水鳥れおな
第4話 自意識過剰なアイドル
あれ以来、ユマの気配は感じない。
もしかしたら隣の部屋は俺をストーキングするために借りた部屋なのかもしれない。
嬉しいようで、怖いようで、複雑な気持ちだ。
こちらから穴を塞いだり、どこかに仕掛けられているであろうカメラを取り除くこともできない。
そんなことをすれば――俺が気づいたことがバレてしまうし、そうなればもうステージ上で輝くユマを見れなくってしまうかもしれないから。
となれば、俺が取るべき行動はただ一つ。
普通でいよう。
いつも通りに。
監視されてると思うと、ハスハスするのすら気を使ってしまって、捗らない……という難点はあるものの。
俺はいつも通りに過ごして、ファンとして推すことに決めたのだ。
それしか……俺に道はないから。
☆
学校帰りのことだった。
駅の近くを歩いていると、ナンパされている女の子を見つけた。
ショートボブの髪を青く染めていて、まるでKポップアイドルみたいだ。
その女の子は嫌がっている様子だったが、男たちはしつこくナンパを続けている。
(ああやって抵抗すれば、するだけ相手の加虐心を煽るだけなんだけどな……)
「ちょっと、いくら私が可愛いからって、つきまとうのはやめてくれない?」
なんて高飛車な子なんだ。
凛とした声で、クールな物言い。
「いいじゃん、お茶くらい。俺らとキミならめっちゃお似合いだし? ね、行こう?」
「は? お似合いなわけないでしょ。鏡見て出直したら?」
ド直球な物言いに、ナンパ男たちは逆上していく。
あの物言い……どこかで、聞いたことがあるような?
男の一人が、女の子の手首を掴む。
その瞬間、俺の脳は思い出すよりも先に、動いていた。
俺は男たちに向かって駆け出す。
「おい! その子、嫌がってんじゃんか!」
そして男たちの前に立ちふさがる。
男たちは俺にガンを飛ばしてきた。
目が血走っていて、すごく怖い。
だが、ここで引いてしまっては……――十分後、ボコボコにされて、路上にうずくまる俺が出来上がってしまう。
男たちはしらけたと言って、どっかに行ってしまった。
俺はふぅ、とため息を吐くが――女の子は俺を、じぃっと見つめてくる。
「誰も頼んでないんだけど。余計なお世話なんだけど」
なんて、ツンケンした態度を取ってくる。
俺はその子に見覚えがあった。
ステージの上の彼女より、少し、子供っぽく見えるが、間違いない。
――こ、この子、STAR★FIELD☆GIRLの
(な、なんでこんなところに……!)
俺の推し――真宮寺ユマの親友にして、ユニットも組んでいる、正真正銘のアイドル。
「……ナマ、れおなだ」
「ちょ、しー、静かにしてよ、バレちゃうでしょ」
れおなは帽子とサングラスをかけてはいるが、それでもオーラが隠せてない。
服装は、白のトップスに青いジーンズ、黒タイツとスニーカーという、非常にシンプルな服装で決めている。
「あなた私のファンなわけ?」
「あー、いえ、俺はSTAR★FIELD☆GIRLのユ――」
「ああ、わかったわかった。大丈夫、私のファンだってことはもう十分わかったから、今は黙ってて」
れおなは俺を黙らせると、ため息混じりに言ってきた。
いや、ユマのファンなんだけど。
「プライベートではサインとか握手とかしてないから、ごめんなさいね」
いや……正直、キミのサインはいらないし、握手も求めてない。
だって、推しは一人しか居ないし。
「私のファンだからって、そんなに無理しちゃって。血が出てるじゃない。あれぐらい私ひとりでどうにかできたのよ。私はね、自分のファンには体を大事にしてほしいの」
そのアイドル精神はとても素晴らしいものだと思うけど、俺はキミのファンではない。
キミの親友の、真宮寺ユマのファンなんだ。
「あの、俺の推しは――」
「しつこいわね。私が推しなんでしょ? わかりました。でもプライベートはプライベート。私はアイドルやってて、あなたはファン。わかってくれるよね?」
「いや、ちがくて」
「ちょっと、あなたもナンパ? 助けてくれたのはそういう理由?」
「そうじゃない……俺はただ、ユ――」
「ユードントラブが好きなのもわかりました。私のシングルCD買ってくれたのね、ありがとう。礼を言うわ。でもこれ以上はもうダメ、私も行くところがあるから。ついてこないでね?」
れおなはそう言うと、俺の前から去っていった。
バラエティ番組でもよくMCの進行遮って困らせてるイメージだけど、リアルでもそうなんだな。
帰るか。
俺は帰路についた。
★
れおなは少年が視界から消えるのを見届けると、尾行を始めた。
これから行くところもなければ、予定が入ってるわけでもない。
ただ、街をぶらついていただけだ。
この尾行にどんな意味があるのか?
アイドルと急接近したファンがストーカーになる事例は枚挙にいとまがない。
これはそう。もしもの時のため、住所を特定しておくことですぐに訴えられるという保険のためだ。
(ナンパから助けてくれたことには感謝するけど、危険人物との線引きは重要だから)
そういえば、彼の名前を聞き忘れてしまっていた。
とりあえずA君でいいか、と勝手に呼び名を決める。
(私に惚れちゃったわよね……でもごめん、私はアイドルだから誰とも恋愛しないの)
そんなことを考えながら、れおなは尾行を続ける。
彼はすぐ近くのコンビニに入っていった。
れおなはその後を追い、外から中の様子をこっそりとうかがう。
(さて、何を買うのかしら?)
彼が買ったのは、週刊少年マ〇ジン。
今回の巻頭グラビアは確か――ユマのはずだ。
(どういうこと? 私という推しがいながら、なぜユマのを……?)
なるほど、A君はきっと大のマンガ好きなのだ。
そうでなければ自分を差し置いて、ユマのグラビアなど見ないだろう。
(あんなにボロボロになって、ホント、私のファンって私のことが好きすぎ。どう考えたって勝てないのはわかってたでしょ)
自動ドアから出てきたA君は、ほくほく顔で店外に出てきた。
(私と話せたことがそんなに嬉しかったのね。健気じゃない、あの子。あんな風に遮っても遮っても『推し』アピールをしてきたのはあの子が初めて。私が冷たくすると、みんなどもってしまうから。ああ、でもあのA君は違った。私のために身体を張って、必死だった。これだからオフの日の外出は侮れないのよ。自然的ではないにしろ、運命的じゃない、ちょっと。ああ、もう。だめね、私はアイドルなんだから……)
れおなは頬を軽く叩いた。
これは彼の私生活を暴こうとしているだけだ。
「ふーん、なるほど、あのマンションに住んでるのね。よし、覚えたわ」
自宅は突き止めた。
明日、偶然を装って――会いに行くのはどうだろうか。
そう、これはお礼だ。
助けてくれたお礼に、お茶ぐらいなら……アイドルとして、それはよくないかもしれないけど、プライベートということなら。
STAR★FIELD☆GIRLはプロ集団。
そこらのアイドルとは違って、歌も踊りもできて、全てに特化しているアイドルの中のアイドル。
だから恋愛だって禁止じゃない。
恋をしたって、人気が落ちなければ大丈夫。
親友のユマだって、好きな人ができたら付き合うことを公言しているじゃないか。
それでもユマの人気は落ちないのだから、問題はないはずだ。
そう、問題はない。
(私だって、トップアイドルなんだから。男の子の知り合いぐらい……一人や二人、いたっていいじゃない)
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新キャラ登場です。
この子もかなりやばめ。
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私のフォローもして頂けますと感無量でございます。
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