最終章 LAST★☆STAGE
第25話 フェイク×フェイク×ブレイク
タイムリミットは残り数日。
昼休み。俺は教室の自分の席から、ぼんやりと窓の外を眺めていた。
綺羅さんのあの言葉を受けて、俺はどうすればユマを輝かせることができるのか考え続けていた。
だが考えても答えが出ない。いや出てはいるが、それに手を伸ばせないでいた。
そんな俺の元にオタク三人組がやってきた。同士たちだ。
「おいどうしたよ間宮、腐ったみかんみたいな顔しやがって。こりゃあ重症だな」
「ふん、どうせれおな似の彼女とやらのことでも考えていたのであろう」
それはない。絶対に。
「とりあえずボクたちに付き合いたまえよ間宮進」
「いや……俺、お腹減ってないんだ」
「はん、野郎とは飯を食えないってか。おったまげたぜ俺は」
「友情とはかくも儚いもの。だがそれがいい――なわけあるかこのチ●カス野郎が!」
いやもうそれただの悪口だから!
「とりあえずボクたちに付き合いたまえよ間宮進。青春と彼女なんて捨てて友情を育みたまえよ」
だから彼女はいないんだって。
もしいたとしても……友達に対して捨てろとか言うな。
ちくしょう、こいつら話が通じない。
俺はしぶしぶと昼食をともにすることにした。
屋上であぐらをかきながら同士Cにもらったサンドイッチを頬張る。
たまごとハムがぎっしり詰まったそれは、シンプルながらに美味かった。
「それで、どうしたんだよ。ここ最近ずっとそんな調子じゃねえか」
「我らは同志、貴様に悩みがあるなら聞かねばならん。恋人がキスをさせてくれないだとか童貞を捨てさせてくれないなどと、たわけたことを抜かせばその頭蓋を叩き割ってやるが、な!」
同士Bはいつもこうだ。おそろしいことを平然と言ってのける。本名は佐藤三郎というどこにでもいそうな普通の苗字ではあるのだが。
「話してくれたまえよ間宮進。ボクたちが力になれるかは別として、話すだけでも楽になることだってある」
それは確かに一理あった。
一人で悩んでいてもきっと答えなんて出ないだろうし。
俺は観念して話をすることにした。
ユマと出会ってからの出来事をかいつまんで話した。
もちろんストーカーだとかヤバそうな内容は全部伏せてあるが……。
マスコミにも話せないような内容をどうしてこいつらに話せたのか、それは俺も同士たちの『秘密』を握っているからだ。それこそ社会的に抹殺されてもおかしくないほどの。まぁ……俺も握られているんだけど。
そんなわけで、俺たち四人の口は固い。この四人以外の誰かに情報が漏洩するようなことはないだろう。
話が終わると、同士Aが重々しく口を開いた。
「お前……間宮、そんな嘘をよくも平然とつけるな」
「はんっ、嘘と嘘にまみれた人生を送ってる貴様に我はいま引いているぞ」
「嘘をつかないでくれたまえよ間宮進」
こ、こいつら……俺がせっかく洗いざらい話したのにこの態度である。同士たちの目がイタイ。
いやそうりゃそうか、国民的アイドルと俺が結婚の約束をしているだとか、今はスタ女のAPをしてるだとか、メンバーの一人にユマの躍進の邪魔をしないよう相談を持ち掛けられたとか、いきなりそんな話をされても信じる奴の方がどうかしてる。
……どう考えたって、俺の妄想にしか聞こえないだろうな。
「ははっ、まあ……そうだよな、そういう反応になるよな。イタイ妄想だって」
「おい間宮、お前なにか勘違いしてねえか?」
「であるな。こやつは完全にポンポコリンの頭になっておるわ。とりあえず歯を食いしばれ」
「ボクも一発殴らせてくれたまえよ間宮進」
「わ、悪かった。落ち着け同士たち……ちょっとボケをかましただ――ぶほっ! ごえっ! ぎゃあッ!」
俺は三人にぶん殴られた。
ひどいぞ同士たちよ……妄想話に対してそんな怒ることないだろ。
「い……いてえ、おい……何すんだよ!」
「おい間宮、俺はバカだから『話』が『嘘か真実か』なんてわかんねえ。でもな、真宮寺ユマのファン第一号で、ウザイくらいのドルオタのお前がそんなくだらねえことで悩んでるんだとしたら、お前は偽物だ。嘘つきだ。俺たちの間宮を返しやがれ!」
「おそらくドッペルゲンガーというやつであろうな。貴様は同士に化けた偽物……推しのことを第一に考えない貴様など、もう人でもないわ! この雑魚が!」
ザコは絶対に関係ない!
「間宮進を返したまえよ間宮進の偽物。嘘つきなキミはボクたちの知る間宮進じゃない。だから、早く本物の間宮進を返しなよ間宮進の偽物」
に、偽物、偽物……うるさいぞ。
でもそうだ、何を俺は悩んでたんだ。
大切なのはユマの気持ちじゃないか。そうだ。推しのことを第一に考え、その幸せを願うことがファンの本望であり、俺の義務だ。
例えユマがアイドルを辞めたとしても、その人生に寄り添い、支えていくのが真のファンじゃないか。
それでこそ真のアイドルオタクだ。
ユマは俺なんかのために……全力でトップアイドルを目指してくれているんだ。
それなのに俺はなんだ?
ウダウダと悩みやがって!
自分の心に嘘をついて、嘘のごたくばかり並べて、嘘と嘘にまみれて、俺ってやつは一体どこをさまよってたんだ。
ああ、ちくしょう! バカ野郎!
ユマがストーカーでもいい。ユマがちょっと病んでる子でもいい。ユマに嫌われたっていい。
嫌われたくはないけど、俺は推しの気持ちを第一に考える、推しの幸せを願う者だ。
そう思うと、憑き物が落ちたかのように心が軽くなった。
「目が覚めたぜ……同士たちよ。なぁ、俺が全国のドルオタを敵に回しても、俺と友達で……いてくれるか?」
「おい間宮、そんなの決まってるじゃねえかよ」
「ああ愚問中の愚問だな」
「見損なわないでくれたまえよ間宮進」
「お、お前ら……」
「過激派がお前を狙ってるうちは、絶対に近づくんじゃねえぞ」
「同感だ。我もいらん恨みは買いたくない」
「ほとぼりが冷めるまで近づかないでくれたまえよ間宮進」
「ひ、ひでえ……お前らそれでも友達か! でも、ありがとう……な」
にっと笑えば、同士たちも笑い返してくれた。
タイムリミット?
そんなものはもうどうだっていい。ユマが次のシングルで一位をとれば、おそらく大きなステージでライブをする機会が来るだろう。
そこで俺は、ユマにファンとしての俺の答えを示そうと思う。親衛隊にも声をかけなきゃいけないな。
ああ……ユマ、好きだ!
キミを推し続けると誓ったあの日から。
俺はとっくにキミに落ちていた。
アイドルだからじゃない。
真宮寺ユマという一人の女の子として、俺はキミを推すよ。
キミがトップアイドルを目指すなら、俺も全力でその道を応援する!
キミが俺との夢を叶えたいと願うなら、俺も全力でその道を駆け抜ける!
綺羅さん。すまない。
自分の気持ちと向き合ったからにはもう止まるわけにはいかない。前進あるのみだ。
ドルオタの本気ってやつを、あなたにも見せつけてやりますよ。
例えそれがドルオタ人生の最後になっても、後悔だけはしない。
サイリウムを握れなくなったとしても、ライブ会場のあの熱気を味わうことができなくったとしても。
俺は俺のやり方で、ユマを推す!
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