第26話 ファンを超えたファン

 土曜日、アイリスプロジェクト社に行くと入り口で警備員に呼び止められた。


「間宮進さんですね? 能上から通さないよう申し付けられております。申し訳ございませんが、本日はお帰りください」


 ど、どういうことだ。

 ビルから少し離れたところで、俺はマオさんに電話をかけた。


「マオさん、どういうことですか」


『ああ、すまないね進くん。ちょっと事情が変わってしまってね。今、どこにいるんだい?』


「ビルの前です」


『そうか。キミはしばらく自宅待機だ。ユマのシングル発表後からコンサートツアーが終わるまで」


「そんな……どうして」


「キミをAPにしたことでメンバーの一人が不満を漏らしたんだ。悪いが説得には時間がかかる。それと、コンサートに関してもキミは出入り禁止という扱いを受けることになるだろう。抽選をしてもチケットは当たらないだろうし、何らかの方法で入手したとしても現地の顔認証で引っかかるはずだ。すまないが、しばらく我慢していてほしい」


「……そ、それは困ります! で、出禁って……突然すぎて何が何やら。もしかして綺羅さんが何か」


「ああ。キミは太陽に近づきすぎた」


 綺羅さんの名前を出した途端、マオさんの声色が変わった。

 今まで聞いたことのない……恐怖さえ感じる冷たい声だ。


「間宮進。キミはおそらくもうユマに近づくことができないだろう……ボクの言ってることはわかるね? それでも進みたいと願うなら抗ってみるがいい。は全力でキミの邪魔をしよう。友のためにね」


「そ、そんな……」


 電話は切れた。

 しばらく俺はその場から動けずにいた。

 タイムリミットまではまだ時間があったはずだ。ユマから俺を遠ざけたいと願う綺羅さんの想いはそれほど強いということか……。だが、俺は……。


 ★


 同日同時刻。

 アイリスプロダクションのミーティングルームにて。

 ユマと綺羅が大きなテーブルをはさんで向かい合っていた。


「ユマぴ、わかってるね?」


「はい、綺羅さん!」


「うんうん。これは全てユマぴと間宮っちのためなんだからね。間宮っちがAPのままだとユマちと間宮っちの約束は一生本物にならない。だからこれは仕方のないことなんだにゃ」


「……ぅぅぅ……まさか、進くんがマオさんと綺羅さんにわたしとの『約束』を話してたなんて……ちょっと恥ずかしいです」


 ユマは顔を赤らめ、もじもじと自分の指を絡める。

 目の前の乙女に先輩然とした笑みを向けながら、綺羅は心の中で舌を出した。


(ごめんねユマぴ、間宮っちからはなーんにも聞いてないんだにゃ。全部マオにゃんから聞いたことなんだ)


 ユマがその気になれば進に会いに行こうとするだろう。

 それこそ、進の家に押しかけてそのまま……ということもありえる。

 それ故に二人が交わした『約束』をある種の『制約』にすることで、進との接触を完全に断つ必要があった。


 ただし、ユマがナンバーワンアイドルになっても、二人が『結婚』するなどという道には進ませない。その仕掛けは綺羅の独断で施されている。グループを私物化したマオの協力を仰げば、ユマから進を遠ざけることも不可能ではない。


 筋書きはこうだ。


 本日発表のシングルでユマが一位をとる。

 ツアーコンサートの最終日にユマが進に呼びかける。

 もちろん名前などは全て伏せさせ、間宮進であることを悟られないようにする。

 だが進からの返答はこない。

 ライブ中、数万人の観客の中から進を見つけ出すことができるというユマにだからこそ通じる、この方法。

 

 間宮進は

 その『仕掛け』はすでに施されている。

 

