第2話
ああ、みちるの言うとおりだった。
「お姉ちゃん、立って。行こうよ。」
あんなに引っ込み思案だったのに、姉の私より先だって物事をこなしている。私は、実は父母などいなくてただ、悪い大人に毒を飲まされ誘拐され、逃げられないように嘘をつかれ、監禁されていたという事実から、抜け出せない。
「みちる、はあ。」
私は姉のくせにため息ばかりつき、困っているみちるを尻目に嘘をついた。
「ごめんお姉ちゃん、体調悪いから。熱っぽくて、みちる一人で行ってきて。」
「…分かった。」
みちるが何か、もどかしそうな顔を浮かべているのは分かっていた。
けれど、私はそれを見ないふりをして笑顔を浮かべた。
「行ってらっしゃい。」
「行ってきます!」
みちるも、何も気づかないといった体裁を作って家を駆けだした。
もちろん、悪いとは思う。
あそこから抜け出して外の大人に状況を説明すると、あっけなく私たちを監禁していたやつらは逮捕され、私達は支援を受けながら二人で暮らすことになった。
「………。」
一人になると、起き上がることができる。
私にとって今、一番のストレスはみちるだった。
私は辛かった今までを、誰かと共有しながら一緒に落ち込みながら再起を図りたいっていう感じだったのに、みちるはすべてを忘れてしまいたいのだ。
性格が全く違う。
私は本当は、とても臆病で、みちるは多分、せっかちなのだ。
あそこにいる時は私が姉だったから、立場が逆転していたけれど、みちるは本当はとてもしっかりとした女だった。
「馬鹿らしいなあ。」
「何が?」
「いや、さ。私本当、何のために苦労したんだろうって、分からないのよ。」
「はは、そんなものに理由なんて無いわよ。苦労なんてするかしないか、来るか来ないか、選べるものじゃないしね。」
「そうよね。」
だが実は、私には一人友達がいる。
彼女は、引っ越しして家が隣で、ワンルームに一人で住んでいる。
ずっと家に居ながら根暗に過ごしている私と彼女を見て、みちるはいつももどかしそうに唇を噛んでいた。
かく言うみちるは、もう私の手の中になどはいない。
外で彼氏を作り、そろそろ結婚するのだと息巻いている。
私たちの傷はいったい何だったのだろうか。
もしかしたらみちるが間違っていなくて、私が間違っていて、そういう事なのだろうかと何度も自問する。
が、それだけでは解決しない。
きっと答えがないからなのだろう。
私は、やっぱり嫌で、本当に嫌で家を抜け出して、外で鬼のような面をしながら買い物を終えて帰宅した。
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