第2話 グレン中尉の一人自己紹介タイム

 ここで少し、俺のことを話しておこう。


 興味ない? まぁ、そう言うなよ。

 暇潰しだと思ってさ。



 名前はグレン・グリフィス・アルザード、14歳だ。

 容姿は……多分普通。

 イケメンと言われたことはない。


 ブサイクと言った奴はボコボコにして土下座させた。



 真っ黒な髪は、この大陸ではちょっとは珍しいかも。みんな、髪色は結構カラフルだ。


 で、今はこのグリムグランディア統合軍で、少年兵をやってる。

 所属部隊は無い。参謀本部直属の特務兵で、階級は中尉だ。


 本当は中尉って、小隊か中隊辺りを率いてないといけない階級らしいんだけど、単騎で部隊並の戦果を出し続けると、役職無しでも大尉まではいけるんだと。


 そんな訳で、ボッチで中尉をやってる俺も、ガキのくせに結構強い。

 上の作った戦力評価だと、統合軍最強『赤頭巾』の次くらいらしい。


 そんな強い男の子であるグレン君の今回の任務は、ダンケルク小隊の支援だ。



 彼らの次の任地は、邪神支配域と隣接するシェンビータ王国東部。

 そこで邪神の群れ、凡そ7,000体が確認されたのだ。

 ダンケルク小隊の割り当ては、そこから逸れた300体の小さな群れ。


 だが先の襲撃でもわかる通り、彼らはクソ雑魚素人集団だ。

 間違いなく、大した抵抗も出来ずに突破されてしまうだろう。


 というわけで参謀本部は、保険として一人大隊ワンマンアーミーたる俺を送り込んだというわけだ。


 しかし、ダンケルク中尉はどんな魔法を使って、あのシャバ造共をこんな任務について来させたのだろう。

 駄々をこねて、暴動の一つでも起こしそうなもんだけど……。


 まぁいい。とにかく俺の仕事は一つ。


 300体の邪神の群れに突っ込み、可能な限り、最低でも8割は討伐すること。


 全部が俺に向かってくるなら、まとめて秒殺なんだが……バラけられたら討ち漏らしもあるだろう。

 だから上も、この程度の数で『8割』と言ってきている。


 まぁ、やるだけやってやろうじゃないか。




 ――尚、『ダンケルク小隊の人的損害は、その一切を問わない』とのことだ。




 ◆◆




 野営地の指揮官テントの中。

 ダンケルク中尉は、先日の邪神襲撃に関する報告書を読んでいた


 死者3名。重傷者7名。軽傷者多数。

 その他、兵士の内12人はPTSDを発症している可能性有り。


 10m級とは言え、たった1体相手にこの惨状。

 しかも戦闘すらできていない。


 死傷者は、邪神が地下から現れたときの衝撃と、逃げ惑う中で味方に踏みつけられてのものだ。

 邪神は、派遣された少年兵が単独で討伐している。


 小隊長としては、ため息の3つや4つも吐きたくなる様な内容だが、ダンケルクの表情は至って平然とした物だ。


 彼の部隊の練度を考えれば、グレンがいたことを差し引いても、全滅しなかっただけ上出来だ。

 ダンケルクは、それを正確に理解し、しかし何の対処もしてこなかった。


 故に、彼がこの結果に何かを思うことはない。




 ふと、ダンケルクは書類から目を離し、机に置いた写真に目を写した。




「グレイス……」



 写っているのは10代後半程の若い女性。1年前に亡くなった、ダンケルクの娘だ。


 邪神にやられたわけではない。


 ダンケルクが仕事で家を空けている間に、暴漢に襲われたのだ。

 統合軍の軍人であることに誇りを持っていた彼は、その日を境に、仕事に対する情熱を失った。



「私は……だめなパパだったな……」



 彼は数秒、哀しそうに写真を見つめると、また被害者の名を連ねた書類に視線を戻す。


 その顔は、どこまでも冷たい無表情だった。

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