サヨナラの前に

羽の枚

第1話

 きみに明日はないのに、僕には明日があること。僕はこんなに苦しいのに、きみはずっと笑っている。笑って笑って、気が付けば僕もきみにつられて笑っていた。


 きみが隠れて泣いていたあの日。

 きみの涙を目にして、思わず僕もきみに隠れて泣いてしまった。

 泣いて泣いて泣いて、いつの間にかきみは泣き止んでいた。慌てて僕も次の涙が零れないように目をこする。

 きみがこちらに向かって歩いてくる。僕は鼻をすすり、一度深呼吸してからきみに声をかける。

「あのっ」

 きみは驚いた様子で僕を見た。それから少しの沈黙の後、先程まで泣いていたのを悟られないようにするためか、少しうつむき加減で

「どうしたの?」

 と、僕に一言。

 泣いていたことを知られたくないのだろう。僕は、なぜきみが泣いていたのか聞くことが出来なかった。なにも言えなくなってしまった僕と、答えを待つきみ。再び少しの沈黙が訪れる。

 

 こうして出会った僕らの話。

 泣きながら、笑い合いながら、出会ったあの日を振り返る。

「あの後どっちが先に喋ったんだっけ?」

 答えを待つ僕。やけに響く嫌な音。長い沈黙のうち、もう二度と僕らの間に言葉が交わされることはないだろうと。僕の泣き声だけがこの沈黙を破った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

サヨナラの前に 羽の枚 @hanomai_mebuki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