先輩と練習!

みちのあかり

第1話 準備体操

//公民館の一室。ヒロインが一人準備体操をしている。

SE リズミカルなジャンプの音。音に合わせて掛け声。


「いちにっさんし、ごうろくしちはち♪にいにっさんし、ごうろくしちはち♪」


//扉が開く音


「あっ、先輩。おはようございます。今日は忙しい中、ありがとうございます」


「……」(以外、男性の話す間は、「……」で表記)


「この劇団に入って3年目。私、本気でヒロイン役目指しているんです。ほら、前回のヒロインは、落ち着いた大人の女性だから私のキャラに合わなかったけど、今回は元気で前向きな女子高生がヒロインですよね。私にぴったりだと思いませんか?」


「……」


「ありがとうございます! 可愛いだなんて。へへ。先輩にそう言われると照れますね」


「……」


「ひどーい。お世辞だったんですか?」


「……」


「そういう事にしておきます。照れるなんて先輩も可愛いですよ。あ、私準備体操は終わってますが、先輩準備体操します? あ、じゃあストレッチ一緒にしましょうか。私って体固いんですよね」


「……」


「先輩もですよね。じゃあ、先輩の背中押してあげますね。遠慮しないで下さい。ほらほら、腰を卸して足を伸ばして下さい」


//SE 足音。

   先輩の背中側にまわる。首の後ろ側かなり近いところから話す。


「先輩、肩の筋肉凄いですね。さすが男の人ですね。私なんてぷよぷよなのに。すごく固いです」


//SE  体を触る音


「え? くすぐったい? ごめんなさい! いい筋肉なのでつい。じゃあ押しますよ。……えっ?押すときは肩じゃなくてもっと下? 下って……ああ、肩甲骨の下辺りですか。分かりました。じゃあ始めますね」


「……」


「いちにっさん〜。固いです、先輩の体。本当に固い。あ〜。えっ? 痛い? 痛いですか? もっと優しく? はい。優しくですね。優しくしますから、そんなに緊張しないで。先輩の固いの、私が優しく触ってほぐしてあげますから」


「……」


「えっ? なに照れているんですか? 先輩? ストレッチですよ。始めますね。ゆっくりやるには腕の力ではだめですね」


「……」


「体重をかけるようにですね。分かりました。じゃあ腰を入れて(声が耳元まで近づく)こうやって。ぎゅーっと」


「……」


「えっ? 先輩、どうしたんですか? 胸が当たってる? きゃっ、先輩のエッチ」


「……」


「……そうですね。私がしたんですよね。もう。先輩? 気持ちよかったですか?」


「……」


「なに言ってるんだって……そんなに魅力ないでしょうか、私」


「……」


「えっ。ドキドキした? 先輩、いやらしいですね」


「……」


「どうすりゃいいんだって言われても。女心が分からないとモテませんよ、先輩」


「……」


「まあいいです。すっごい恥ずかしかったんですから。じゃあ代わりましょう。今度は先輩が推して下さい」


//SE 入れ替わる音


「お願いします。あの、本当に私の体固いですから。痛くしないで、優しくして下さいね」


「……」


「なんですか? その言い方やめろって。痛くする気まんまんですね」


「……」


「そうじゃない? 痛くしないならいいですけど。先輩変ですよ」


「……」


「じゃあお願いしますね。あっ、先輩の手あったかい。Tシャツ薄いから先輩の手の温もりが……。(あっ)、遠慮とかしないで下さいね。でも……痛くしないで下さいね。優しく……(あっ)、痛い! 痛いです先輩! いつもは女子同士でやっているから、男性から押してもらうの、初めてなんですから……。初めて先輩からして貰うんです。……優しくして下さい。お願い」


「……」


「先輩? どうしたんですか? ストレッチ始めましょう! そうそう。いい。ああ〜、気持ちいいです。先輩。気持ちいいです。固くなった所が、先輩のテクニックで……。ああ…、優しくしてね。先輩」


「……」


「えっ? なんでやめてしまうんですか? 気持ちよかったのに。もっとやりましょうよ、先輩。お願い。もっとやって。ねえ。こんなに気持ちいいなんて。……えっ? ストレッチですよ。なに言っているんですか? そうです……早く推して下さい。……ああ、先輩の熱くて固い大きな手が私の体をとろけさせるように柔らかくほぐしていく。……先輩、最高です。ほら、指がつま先につくようになりました!」


「……」


「私の体をこんなにも変えてしまうなんて。固かったあそこがこんなにもふにゃふにゃに……。えっ、あそこって背中ですよ。どうしたんですか? 先輩。顔赤くなってますよ」


「……」


「ストレッチはもういい? だめですよ。今のは単なる柔軟運動ですよね。ストレッチはこれからです。さあ、手を組んで! 伸ばしあいますよ」


「……」


「あぁ。やっぱり先輩の手は大きいですね。熱くて固くて立派な手。鍛えているんですか? じゃあやりますね。いちにっさん〜。……にいにっさ〜ん」


「じゃあ次は、背中合わせになって、腕を組んでお互い持ち上げましょう。……なに意識しているんですか? ストレッチですよ。先輩ってもしかしていやらしい人だったのですか?」


「……」


「そうですよね。安心しました。うん。もとから信頼していますよ。ストレッチです。さあ、腕を組みましょう」


「……」


「身長、いくつなんですか? ふーんそうなんですね。私とちょうどいい身長差ですね」


「……」


「何がって? 秘密ですよ。もう。いいじゃないですか。じゃあ、先輩から始めてください」


「……」


「あ、重くないですか? ダイエットしてるのですけど。……良かった。あぁん。背中が伸びて気持ちいいですね」


「……」


「先輩の背中、大きくて安心感があります」


「……」


「……えっ? 密着してるけど、大丈夫かって? ストレッチですよ。変な意識させないで下さい。やだなぁ。変なこと聞かないで下さい。……そうですよね。腕も背中もお尻も先輩に触れているんですよね。……やっ、先輩が変なこと言うから、意識してしまうじゃないですか!」


「……」


「ごめんじゃありません! 真面目にやっているのに!」


「……」


「本当ですよ。まあ、先輩だから密着していてもいいです。下心ないんですよね」


「……」


「安心しました。そうですよ、真面目なトレーニングなのです。じゃあ、次は私の番ですね」


「……」


「大丈夫です。こう見えても力持ちなんですよ。……なに笑っているんですか。失礼ですよ」


「……」


「いいです。許してあげます。じゃあ行きますよ。えいっ!」


//SE 二人が倒れる音(声が顔の近くになる)


「いったぁ。先輩! 大丈夫ですか! 私を庇ってくれたの! ってそんなに強く抱きしめなくても!」


「……」


「そうですね。庇ってくれたから。今胸を触っているのは事故ですよね。背中から抱えたら手が胸に当たっただけですよね。ごめんなさい。動揺して。胸……始めて男の人から触られたから……」


「……」


「分かっています。先輩は、私を庇ってくれたんです……。それに、初めてが先輩でよかった。……えっ? なんて言ったかですか? ひ、秘密です! え〜と、ストレッチもういいですよね。次は発声練習にしますね」

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