八乙女綺羅

第22話 裏ボスは飄々としてるもの

「なるほど。確かにこれなら世界中をキミのパフォーマンスで魅了できるだろう。さすがは八乙女綺羅といったところか。いやこう呼び直そう、早乙女さおとめ美羅みら、と」


「にゃははー。マオにゃんに本名で呼ばれるの久し振りかもー」


 アイリスプロジェクト社のミーティング室。

 マオと綺羅はプロジェクトの進捗について話し合っていた。


「八人の乙女をキラ星のように輝かせる、か。まさにキミの芸名通りだな。本当にここまで来れるなんて、キミには感服するよ」


「名前だけだよ。あたしは何もしてない。マオにゃんがいろいろやってくれたおかげだよ」


「謙遜はやめてくれ。ボクたちは偶像に憧れる乙女たちにとって夢のような存在になった。キミたちのおかげで停滞していたアイドル業界に新たな風を吹かせることもできた。今や、みんなの一挙手一投足が大きなニュースになるほどにね。その先陣を切ってくれたのは紛れもなくキミとユマだ」


 マオはそう言って自嘲の笑みを浮かべる。


「ふふっ、あたしとユマが輝けるのも、みんなが頑張ってくれてるからじゃん?」


「否定はしない。確かにみんな優秀さ」


 綺羅とマオは互いに見つめ合ってほほ笑む。

 お互いに探り合うような、そんな笑みだった。


 椅子にかけた綺羅がコーヒーを口に含むと、マオは立ち上がって窓から外を眺める。

 高層ビル群と行き交う人々。


「高みへは届いた。ボクの計画は最終段階に来ている。スタ女の全メンバーを間宮くんに認めさせる、その目的は形は違えどほぼ達せられた。キミがボクの話に乗ってくれたから実現できたんだ。感謝するよ。約束通り、あとはキミの好きにしてくれていい」


「そうするつもりだよ。だってあたしがマオにゃんの計画に乗ったのは、究極のアイドルを超えるアイドルを――……って言わなくてもマオにゃんならわかっちゃうか?」


「聞こう。キミの頭の中にあるシナリオが言語化できているかぐらいは指摘できると思う」


 マオはそう言って、綺羅の向かいに座る。


「あたしはね、アイドルをホンモノの偶像にしたいんだ。ファンがどれだけ渇望しても手の届かない星のような存在に。マオちゃんの計画と……あの子たちの想いが、間宮っちをファンの中のファンへと昇華させた。その間宮っちでも手の届かないアイドルになれば、あたしたち八人の乙女は本当の星になれる。

 ――STAR★FIELD☆GIRLに」


 綺羅はそう言ってマオを真っ直ぐ見つめる。

 その目に迷いはない。

 彼女の目には未来が映っているようだった。

 マオはその未来予想図を聞いて、自嘲気味にほほ笑む。


「あたしはみんなを輝かせる、八乙女やおとめ綺羅きらになれればそれでいい。ユマぴと間宮っちが相思相愛だったとしても星の物語はそんなもの容易く引き裂く。アイドルとしての自覚を忘れたユマぴとファンとしての自覚を忘れた間宮っちは織姫と彦星のように、ライブ会場でしか会えない関係になるんだ」


「ならボクを恨むかい? でもボクは間宮くんをAPにしたことを後悔していないよ」


 マオの揺るぎない視線を受けて、綺羅は表情を緩めて言った。


「知ってる。マオちゃんはあたしじゃなくて間宮っちとユマぴの味方だもんね」


「というより間宮くんの味方だね。彼の気持ちがボクをホンキにさせた。ボクにとってSTAR★FIELD☆GIRLはただの副産物に過ぎない。だけど協力してくれたキミに主導権を渡さないというのはフェアじゃない。あの二人をどう引き裂くか、お手並み拝見といこうじゃないか。ボクもあの手この手を使ったが、間宮くんは手強いよ? あのノアとミュウラをボクとは違うやり方で手懐けてるからね」


 マオはお手並み拝見と言いつつ、本気で期待しているようで、挑戦的な微笑みを浮かべていた。

 その期待に応えるように綺羅も不敵にほほ笑む。


「望むところ。……にしてもマオちゃんってほんっとに腹黒だよね」


「そういうキミこそ、腹芸が過ぎるんじゃないかい?」


「あたしたちはみんなを明るく照らすアイドルだもん。腹黒くて当然。それでこそ、アイドルでしょ」


「それはキミに才があるからそう思うんだよ。そう言い切れるキミと、間宮くんを射止めたユマが少し羨ましい」


「でもそのユマぴは次のミュージック・グランプリで届かない存在に昇華する。あたしはちょっと背中を押して、間宮っちを地上へ叩き落とすだけ」


 綺羅のその言葉を受けて、マオは苦笑した。


(やれやれ……ボクはとんでもない子を協力者に選んでしまったのかもしれないな)


 マオは綺羅に悟られないように心の中で嘆息したのだった。



――――――――――――――――――――――

あとがき

やっと八乙女綺羅という名前の伏線回収ができました。

いや、長かったです。はい。笑

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