第2話 発声練習

「だでぢづでどだど。ばべびぶべぼばぼ。んがんげんぎんぐんげんごんがんご(んが以降は鼻濁音)」


「……」


「先輩、私の発声どうですか? いつも慣れでやっているから、基礎が不安なんです」


「……」


「腹式呼吸がちゃんとできていない可能性がある? えっ! そんな事ないですよね」


「……」


「そうですね。現状を理解して修正しないといけませんよね。分かりました。一から鍛え直して下さい」


「……」


「ありがとうございます! 先輩がいてくれて良かった。頼りにしてますよ、先輩」


「……」


「分かりました。まずは呼吸のチェックですね。吸って吐きます! す――――。(呼吸を止める。2秒後)は――――。 す――――。(呼吸を止める。2秒後)は――――。……どうですか?」


「……」


「肩が上下している? だめなんですか? 胸で息をしているって……どこ見ているんですか、先輩。……えっ違う? 胸式呼吸になっている? 胸式呼吸ってなんですか? 胸でなんで呼吸しませんよ! なんでおっぱいが息をするんですか!」


「……」


「えっ。誰もおっぱいなんて言ってない? 肺で息を吸うのが胸式呼吸? えっ? だって呼吸って肺でするものですよね」


「……」


「どうしたんですか、先輩。黙ってしまって。なに頭抱えているんですか?」


「……」


「痛い痛い痛い。痛いです先輩。頭グリグリしないでくださいよ〜! 痛い痛い!」


「……」


「練習真面目にしてないのか、理解力が足りないのか? 真面目に練習しています! 足りないのは理解力です!」


「……」


「ひどい先輩! アホの子じゃありません! 私のことどう思っているのですか!」


「……」


「まあ、いいです」


「お腹で息を吸う? はあ、横隔膜を下げる? はぁ。横隔膜ってなんでしょうか?……アホの子呼ばわりはやめて下さい! えっお腹を触れ? 先輩の? はい。なんか、ドキドキしますね。では、失礼して……。先輩! 先輩のお腹、もしかして腹筋割れています? 見せて下さい! ……だめですか?」


「……」


「そうですよ! 直接見たほうが理解できると思います!お願いします」


//SE シャツを脱ぐ音


「先輩……凄いです。なんですか、この肉体美。はぁ……。生シックスパックが……。えっ、変態じゃないてますよ。ええと、ここ触るんですか? 脇腹を両手で?」


//SE お腹に手が触れる音


「……はい。触りました」


//SE す―はーという呼吸音


「うわっ! 凄いです! 呼吸するたび、お腹が膨れたり引っ込んだり! 肩ですか? 確かに! 動いていません! なるほどです! 分かりました」


//SE シャツを着る音


「えっ、もう服着ちゃうのですか? もったいない。……残念です」


「私の番ですね。えっ?、先輩触るんですか? 真面目なトレーニングチェックですよね。……分かりました。あの……私もシャツ脱がないといけませんか?」


「……」


「そうですよね! よかった! 何ならお腹だけで許して貰おうかと思ってたんです」


「……」


「残念ってなんですか! もう、先輩ったら。……見せないけど、直接触るくらいならいいですよ。……そういう意味じゃなく! ほら、真面目なトレーニングなら、チェックはできるだけ直接したほうがいいかなって。……先輩? 顔赤いですよ」


「……」


「じゃあ、恥ずかしいですけど、Tシャツの中に手を入れて下さい」


「……」


「遠慮とかいりませんから」


//SE シャツの中に手を入れるわすがな音


「(あぁん)、先輩? こうですか? す――――。(呼吸を止める。2秒後)は――――。す――――。(呼吸を止める。2秒後)は――――」


「……」


「できていますか? やった! もう一度やりますね。す――――。(呼吸を止める。2秒後)は――――。す――――。(呼吸を止める。2秒後)は――――」


「……」


「ありがとうございます! えっ次はその状態で発声ですか? 意味がよく分かりません。見本を見せてくれませんか?」


//SE シャツを脱ぐ音


「きゃっ、先輩、いきなり脱がないで下さいよ。心の準備が……。いいから触れ? 男らしくて素敵ですけど、一歩間違えたらセクハラですからね、今の言い方。……まずはロングトーンで発声する、ですか? うわっ、凄いです!力強く筋肉が引っ込んでいきます! これが腹式発声というものなのですね。シャツを脱いた理由が分かりました! これは触っただけでは分からない芸術ですね」


「……」


「褒めすぎ? そんな事ありませんよ! はい? 次はスタッカートですね……。なに! 先輩! この筋肉の躍動感はなんですか! 一音一音に腹筋が反応してビクンビクン波打っていますよ! 凄い! 凄いです!」


「……」


「変態って……ひどいですよ先輩」


//SE シャツを着る音


「もう着ちゃうのですね。次は私? 分かりました。手を入れて下さい」


//SE シャツの中に手を入れるわすがな音


「あん。先輩の手気持ちいい。慣れて来たら恥ずかしさより、温かさか心地良いです。……いいから始めろ? 分かりました。まずは息を吸って。

『す――――』

『あ――――――――』」


「……」


「もっとですか?もっとお腹に力を入れて、ですね。


『す――――』

『あ――――――――』


これでどうでしょう? きゃっ! 先輩! 脇腹に置いた手を、お腹に持って来るのは反則です! いいからって……! 息を吸え? はい。


『す――――』

『あ――――――――』


お腹! お腹押さえないで! えっ? このくらい腹筋に力を加えて?……はい。やってみます。


『す――――』

『あ――――――――』(きれいな発声)


あっ、先輩! 声の出方が違います! もう一度やりますね。今度は一人でやりますから、お腹から手を離して下さい」


//SE 服から手をだすわずかな音


「やります!


『す――――』

『あ――――――――』


できました! 先輩は、これを教えるためにはお腹に手を回していたのですね。ちゃんと言ってからしてくださいよ。エッチなことされたのかと思ったじゃないですか」


「……」


「信用しています! ても、ほら、私も女の子なんですから」


「……」


「いいですよ。先輩だから許します。次はスタッカートですね。先輩! ちゃんと触っていて下さいね」


「……」


「言い方エロくないですよ! そんな風に思うほうがエッチなんです。先輩、真面目にやって下さいね」


「……」


「お前が言うな? 失礼な! さ、真面目にやりますよ。早く服に手を入れて下さい」

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