第17話「ビアレンチェ戦線」

17.「ビアレンチェ戦線」アーバー・イ・ブライン・オプラ伍長


 ビアレンチェ(チェ星系。ビアレンチェ戦線、サダンズ銀河)


  属 

  ブル・イータラックWF1382‐661

 (以下、略)星系


  属

  マカデ・エウフXS2157‐469

 (以下、略)銀河


  属

  ギューザン・ローケスAR0350‐921

 (以下、略)宇宙


  属

  ローケス・セブルケッツAA003‐233

 (以下、略)インペリオーム


「ジャフナ4各機、要塞の防衛部隊を全て排除せよ」

『了解。帝国に栄光あれ』


 夕暮れでうすあかねいろに染まっているビアレンチェの空、編隊を組んでいる帝国軍の全領域人型兵器サラスターが散開していった。全体的になめらかな流線形で形作られたサラスターはゆうながらも無機質な印象を受ける。

 サダンズ銀河のせいふくを狙うヴェルシタス帝国はサダンズ銀河の統治国家であるランジュール連邦へ侵攻。各星系、各惑星で戦闘が行われていた。ランジュール連邦の地上要塞〈ヴァ・ネイヌ要塞〉があるビアレンチェでは制空権と制宙権をめぐって争っていた。両軍はたがいに人型兵器、全領域戦闘機を大量投入。高度で複雑な空中機動戦が展開されていた。


『敵機、げきつい

『いい調子だな。12‐6』

『3‐5、お前の上だ、上にいるぞ』


 ‐三時の方向、敵の増援を捉えた。

 ‐左翼に気を付けろ。かく乱する。

 ‐ショック・パルスを起動。


『ダメだ、この機は持たない』

『はっ、それで勝ったつもりか?』


 ‐ヌーダス、そっちに行くぞ!

 ‐危なかった。援護に感謝する。


 追う者、追われる者。一つ、また一つと戦いに敗れた機体が爆発し、無数の破片となって、夕空に散っていった。

 いくつかの星系と一つの銀河を統治しているランジュール連邦は星間航行技術と軍隊を有する連邦国家である。ノレイド・フロッテア宇宙における銀河国家はウェンデ銀河共和国とランジュール連邦の二つのみであり、ウェンデ銀河共和国がかんらくした今、ランジュール連邦は帝国に抵抗するゆいいつの銀河国家となっていた。


『総員へ。心強いボランティアが到着した。彼らはフォラッドくんしょうを持つボランティアだ。敵艦隊の相手は彼らに任せておいて大丈夫だろう。じきに増援部隊も到着する』

『ロラックィ14‐3、セクター15から敵部隊が急接近している。対応せよ』

『ラジャー。これよりげいげきに向かう』


 例のごとく、帝国は連邦に属する全惑星に対し同時侵攻。地上ではアンストローナ兵とイーガス、ジンシーンを中心とした多方面同時進行作戦を実施し、宇宙では艦隊による各星の包囲を行った。連邦艦隊と帝国艦隊はたがいに距離を取りながら、艦載部隊及び護衛部隊での戦力投射、艦砲によるけんせい砲撃で少しずつ、船の数を減らしていった。


『ゾルドーン9‐3、後ろに敵が付いているぞ』

『問題ない。バシックの支援がある。返り討ちだ』


 サラスターは帝国全体で最も広く運用されている可変機構内蔵全領域人型兵器である。全高は標準型で約6.3メートル。レドス自己適応性合金、バルケー自己修復かんしょうざい、ジャネイブせい流動体の三種から構成される機体装甲の表層はシールドで覆われている。推進機構はザウ超粒子反応炉とクァゾーノそうてん式水素プラズマ反応炉及びラザイク重力質量制御システムの複合機構を採用。機体全体を包む防御用バブル・シールドも展開可能で地上、空中、水中、宇宙のどこでも戦闘を可能にしていた。


『隊長、敵の精鋭部隊がお出ましです』

「来たか」


 サラスターをる女性ラゴーズ(角のような突起を二つ有する近人間種)のアーバーは画面に拡大、映し出された連邦の人型兵器ヴィーが多数接近しているのを確認した。それらはしんのストライプが入った特別塗装である。連邦が誇るエリート部隊、第39航宙艦隊所属第1特殊戦闘団〝エルカドーレ〟だった。


 ‐侵略者どもにこの地を渡すわけにはいかない! エルカドーレ各機、ここが正念場だ! 祖国のために!


「連中はゼイナート級を五せき落としたくせものだ」


 エルカドーレの機体はいずれもとうじょうしゃに合わせてカスタマイズされた特別仕様となっている。パイロットの技量も合わせて通常のヴィーを相手にするのとはまるで訳が違った。周囲の戦況を瞬時にあくする能力、的確に相手を攻める能力、そこで帝国軍パイロットはエルカドーレの強さを味わうことになる。


 事実、今まさに四機の友軍サラスターが彼らにげきついされた。一瞬だ。


「くそっ、何ていう変則機動を……」


 うずを描くような飛行だった。機体自体も回転させ、飛びうレーザーを避けて突進して来たのだ。その後、素早くエルカドーレ隊は散開。


「各機、フォーメーション・ダガー。確実に敵を仕留める」


 二機のツーマンセル・フォーメーションでジャフナ4らはエルカドーレを追撃する。二機で一機の敵を追いかけ、背後に敵機が来れば二機の内の一機がげいげきにあたる戦術だ。


「ケルン、背後だ」


 サラスターのパイロットは全周囲透過モニターで死角が無く、友軍機、敵機の位置は常にマークがされていた。アーバーのりょうであるケルンを付け狙うエルカドーレ二機。彼らもこちらと同様の戦闘スタイルを取っているようで、二機の内の一機が左転回しながらの急降下。そこから振り向きざまにこちらへ銃撃を行ってきた。


