第7話 お前が面倒見るんだよ!
『霊子力』
突然ながら『霊子力』。
この世界の至る所から噴出する、不可視のエネルギーだ。
あらゆる物質、現象に姿を変える性質があり、『世界の根源』、『始まりの力』なんて呼ばれている。
我々人類は、この霊子力を様々な技術で利用し、力を得て、生活を豊かにしてきた。
生身で火や水を生み出す神秘の力『魔術』。
身体能力や肉体の強度、治癒力等を高める『生体魔法』。
そして、今の人類の文明の象徴たる『魔導』。
霊子力を決まったパターン、ルートで流すことで力を生み出す文明の要で、誰でも簡単に使える魔術として広まり、今では照明や上下水道、魔導船に魔導列車等、我々の生活に欠かせないものになっている。
今、俺がいるこの『部屋』も、そんな魔導技術の結晶――魔導具の一つだ。
客室一つ分のスペースを丸々使った大型魔導具『通信機』。
人工粒子で形成されたスクリーンには、遠方にいる我が上官殿が映されている。
ギリアム・ケール・グランツマン准将閣下。
階級にして5つも違う上官との直接通信など、本来許されるはずもないのだが、俺と閣下の場合は事情が違う。
閣下は俺の直属の上官であり、親のいない俺の後見人。
そして、俺を
俺が『緊急の要件』と言えば、よほどの事情がない限り通信に応じてくれる。
本当に緊急じゃない時に呼び出したら、何されるか分かったもんじゃないけど。
「……と、こんなところです」
「成る程、状況は把握した」
あの後、俺は積荷の少女――クラリスを連れて最寄りの砦に向かった。
彼女を棺に押し込んだのが、本当にジョーバンの統合軍なら、そこにクラリスを連れ戻すのは危険だ。
だから、少し距離はあるが別の隊が駐屯している砦に向かい、直接閣下から指令をもらうことにしたのだ。
ついでに、黒ーブ2人も引き渡した。
閣下はまぁ、素行は色々と問題あるが、30後半で准将に上り詰めただけあって優秀な方だ。
普段の言動からは想像もできないが、自身の利益よりも、統合軍や人類全体のことを優先する高潔さを持っている。
そして、これまた普段の言動からはカケラも想像できないが、根は善人だ。
普段の言動からは、全く、一切、想像できないが。
「何か不敬なこと考えてねえだろーな?」
「ノー、サー」
俺が少年兵にして中尉という階級を得られたのは、戦果が認められたからだけではない。
下手に力を持ったガキが利己的な大人の食い物にならないようにと、閣下が気を回してくれたおかげだ。
何のことはない。
悪辣に振る舞ってはいるが、この人は子供に甘いんだ。
だから、クラリスのことも、真っ先に相談しようと決めていた。
余程の事情がない限り、悪いようにはしないだろう……しないだろうが……。
「そのガキは俺の預かりとする。しばらくは、お前が面倒を見ろ」
ですよね。
閣下の預かりにはできたし、少しの間くらい、面倒見てやろう。
ここで放り出すのも、寝覚が悪い。
それに、何を隠そうグレンお兄ちゃんは孤児院出身。
ガキの扱いはお手のもん……の、はずだ。
「何か質問はあるか?」
「彼女は、いったい何者なんです?」
というわけで、諦めて聞けることを聞いてしまおう。
「詳細は教えられん」
ですよね。
「が、邪神との戦争を左右する可能性がある娘、とだけ言っておこう」
「……めちゃくちゃVIPじゃないですか。さっさと閣下んとこまで連れて行きましょう。飛空挺出してくださいよ。俺、ブラックバード乗りたい」
飛空挺…かの『錬金術師』ライル・アウリードが世に放った、文字通り『空飛ぶ船』だ。
ブラックバードはその中でも特注品。
何でも大陸を飛び出して、世界一周してきたって噂まである。
これさえあれば、ウィスタリカの本部までひとっ飛びである。
「出さねえよ! しばらく面倒みろって言ったろーが。そもそも、そいつは最初から、お前に護衛させるつもりだったんだ」
「マジですか?」
「マジだ」
だから、次の行き先あの街だったのか。俺、一応、休暇を命じられてるんですが?
「それを、どっかの馬鹿が私物化しようとして、慌てて移動させた結果がアレだ。ったく……馬鹿は余計なことしかしねえ」
それであの程度の戦力で、重要人物を護送してたわけか。
「馬鹿については、こっちで始末をつける。お前は追って指示があるまで、彼女を守れ」
「イエス、サー!」
筋トレ三昧になると思っていたこの『休暇』、中々波瀾万丈になりそうだ。
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