 ユマの目に、進が映ることはない。

 そしてライブ終了後、ユマは進に呼びかける。

 だが返事はない。

 そこで初めてユマは気づくだろう。

 自分の愛した男が、自分を見限ったことに。

 もう手の届かない存在になってしまったことに。

 そのショックできっと彼女は壊れてしまうだろう。


 真宮寺ユマにとって間宮進は推しなのだ。ただのファンではない。

 アイドルとしての頂点を目指す彼女にとって、自分の支えであり続けてくれた唯一無二のファンはかけがえのない存在だ。


 その彼が、自分から離れていった。

 それはユマの心に致命的な傷を残すことになる。


 その傷が癒えたとき、ユマは究極を超えたアイドルになるだろう。

 

 ユマの背中を押す言葉はたくさん考えた。

 もっとも効果的なのは、もう一度進に振り向いてもらうために、世界一のアイドルを目指そう! といった類のものだろう。


 約束という制約でユマを縛り付ける。


 綺羅の筋書きはユマにもっとも効果的な方法のはずだった。

 誤算があったとすれば――


 綺羅は進のことを見くびっていた。

 筋書き通りに物事が運ぶと信じ込んでいた。

 ――進は、綺羅の想像以上のスピードで動き始めていた。


 ★


 ユマのシングル『オンリーワン』は、彼女にしては珍しいバラードだった。

 先行配信の際に聴いたそれは、ひとりの男を愛し続けると覚悟を決めた乙女の歌詞で、その切なさがファンの涙腺を崩壊させた。


 だが俺は知っている。

 この歌には、俺へのメッセージが込められているということを。


「隊長、お疲れ様であります」


「お疲れ様です。高谷さん、昼休憩中にすみません。スタ女のコンサートツアーのことでどうしてもお願いしたいことがあって」


 この日、俺は親衛隊の面々に会いに来ていた。

 俺より年上の人が多い、というより……ほぼ社会人の集まりなので、時間の都合がつきにくい人もいる。

 コンビニ袋を片手にスーツ姿で現れた高谷さんは、嬉しそうに言った。

 急な連絡をしたというのに、俺が来るのを待っていてくれたらしい。ありがたいことだ。


「間宮くんのお願いならなんでも聞くよ。なんだい?」


「実は――」


 俺は高谷さんにとある計画を持ちかけた。

 自分勝手でドルオタとしては最低な計画だ。


 だが、もはやなりふりかまってはいられないのだ。

 ユマに会いたくても会えず、応援したくとも推すことができない今の俺の想いを伝えるには……この方法しか思いつかない。

 