「その手は食わんぞ」


 エルカドーレが使用しているレーザー・ライフルは非常に出力が高い。一発や二発ではサラスターのシールドを無力化できないが、短時間で連続して攻撃を受ければシールドが過負荷を起こし、無力化されてしまう。これはランジュール連邦の科学技術が高い事を示していた。大抵の文明ではサラスターやゼイナートのような兵器にとうさいされているシールドを突破できず、文字通り傷一つ付けられなかった。


「当たらなければ問題ない」

『隊長、そちらに敵が行きます!』


 ケルンに追われているエルカドーレ機が急せんかい。さらに別のエルカドーレ機が合流するようなどうを見せている。


「各機、フォーメーション・スフィア」


 こちらも部隊を集め、球形陣形からのげいげき態勢を取り敵機と友軍機が入り乱れる。


『被弾した!』

「下を抜けるぞ、ベック!」


 正面には部下のベックとうじょう機。姿勢をあおけに切り替えながら、彼の機と上下ですれ違う。それに合わせてアーバーはベックの背後に付くエルカドーレ機を正確にいた。


 ‐トリィがやられた!


『スタビライザーが損傷。機体制御ができない、ベイルアウトする』


 アーバーの奮闘もむなしく、ベックは別の敵機に撃たれ、大きくせんえがきながら下へ下へと落下していった。


「ベックの被げきつい数が増えてしまったな」


 ついらくしている機体にベック自身はすでにいなかった。彼女は脱出用ゲート・ポータルを起動して戦域を離脱。今頃、新たなサラスターに、再出撃しようと準備しているはずだ。


かたきは取る」


 思考操作によって主兵装のレーザー・ライフル出力とへんこう比率を調整。発射されたせんこうは直線ではなく、曲線をえがいてベックを落としたエルカドーレ機の胸部へ命中した。


「連邦にきょくどうレーザーという概念はないだろう?」


 というのは帝国の頭脳集団ハイペリウムの成果物であった。直線どうでしか標的へ攻撃できなかった従来の光学兵器に対し、どう修正することを可能としたこの高等技術は他の文明では到底考えられない技術であり、ランジュール連邦も実用化どころか基礎理論も体系化できていない。


 ‐トミット! 一体あれはなんだ! レーザーが曲がったぞ! 

 ‐そんな馬鹿なことがあるのか!


 驚きを隠せないエルカドーレ隊。

 そんな中で先ほどベイルアウトしたベックが戦域へ舞い戻って来た。


『さっきはやってくれたな』

「ベック、戻ったか。そろそろ我々もケリをつけるとしよう」

『イエッサー』


 エルカドーレ隊はけんめいに制空権の確保へ努めるが、連邦軍全体の戦力は減少しつつあり、段々と他の友軍からの通信が途絶えていった。


「鋭いターンに素早い反応速度。他の機へのフォロー。こいつが隊長機か?」


 人型兵器サラスターのパイロットとして多くの実戦経験を積んできたアーバーはこくな戦場の中でも、敵軍のエースやベテランの動きを見極めることができた。


「そこで切り返す」


 ‐敵を振り切れない。私はもうダメだ。後は任せたぞ、ミレア、オーグ……


 アーバーの予測通り、敵隊長機は激しい左右機動を行ってきたかと思うと急停止からの切り返し。それを見越してアーバーの機は左腕から接近戦用ブレードを展開、敵隊長機を一刀両断した。


「敵機を落とした」


 ‐隊長!


『甘いぞ』


 ‐くそっ。


 隊長機に続けて他のエルカドーレ機もげきついされ、最後に残ったエルカドーレ機はあっけなく友軍の無人戦闘機により、はちにされたのだった。


「敵の航空戦力は一掃された。これよりジャフナ4は地上部隊の支援へ移る」


 〈ヴァ・ネイヌ要塞〉の正門付近では帝国地上部隊がイーガスをともなって戦闘を繰り広げていた。ジャフナ4は地上部隊を支援すべく、進行先の敵部隊へ収束レーザー・キャノンを発射。敵地上部隊を吹き飛ばし、そのまま要塞の対空火器、拠点防衛砲台を次々と破壊していった。


『ヒュー、良い眺めだ』

『地上部隊が要塞を制圧するのにそう時間は掛からない。連邦はお終いだ』

「任務は達成された。我々は帰投する」


 いくらでも戦場へ兵力を投入できる帝国軍は連邦艦隊を壊滅に追い込むことで、連邦軍の士気を大幅に奪うことに成功。連邦地上軍の抵抗も最初こそ組織的なものであったが、基地や指揮官を失い、軍隊としての指揮系統が機能しなくなっていた。現場での人員と物資の不足は解消されることなく、連邦軍兵士の投降も増大。事態を重く受け止めた連邦政府は「このまま戦闘を続けることは不可能」と判断、帝国へ降伏を宣言した。これにより、また一つ新たな銀河が帝国領へと加わったのであった。

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