ビルの屋上は銀河

ろくろわ

ビルの屋上は銀河

 ただ暑い。

 その一言に尽きるのだが、こうして私が真っ昼間の屋上に来たのには意味がある。

 同じクラスの高柳たかやなぎが「昼間でも星は無数に空にあり、高い所からなら見えるんだ」と言い出したのはほんの三十分ほど前の事。

 勿論、私だって子供じゃないから昼間に星が見えない事くらい分かっているし、星が実は無数に広がっている事だって本当は知っている。しかし余りにも高柳が楽しそうにそんな事を言うもんだから、屋上から星を見てみようとここに来たと言う訳だ。

 私はビルの屋上を見渡し影になりそうな所を探してみたが、結局出入り口の所に出来た影以外はコンクリートを焼かんとする日が差し揺らめいていて、とても休める状態ではなかった。

 仕方が無いので私は入口近くに出来た僅かな影から身が出ないように小さく寝転ぶと空を見上げた。相変わらず自己主張の強い太陽の日差しは間接的に私を焦がし、寝転んだ背中には熱がこもり汗がじんわりと出てきた。

 空を見上げる視界は眩しくて目を細めることしか出来なかった。


「星なんか見えないじゃないの。高柳のばぁか」


 誰もいない真夏の屋上に私の声が響く。

 暑くて居心地の悪いはずのここも、今の教室よりは幾分マシだった。


 私が屋上に来た本当の理由は昼間の星を見に来た事なんかじゃない。本当は教室で高柳が成瀬なるせさんと二人で天体の話をしているのを見たくなかったからだ。


 高柳に昼間の空に広がる星や銀河の話を教えたのは私だ。

 明るい空に星ぼしが広がっている話を子供の様に聞き、瞳に星を光らせていた高柳を見ていたのは私だ。


 真夏の屋上に寝転び目蓋を閉じる。日の光は目蓋の裏まで照らし、閉じている瞳の奥に銀河のようにチカチカと輝いて見える。


 昼間の空に広がる銀河。

 目を閉じた目蓋の裏に見える高柳の姿。

 両方とも明るくて目を開いては見てられない。


 何となく二人のいる教室に戻れない私は、真夏の屋上に一人漂い、私は目の前に広がる沢山の想いと昼間の銀河を遠くに見つめるのだった。





 了



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ビルの屋上は銀河 ろくろわ @sakiyomiroku

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