 茨の道だ。

 だが俺は迷わない。


 俺の信じた道を進む、と誓ったのだから。


 ★


 ユマのシングル『オンリーワン』はあらゆる音楽配信サイトで軒並み一位をかっさらった。

 しかもウィークリーでも二位以下に圧倒的な大差をつけて、堂々の首位だ。

 まさに前代未聞。この快挙に、マスコミは大騒ぎ。

 連日のようにニュースで取り上げられた。


 ユマ……やっぱりキミは凄い。


「ちょっと進、あんた私たちを呼びつけておいて、ユマのニュースばっかり見てるんじゃないわよ」


「内密にこうして会っていることがバレたらリリちゃんたちもやばいんですけどね。てかマオさんには遅かれ早かれ気づかれるでしょうから」


「なら二人は帰るネ。進のお願いはワタシが聞くアルよ」


「お兄ちゃんのお願いならなんでも聞くよ!」

「そうね。お兄様に大事な話があると言われれば、たとえ火の中水の中です」


 この日、俺はスタ女のメンバー五人を麗麗の行きつけの高級中華店に呼び出していた。ここなら人目もつかないし、多少込み入った話をしても大丈夫だ。


「集まってくれたことには感謝する……けど、キミらトップアイドルだよね? 全員集まるとは思ってなかったからびっくりしたよ。うん、びっくりした」


 しかも俺はメンバーと一切接触できない状態だ。そんな中、連絡一本でこうして集まってくれたのは素直に嬉しいけど、こいつら本当にアイドルとして危機感あるんだろうか。

 だが、そのおかげでこうして内密に話ができる。

 ありがたいことだ。


 俺は五人に頭を下げた。

 そして、自分の考えた計画について話した。


 ★


 スタ女のコンサートツアーは順調に進んでいるらしい。

 トリがユマの新曲お披露目ということもあって、ファンの期待値は最高潮だ。


 そんな中迎えたツアー最終日。


 ドームに入れない俺は『ユマLOVE』のTシャツを着込み、サイリウムと無線機をバッグに入れてドームの外で待機していた。


 その時が来るのをずっと待ち続けながら――

 ユマなら何かしらのメッセージを俺に残してくれる。

 それは根拠のない願望ではなく、確信に近いものだった。


 もっとも、今日この日まで声をかけた親衛隊の面々が、胸中では俺の計画に反対の声をあげているのであれば、俺の想いはユマに届かないだろう。


 やれることはやった。ただの一般人パンピーである俺が考えつく案などこの程度だ。


 それでも、俺はユマに自分の想い……を伝えたい。

 それが結果的に、たくさんの人を傷つけることになったとしても。

 もう迷いはない。あとはその時が来るのを待つだけだ。


 ★


 ドームは満員だった。

 やがてコンサートの開始時刻を迎え、舞台袖に捌けていたメンバーがステージに現れると一斉に歓声があがった。

 主役のユマがセンターでマイクを握ると、会場の熱気は最高潮に。


 そんな中、観客席では『無線機』を持った者たちが何やら神妙な面持ちでユマの様子を見つめていた。


 その数、およそ千人。


 ――会員№2、高谷さとし。位置についた。オーバー。


 ――会員№1032、渋柿太一っす、関係者席埋まっています! れおにゃんの指定席でライブを拝めるなんて光栄っす! オーバー!


 ――会員№458、大町ひなです。こちらも準備できました。オーバー!


 ――会員№612、音駒五郎……当日になりましたが、なんとか席を譲ってもらえました。位置取りOKです。オーバー。


 ――会員№268、配置的に、宴には参加できませんがここにいます。オーバー。


 ――会員№3


 ――会員№10


 ――会員№34


 ――会員№2、高谷さとし。進くん、状況はちくいち僕の方から伝えるよ。オーバー。


 ★


 ……よし。

 すべての席は埋まらなかった。だが形にはなった。

 何度もライブに行ってる俺だからこそわかる。この配置であれば布陣が完成する。

 れおな、璃々愛、麗麗、乃蒼、美結良、五人が親族や友人を呼ぶための関係者席を確保してくれなかったら、この計画は成立しなかった。


 親衛隊が抽選で席を取ってくれなければ、俺なんかのために交渉してくれる同士がいなければ、この計画は成立しなかった。

 感謝してもしきれない。


「皆さん……本当にありがとうございます。わがまま言ってすみません。自分だけのことしか考えていない俺に力を貸してくれて、本当に……ありがとうございます」


 無線機から笑い声が聞こえた。


 ――今さらなに言ってんだ隊長!


 ――むしろその話が嘘だったら怒るところですよ!


 ――夢を見させてくれ。トップアイドルと俺たちが認める一番のファンが結ばれる夢を。


 ――隊長、我々親衛隊は全員貴方の味方であります。


 ――スタ女の再結成ライブの箱を埋めたのは誰がなんと言おうとあんただ。


 ――アングラ時代の解散ライブが懐かしいっすね。


 ――一度はファンをやめた。スタ女を見限った。そして一から奇跡を間近で見続けた……感謝するよ進くん。キミと知り合えたことを誇りに思うよ。


 俺は、涙がこぼれそうになるのを必死で堪えていた。

 まだだ……まだ泣くときじゃない。


 さあ……いよいよだ。

 この作戦にはタイミングが重要だ。

 俺の合図で、みんなが動き出す。


 ★


 ユマはステージの上から、進を探していた。

 いつもならすぐに見つけられるはずの進が見当たらない。

 というより……一度もツアーに進が来てない。


(どうして……? 一位もとった。まだナンバーワンアイドルには届かないかもしれないけど……進くんにとって、かけがえのない存在になったはずなのに)


 不安が募る。

 もしかしたらもう自分には愛想を尽かしてしまったのだろうか?

 だから来てくれないんだろうか?

 そんなの……嫌だ。


(これがヤリ捨て? ……指切りだけして……もう終わりなの?)


