一人旅(一日目)
ㅤ君を山に埋めた日は、雨がぱらぱらと降っては止むような、珍しくもない天気の日だった。
ㅤ数年ぶりにカッパなんてものを引っ張り出して、いささか小さいそれを無理やり羽織って倉庫から探し出したスコップを車に乗せて。君の運転ではないドライブに行くのは、初めてだった。本当に大丈夫なのか? と隣で笑う君の姿が目に浮かぶ。もしも事故を起こしたら、そのときは、諦めて一緒に死んで。そう言うと、安全運転で、と言って君は笑うのだ。
ㅤ本当は、埋めたくはない。このまま連れて帰っていつもみたいに一緒にテレビを見て、真夜中にコンビニに行って、夏だねなんて言ってラムネを買って。そんな、そんな日々を繰り返していたい。雨に降られたと言ってこのまま家に帰ったら、出迎えてくれた君はちょっと驚いた顔をしてタオルを持ってきてくれる。乾燥機から出したばかりのそれはまだ暖かくて。温まってきなよという君の声と、お風呂を沸かす音が聞こえる。君は今隣にいるから、このまま帰っても暗い部屋に出迎えられるだけだけども。
ㅤ運転は、怖い。
ㅤ自分が気付かないうちに逆走しているのではないかと思う。知らないうちに、隣を走る車にぶつかっていたら? そんなことにならないように見ててあげるよと言ってくれた君が助手席にいるので息を吐く。そんなに息を詰めていたら山に行くまでに窒息してしまうと君は笑うだろう。もしもそうなったら私の方を山に埋めてくれ。土の中というのはどんな気分だろうか。私は潔癖のけがあるから頭上をミミズなどに這われたらたまったものではないけれど、君はきっと地上に出る前の蝉とすら友達になろうとするのだろう。
ㅤ君と山に行ったのは、二年か、三年か。そのくらい前のことだったか。オニヤンマを追いかけて迷子になった君を追いかけて迷子になった私の笑い話を話す相手はついぞできなかった。君と違って私は友達というものを作るのがすこぶる苦手だから。向き不向きというものだね。適材適所、できることをやればいい。何一つできることのない人間は何をすればいいだろう、そう言えば君はそこで全力で応援しててと笑うのだ。
ㅤパーキングエリアに差し掛かったので車を止める。仮眠をとろう。少し疲れてしまった。君が隣にいてくれないと私はろくに眠ることすらできない。やはり私も一緒に山に埋まるべきだろうか。
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