間宮進

第13話 推しと急接近した件について

 どうするべきか。

 俺はどうしたらいい?

 真宮寺ユマ、水鳥れおな、黒姫璃々愛、三人の国民的アイドルとの接点を持ってしまうなんて。

 こんなことが公になれば、STAR★FIELD☆GIRLひいてはアイリスプロダクションそのものが大ダメージを負うことになるんじゃないか。

 

 璃々愛はまあいい。あの子は協力者だ。


 問題はユマとれおなだ。

  

 ユマに対して俺は紳士であり続ける必要がある。

 ユマが俺のストーカーだなんて今でも信じられないけど、とにかく「俺がそのことを知ってる」とバレないように慎重に行動しなければ。


 今までも上手くやってきたんだ。

 これからも上手くやれるはずだ。


 早急に対応すべきはれおなの方か。

 ここ最近、会いたい会いたいが加速してる気がする。

 これがあの伝説の会いたくて震えるってヤツなんだろうか。


 カップラーメンをズルズルさせながらそんなことを考えていると、ピンポーンとインターホンが鳴った。


 時刻は深夜0時。

 こんな夜更けに誰が訪ねて来たというのか?

 0時は流石に非常識な時間だ。

 怪しい宗教の勧誘か何かだったら怒鳴りつけて追い払おうかと思いながら玄関を開けると、そこには………………


 いやいやいやいやいやいや、ちょっと待ってほしい。


 幻覚でも見てるのか?

 俺の前に立っていたのは……


 私服姿のユマだった。



 ★


 ノースリーブのハイネック。透け感のある花柄のトップスで、下は清楚なスカート。女子アナみたいな格好だ。

 

 初夏に合わせた完璧な衣装。


 ……じゃなくて。


 非常に、いや、全く以て状況が理解できない。



 俺と交わした約束を叶えるまでは会わない。と、直接俺にそう言ったわけではないが、隣の部屋でユマは確かにそう宣言していたはずだ。

 はすはすしながら。


 なのにどうして?

 混乱する俺に向かって、ユマはぺこりと頭を下げる。


「あ、あのごめんなさい。こんな夜更けに。その、どうしてもあなたにお伝えしたいことがあって……」


「…………えと。あの。ファンです。ずっと前から」


 混乱のあまり、俺はそんなことを口走った。


「し、知ってる……。間宮進くん、だよね。ずっと……応援してくれてるの、知ってるよ」


 ユマは顔を真っ赤に染めながら、チラチラと上目遣いでこちらを窺うように見る。

 その瞳は微かに潤んでいて、あまりにも可憐で俺は眩暈を覚えた。


「…………」


「…………」


「そ、それで俺に伝えたいことって」


 ストーカーしてましたってことを白状しに来たのか?

 いや、流石にそれはないか。


  俺の質問に、ユマは恥ずかしそうにモジモジと身体をくねらせた後、意を決したように口を開く。


「こ、この度はアシスタントプロデューサーご就任おめでとうございます」


 ユマは潤んだ瞳を俺に向けて続ける。


「まさか進くんがお隣さんだったなんて、わたし、さ、さっき色々知って。こんな時間だし、本当は明日訪ねるつもりだったんですけど……どうしても我慢できなくて」


 アシスタントプロデューサー?


 何の話だ?

 

「進くんの想いが、プロデューサーさんに届いたんですね。凄いです」


「ご、ごめん。アシスタントプロデューサーとかプロデューサーとか、何の話……?」


 そう訊くと、ユマはきょとんとした表情になった。


「あれ……その、まだプロデューサーからお話は伺っていないんですか?」


 こくこくと頷くと、ユマは目を泳がせた。

 両手で頭を抱えたり、うーん、と唸ったりしながら考える素振りを見せる。

 なんだこの可愛い生き物は。


「ど、ど、どうしよう進くん、わたし……独断で進くんにお伝えしちゃったかも……」


「えと、とりあえず落ち着いて。こんな時間に玄関口で立ち話してたら……ご近所迷惑だし、ちょっと入って」


 ユマは、こくんと頷いてからおずおずと俺の部屋へと入ってきた。



 ★



 どうしよう。

 俺の部屋にユマがいるなんて、現実味がなさすぎて頭がおかしくなりそうだ。

 未だにこの状況が信じられない。

 いやでも目の前に座っているのは間違いなく本物のユマだ。


 まぁ、定期的に侵入されてるのは知ってるんだけど。

 それはストーカーをしてるユマであって、こうして俺と対面してるユマじゃないわけで、じゃあこの状況はユマからしたら初めての対面ってことになるのか。あぁ、いや、それも違うか。


 地下アイドル時代はけっこうお話してたしな。

 それがきっかけでユマはストーカー化したわけだし。


 でも国民的アイドルがそんな昔のことを覚えてるはずもない、と思いつつも、ユマだったら全部覚えてるんだろうな、とも思ってしまう。


 なんだかよくわからなくなってきたぞ。

 とりあえず、そんなことを考えている場合じゃないのは確かだ。


 ここはひとつ、落ち着いて話そう。

 うん、クールになるんだ俺。


 たとえ相手が国民的アイドルだとしても関係ない。

 いつも通りの俺でいこうじゃないか。

 

 そう決めて深呼吸をすると……


「わ、わたしがいっぱいだね。えへへ。嬉しい」


「あ、うん。ファンだから。ユマのグッズは全部買ってる」


「そ、それも知ってる」


「へ?」


「あーいや、違うの、こっちの話。そう、そうなの。えへへ」


 危うい。危ういぞユマ。

 俺の部屋の内装を知ってるってことはストーカー行為してますって自白してるようなものだ。


 言動には気を付けないと。

 いやそれは俺も一緒か……。

 などと自分にも言い聞かせて、本題を切り出す。


「あの、さっき言ってたアシスタントプロデューサーのことなんだけど」


 俺がそう言うと、ユマは一瞬だけ表情を強張らせた後、コホンと咳払いをしてから話し始めた。

 

 


―――――――――――――――――――

更新が遅れてすみません!

仕事の方が忙しく連続投稿できておりませんが、

エタることはないので、引き続きよろしくお願いいたします。

今の時期が過ぎたら連続投稿再会いたします!

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