 ステージの上で、ついにユマの目に涙が浮かぶ。


 新曲の披露がもう間もなくだというのに、ここで涙をこぼしては今までの苦労が水泡に帰す。

 必死にこらえようとするユマ。

 その様子を綺羅は舞台袖から複雑な表情で見つめていた。


(ごめんねユマぴ。でも間宮っちは来ないよ。てか来れないよ。数万人の観客の中からたった一人を見つけだせるっていう、ユマぴのアイドルらしからぬ特技……それを逆手に取ったんだから。だから呼びかければいい。呼びかけてもいないなら、そういうことだにゃ。っと、そろそろ時間かな)


 マオが舞台袖に待機するスタッフたちに合図を送る。

 同時に、会場の照明が落ちる。

 会場は真っ暗になり、観客席からは戸惑いの声が上がる。


 次の瞬間――

 ステージの上だけにスポットライトが当てられた。


 ユマはマイクを握り、すぅー……と息を整えてから口を開く。

 その声は今日一番の力強さを感じさせるものだった。


「聞こえてますか……あなたは今そこにいますか……わたしの特別で唯一無二のあなたに今呼びかけています……」


 おそらくファンは新曲『オンリーワン』の前口上だと思っているだろう。

 

「探しても、探しても……探しても……見つからないのはなぜ? わたしの声は、想いはあなたの心に届かないのですか?」


 おそらく、いつもと違うと気づいたのはスタ女をずっと見守り続けていた者だけだろう。




 ――№2、高谷さとし。進くん、ユマぴが誰かを探している。おそらくはキミだ。合図があればすぐに動く。オーバー。





「もし……届いているなら、お願いです。あなたの想いを……知りたい。これまでずっと、わたしはあなたのためだけに歌ってきました……」





 ユマの瞳が闇に曇る。

 観客席はみな静まり返っている。

 スタッフも固唾を呑んで見守っている。

 そして――無線から声が届く。





 ――会員№1、親衛隊長、間宮進。――同士諸君、作戦名『ドリーム☆ドリーマー』を決行せよ!





 ユマのファーストシングル『ドリーム☆ドリーマー』の名を借りた作戦。夢追い人の夢。


 その合図とともに、会場にサイリウムの輝きが広がった。

 それは局所的だった。

 数万人が埋まった観客席の中で真っ赤に輝くのはごく一部。

 どの色のサイリウムを持っているかで、推しを応援する気持ちがわかる。


 だが誰の色でもない『赤色』の特殊サイリウムが、観客席の中にハートの形になって展開されていた。


 そのハートは完璧には程遠い、不格好なものだった。

 抽選というハードルがある以上、カンペキな形にはなりえなかった。


 だが、形は成った。


 それはステージからしかわからない。

 会場のファンは気づくはずもない。


 ――だが、ユマの目には赤色のハートが見えていた。

 そのハートの中に、彼はいなかったが、彼の想いは確かに感じることができた。


 間宮進でないと、こんな仕掛けはできない。


 ユマの瞳に涙があふれた。

 そして輝きを取り戻す。


「聴いてください。オンリーワン」


 ユマはマイクを握りしめ、ありったけの想いをこめて歌い出した。


 ★


「嘘でしょ……」


 綺羅は舞台袖から、その光景に絶句していた。

 

「だから言ったろ綺羅。間宮くんをなめない方がいいと。彼は立ち止まったあとの一歩が恐ろしいのさ」


 綺羅は信じられないものを見たかのように呆然としていた。

 その隣でマオが誇らしげに胸を張る。


「スタ女が地下から這い上がった時の話さ。キミも覚えてるだろ、再結成記念ライブで間宮進が引き連れてきた総勢500人のファンたちを。今では親衛隊と呼ばれているね。その規模は膨れ上がり、今もなお彼らだけは無線機を持って入場することを許されている。当時を知らないファンからしたら、一種のコール&レスポンスのパフォーマンスに見えただろうね。それを指示しているのは……他ならぬ間宮くんだ」


