第4話

 「だから、違うって何度も言ってんじゃない!」

 「うるさい、お姉ちゃんがそんな風になったから、私は妥協してたのよ?」

 「もう…!!」

 私は、もどかしくてたまらなかった。

 言葉が空回る、何を言えばこの強情な妹に、あの男は間違っていると伝えることができるのだろうか。

 「ねえ、お願い。お姉ちゃんの言う事、聞いて?」

 「知らないわよ。ひいくんは、悪くない。何なの?」

 「あなたは知らないでしょ?でもみちる。私は見たの、あの男ほかの女と歩いてたわ。勝手な人間だと思うの。私はあなたにそんな人と結婚してほしくない。」

 「そんなわけないじゃない、私そんなの知らない。」

 「だから教えてるんでしょ?」

 どちらが何を言っても決着が着かない。

 私たちの喧嘩を隣りに住んでいる早千江さちえはおろおろとした顔で眺めている。止めように止められない、といった感じ。

 しかし、みちるは仕事があり足音を立てながら家を出た。

 私は、ただ茫然とし、そしてまた憤りを感じ始めた。


 ダメなのだ、あの男はダメなのだ。

 今は、犯罪に手を出す男と、そうではない男と、二分されている。

 そもそも、犯罪という概念が弱く誰もかれもが悪いことをしている。その中でも善意と、安定した環境がある人間は割にまともを保っていられる。

 私は、みちるには、もちろんみちるの彼氏のひいくんが悪いだなんて思っていない。根が優しそうなところもあるし、ただ単に優柔不断だってだけだとも思うし、けれど、私達は幸せにならなくてはいけないのだ。

 誰かを幸せにしてあげるよりもまず、私達が幸せにならないといけない。

 じゃないと、また、壊れてしまうような気がしているから。

 「早千江ごめん。喧嘩なんかしちゃって。」

 「うん…、でも難しい問題よね。みちるちゃんの言ってることは分かる。けど、私もそのひいくんって人、あまり良いと思わない。何ていうか、そもそもみちるちゃんのこと、好きじゃないって思う。」

 私は、早千江の目を見る。そして頷く。

 そうだ、ひいくんは、多分みちるのことを好きではない。好きだったらきっと、そんな態度には及ばない、そう思う。

 なのに、彼はいつもいつも、みちるをだましているように思う。だから私は許せない。

 本当に許せない。

 本当に許せない、だから。

 「絶対にダメ。やっぱり、あの人に話をつけに行こう。」

 「…止めないわ。」

 早千江は一つため息をついて、苦笑いを浮かべた。

 私はそれでも、分かっていた。

 自分が壊れていることなど、ハナから全て知っていた。

 だけど、私は足を止めずに、車に乗った。

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