罪の味

ㅤまたやってしまった。

ㅤ菜箸に絡まる麺を見下ろしながらため息を吐く。夜中のラーメンの魅力に抗えないほどに軟弱な精神に本当に嫌になる。しかし真夜中だろうがなんだろうが体は空腹を訴えるし、満たさなければ寝ることは困難だ。仕方ない。これは仕方ない人間の性だと自分に言い聞かせ、茹で上がった麺とスープをお椀に移した。


ㅤ手を合わせていただきますと小さく呟き、湯気を立てる即席インスタント麺を割り箸で持ち上げる。醤油の風味が口の中に広がった。入れた具材は、冷蔵庫に残っていた卵と、一本の指なんていう申し訳程度のタンパク質だ。麺と一緒に茹でた指の断面は白く、中まで火が通っていることが分かる。ふと違和感を覚えて、箸を関節に引っ掛けて持ち上げる。はて、と見つめあって気がつく。爪が無い。つるりとした指の先。これなら、舌を引っかかれる心配も、喉に引っ掛ける心配もしなくていい。醤油味のスープが指の表面を伝う。テーブルにこぼれる前に指の先を吸うようにしてスープを舐めれば、少し淡白な、しつこくない醤油の味が舌の上を通り過ぎた。そのまま指の第一関節辺りまで口に含む。ふやけた皮の凹凸を舌で感じ、そのまま噛みちぎった。思いのほか簡単にちぎれた肉は、いささか淡白で、味わいに欠ける。せっかくの肉だというのに、味気ない。


ㅤ次はしっかり下味をつけようと考えていると、隣の部屋から壁を叩くような音が聞こえ、思い出す。そうだ。壁を引っ掻いてひどく傷付けるので爪を剥いだのだった。賃貸だというのに部屋は酷い有様だ。深夜だというのに暴れられては隣人から苦情が来るかもしれない。少しは静かにしていてくれないだろうか。とはいえ、空腹を満たしたことで這い寄ってきた眠気に思考がぼやける。隣室に行く気にも慣れず、欠伸をかみ殺す。


ㅤ次は電気圧力鍋でホロホロになった君、なんてのも乙なものだろう。なんて考えながらスープを飲み干した。

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