいました? きゃ〜! 先輩の顔が、私のよだれだらけに! すみません。今拭きます」
//SE 顔をハンカチで拭く音。音が流れながらセリフ。
「はあ、先輩のキレイな顔が……。先輩、ハンカチではだめみたいです。今、タオル濡らして来ますね。
//SE 駆け足の音。水道の蛇口を開き水が流れる音。タオルを濡らして絞る音。水道を止め、また駆け足。
「おまたせしました! 先輩、背が高いんですから低くなって下さい。いあや、膝枕しましょう!」
//SE ヒロインが座る音
「はい先輩、この膝の上にどうぞ」
//SE パンパンと膝を叩く音
「私のせいですから、遠慮なさらずに。さあ、どうぞ」
//SE 膝に頭が乗る音。
声は右耳の近くでささやくように聞こえる
顔を拭く音とともにセリフが始まる
「ごめんなさい。私のせいで。一生懸命拭き取りますから。……えっ? 気持ちいいですか? 良かった。さあ、逆を向いて下さい」
// 声は右耳から左耳に移る
SE、頭が動く音
顔を拭く音は続行
「大丈夫ですか? 気持ちいい? ふふ。こうして先輩を上から見ているの、なんか不思議ですね。甘えさせてあげているみたいです。はい、いい子いい子」
//SE 頭を撫でる音
「どうしたんですか? 頭を撫でられるの気に入りました? そうですか。 はい、いい子いい子」
//SE 頭を撫でる音
「甘えん坊さんですね〜。よしよし。……嘘です! ごめんなさい! 調子乗りました! ……怒らないで下さいよ〜。……はい。顔はきれいになりました。おしまいです。立って下さい。……えっ? もう少し膝枕をしていたいのですか? 先輩? やっぱり甘えん坊さんじゃないですか。いいですよ。もう少し膝枕してあげます。特別ですからね」
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