見つめていたんだ
@rabbit090
第1話
久美子はぼんやりと空を見上げながら、呟く。
今思い出せば、間違いではなかったような気もする。が、言い直すことはできない、実際現実はどうなるのかなんて分からないから。
ただ、何か一つ痕跡を残せるのなら、そう思い席を立ち、その場を後にする。
ちらりと一度振り返ると、そこには私の背中を見つめる女の姿があるだけだった。
こんなにはっきりと振り返っているというのに、まだ彼女は気づかない。
馬鹿みたい、と呟きながら私は走り出した。
「みちる、久美子、来なさい。」
「はい。」
「…はい。」
久美子はすぐに返事をした、がみちるは何かを考えこむようにゆっくりと首肯するだけだった。
幸い、小さくても声だけは出しているから彼女に怒られることは無い。
彼女に目を付けられると怖いのだ。
なぜなら、多分子供のことなど大嫌い、だと思っているから。
「行こう。」
久美子はぼんやりと困った顔で突っ立っているみちるの手を引き歩を早めた。
帰ろう、怖いことがある前に。
そう、久美子はよく分かっていた。何が、起こるのか。
ここは何なのか、それを知ってしまったのだ。
「もうすぐ出られるんだよ、パパママの所に帰れる。分かってるよね。」
みちるの顔は見ないで、早口でまくし立てた。
多分、怖かったのだ。とても怖かった、こんな場所にいることが、優しい父母の元に帰れないという現実が、そして世界なんて本当は、誰も助けてなどくれないのだという現実が、恐ろしかった。
「ねえ。」
かすれた声で、みちるが裾を引いた。
この子は、いつも何も態度に表さないからどう扱えばいいのか分からない、と言われているところを見たことがある。
「何?言って良いよ。」
久美子はだから、努めて優しい声で、妹の発言を促した。
みちるは、そうやってやると安心したように息をつき、話始める。
でも、今日は何かが違った。いつも困ったように笑っていたみちるは、何か、泣いたような顔をしていた。
しかも、そこにはただおどおどとしていただけの少女の姿は無く、強い意志が介在しているようだった。
「…?本当、何?」
久美子は尋ねた、が、その瞬間腕を掴まれた。
「え?」
「お姉ちゃん、逃げよう。」
「は…あ?」
声が上手く出なかった、逃げるって何?別に、逃げたって。
「何言ってるのよ…!逃げたって、私達の病気は治らないのよ。」
「違う!」
みちるの声は響き渡った。
勘違い?
え?
そう、確かにみちるは呟いたのだった。
「勘違いしてる。私たちにお父さんお母さんなんていない。だって、私達は今毎日、毒を飲まされているから。ここを出れば、自由になれるんだから。」
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