「そりゃ覚えているよ……でもあれは元々ファンだった」


「いいや違う。トレンドが移り変わる現代で、一度解散した地下アイドルグループを再び応援しようなんて酔狂なファンは少ない。1000人規模の箱を埋めるためにボクは間宮くんを利用したのさ。彼はかつての仲間一人一人に声をかけ、説得し、再出発したのスタ女の大いなる一歩に貢献した。まあ、その情報についてはキミから尋ねられることはなかったわけだし、ボクはキミとの約束を破ったことにはならないよね?」


 綺羅は、何も言えなかった。


「キミの言う究極のアイドルを超えるアイドルという筋書きは、単なる物語で、そしてその物語の主人公は間違いなく間宮くんなのさ。なにせこれはボクを推しと言ってくれた彼のために書いた、ボクのシナリオなんだからね。確かに究極を超えたアイドルは生まれないだろう。でも究極を超えるアイドルとファンの物語がそこにある。なにキミを否定するわけじゃない。キミの想いが間宮くんとユマを別々の道へと進ませていたなら、八乙女綺羅の物語が完成していただろう。だけどそれはイフで、もしかしたらありえたかもしれない裏ルートに過ぎないのさ」


 綺羅は何も言えなかった。

 何も言えないまま、舞台上を見つめた。

 そこには、マオの言う通り、生き生きと歌うユマの姿があった。

 会場が割れんばかりの声援で揺れている。


「キミも間宮くんのことが好きだったんだろ。だから彼を永遠のファンとして縛り付けようとした。ユマの翼になることで彼の想いすら繋ぎ止めようとした。キミが一番重くて、キミが一番破綻している」


 綺羅は舞台袖で崩れ落ちる。

 知っていた。知っていた。

 間宮進のことは当然のことながら知っていた。

 スタ女がまだ地下にいた頃から、彼はスタ女がトップをとることを確信していた。


 地下アイドルなら……ワンチャン、というよこしまな気持ちなどそこには一切なく、地下アイドルを推している自分に酔っているわけでもなく、ただスタ女というグループを心から応援していた。


 ファンを超えたファンというのが存在するならきっと間宮進のような人物のことを言うのだろう。


 飾り気のない笑顔でダンスを褒めてくれたことが嬉しかった。その目にはユマしか映っていないとわかっていたのに、それでも嬉しかった。

 ユマを推しているという割に、自分のことも応援してくれることが嬉しかった。その想いが報われないとしても、進がファンでスタ女がい続けてくれるなら構わないと思った。


 メッキがはがれる。

 究極のアイドルを超えるアイドルという筋書きも、すべては建前にすぎなくて、本当は進がメンバー全員を推してくれることが目的だった。


 本質はマオと何ひとつ変わらない。

 ただ目標の度合いが違った。

 メンバー全員を認めてもらいたいというマオの願いと、ユマと同等にメンバー全員を推してほしいと想った綺羅の願い。


 本質は同じなのに、限りなく近い願いなのに、まるで正反対のものだ。


 これではただの嫌な女だ。

 憎まれる道を自ら選んでしまった。


 綺羅はステージの上で歌うユマを見て思う。

 ――ああ、やっぱり悔しいなぁ。


「ライブが終わったら飲みにでもいこう。一杯奢るよ。もちろんソフドリだけどね。あのユマが抜けるんだ。今後の方針も立てねばならない」


「この物語に続きはあるの?」


「続編があるとすれば、それは間宮くんを見返す物語だろうね。欠員を埋める大規模オーディションを行う。そのピラミッドの頂点に立った究極のアイドルの卵をボクたちで育てる。そしていつの日か、ずっとスタ女を応援しておけばよかった、と間宮くんに思わせてあげよう。どんな手を使っても」


「やっぱりマオちゃんが一番重くて、一番破綻してるね……にゃはは」


「キミに言われると少しカチンとくるね」


「へ~まだそんな感情が残ってたんだ」


 ユマは歌い終え、アイドルとしてのラストライブを終えた。

 それを知っているものはごくわずかではあったが、会場中のファンがユマのラストライブを見届けた。

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