第14話 真夜中のインベーダー
アシスタントプロデューサー。
通称AP。
その名の通り、プロデューサーを補佐する役割だ。
既にライブやイベントに引っ張りだこの超人気アイドルになると、必然的に運営側が負担する仕事は多くなる。現在はスタ女のリーダー、能上マオがアイドル活動とプロデュース業の両立をしてくれているが、当然一人では手が足りない。
そこで新たに白羽の矢が立ったのが、俺ということらしい。
なぜだ、どうして……。
マオさんとの面識がない、というわけでもないが、あくまで地下アイドル時代に何度が顔を合わせていただけで、メジャーデビューしてからは疎遠だ。
そもそもアイドルとファンの垣根を飛び越えて、お話をしたことはないわけで。
その俺が、なぜアシスタントプロデューサーに?
「APはね、いわばプロデューサーとアイドルを繋ぐ架け橋なの。わたしも進くんがAPになってくれたらいいなって思ってたんだ」
ユマはもじもじしながら続ける。
俺はまだ混乱から立ち直れずにいた。
アイドルとファン、という関係を壊さないまま、新しい関係性を構築しようとしているのだ。
てか、ユマはそれでいいのか?
ナンバーワンアイドルになるまでは俺と会うつもりはないんじゃなかったのか?
……いや、違うな。
そうじゃない。
プロデューサーから話を聞いて、ユマも路線を変更せざるを得なくなったんだろう。
「あぁ、話は大体わかったよ。ありがとう」
未だに頭の整理は追い付かないが、今はそう答えるしかない。
マオさんやユマは俺をアシスタントプロデューサーにする気満々みたいだが、俺まだ学生だし、バイト気分じゃ務まらないだろうし……。
でも、ただのパンピー、一ファンが推しのグループに逆指名されるなんて、普通は有り得ないよな。
ファンクラブの連中は発狂するだろうなぁ。
兼業は難しいかもしれないけど、やってみない手はない。
そもそも俺はファンとアイドルいう関係性にこだわり過ぎていたのかもしれないな。
推しとの距離が近くなって困ることは何もないわけだし、むしろ近い方が色んな意味でメリットは大きい気がする。
それに何より、ユマが望んでくれてるんだ。
俺は俺の全力を尽くして、ユマを支えるしかないじゃないか。
新しい関係性で推しに恩返しする。
ファンとしてはこれ以上の喜びはないだろう。
「とりあえずユマから話は聞かなかったことにするよ。直々にオファーがあるなら、その時はもちろん喜んで引き受ける」
俺の言葉にユマは表情をパアッと明るくする。
「進くん……ほんとにいいの?」
「うん、構わないよ。……って言っても俺が直接手伝えることなんて大してないだろうけど。それでも何か役に立てることがあれば遠慮なく言ってほしい」
「嬉しい。わたし、約束忘れてないから」
「え、ぁ。うん」
「わたしがナンバーワンアイドルになったら……その時は」
ユマは真っ赤な顔のまま、俯きがちに言う。
上目遣いが可愛すぎる。
あまりの可愛さに一瞬意識が飛びかけた。
俺だって忘れてない。
てか、推しの方がその約束を実現してくれようとしてるって、一体どんな状況なんだ。
この現実は、あまりにも現実離れしすぎてて夢の中にいるみたいだ。
「ゆ、ユマ。大丈夫。覚えてるから。その時はどんなお願いでも聞くよ、絶対」
「ぁ、うん。さ、先にお願い言うのは違うよね。えへへ。それじゃ、わたしがナンバーワンアイドルになったら……その時は改めてわたしのお願いをきいてください。約束ね」
ユマはそう言いながら小指を俺の前に差し出す。
え、あ、これはあれか。
指切りげんまんってやつか。
俺は震える手でユマの小指に自分の小指を絡めた。
触れた部分から熱がじんわりと広がっていく。
や、やわらかい。
ただ小指を絡ませ合っているだけなのに、まるで唇と唇を重ね合わせているかのような感覚に襲われる。
し、鎮まれ心臓!
これ以上は危険だ。
ユマの顔を直視することができない。
推しが尊すぎる。
「ずっとこうしてたいな……」
「俺も……って、なんというか、その、今はマズくないかな……?」
「あ、だよね。今はまだ。じゃ、じゃあ最後にもう一回だけ……。今度は進くんから……」
「俺から?」
「うん。進くんから、指切り」
ユマは潤んだ瞳で俺をじっと見つめる。
その上目遣いが可愛すぎて心臓が止まりそうだ。
俺が?
俺からユマに指切りげんまんするのか?
そんなのまるで恋人同士みたいじゃないか……って、そもそも俺たちはまだ恋人ですらないんだが。
推しとファンの関係を超えて、今はどんな関係性なんだ?
ごくり、と生唾を飲み込む。
ユマはじっとこちらを見つめたまま、俺が指切りげんまんするのを待っているようだ。
こうなったらやるしかないか。
俺が意を決して、自分の小指を絡めようとした時。
ピンポン。
ピンポンピンポ
ピンホポピンポピンポ
ピンポーン!
だ、誰だ、こんな時間に!?
ふざけるな、今何時だと思っ……って、もう1時じゃないか。
「も、もしかしてご近所さんかな? ちょっと騒ぎ過ぎちゃった?」
「だとしても流石にこれは非常識だよ。ちょっと待ってて。行ってくる」
俺はため息を吐きながら立ち上がる。
ちょっと厳しめに怒ってやろうと、玄関の扉を開けるとそこには……
「やっほ進。来てやったわよ。まさかあんたがアシスタントプロデューサーに就任するなんてね、ビックリだわ。色々大変なことはあると思うけど、私を助けてくれたように、今度はあたしがあんたを助けるわ。何かあったら遠慮なく言ってよね」
なんとそこには、にかっと笑いながら手を振るれおなの姿があった。
ハハハ。
「んじゃちょっと上がるわよ」
「ちょっと待って。今日は帰れ」
「わかってる、わかってる。お茶飲んだらすぐ帰るから」
駄目だこいつ……早く何とかしないと。
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