第16話「ログドゥア襲撃」

16.「ログドゥア襲撃」クイザ・ロウタス・ラージュ軍曹


 ログドゥア(エクラズ宙域、パーファナント銀河)


  属

  スケリュゼ・ブレゲルシダJD5121‐220

 (以下、略)星系


  属

  アグルファ・ブレゲルシダAB0455‐028

 (以下、略)銀河


  属

  ザウケン・ギューザンVV8878‐118

 (以下、略)宇宙


  属

  ロラックィ・ヴノUZ307‐667

 (以下、略)インペリオーム


  収容艦船(ゼイナート級):約80万

  収容艦船(ハブルケート級):約10万

  収容艦船(ケンガラ級):約1万

  収容艦船(ラーベスト級):約50

  駐留アンストローナ兵:約20兆(二十万個兵団)


  ※ヴェルシタス帝国地上軍における軍事編成単位〝兵団〟は約一億名の兵士から構成される。


『第430‐23シエルト兵団はT7ゲート・ターミナルへ集合せよ。ドニラン銀河での地上制圧戦に送られる。きょう度はCマイナー。非戦闘員並びにりょの取扱い情報を更新せよ』

『サラスターの実機飛行訓練が一時間後に実施されます。これにともない、3‐5空域は封鎖されます』

『ステインきょう指揮の下、ドッザ・ロタ銀河にて艦隊戦。第599‐18ユーヤナ機動艦隊は別命あるまで待機』


 各銀河に最低一つ以上置かれる第十一級F5戦略機動要塞〈ログドゥア〉は帝国軍が運用している軍事用人工惑星である。宇宙空間から見れば惑星全体が天にそびえ立つ都市のようにも見えた。その大きさはゲルジーンのおよそ五十倍を誇り、地球文明の科学力、軍事力ではまずかんらくさせることは不可能。機能的にはゲルジーンとの差異はほとんどなく、地表から天に伸びた超高層型階層構造を取り、立体駐車場のような多層式軍港には百万せきを超える大小様々な艦船がていはくしている。さらに二十万個アンストローナ兵団が収容され、嫌でも帝国の圧倒的な軍事力をここで体験することができた。

 惑星全体はおおまかに造船施設、ゲート・ターミナル、火力演習場、りょ収容所、士官棟、軍港、医療棟、通信棟、中央司令部で構成されており、地球人から見ればとてつもなく巨大な軍事基地のように思えるが、このような軍事拠点は帝国において何も特別な光景ではない。


『ゲート・ターミナルを利用する全将兵は身分証を確実に携帯してください。現在、衛生局の緊急要請により別宇宙へのテレポートに制限が掛かっています。現在、保安局の規制によりラクシアータ星系へのテレポートは封鎖されています』


 ゲート・ターミナルは様々な施設や惑星へ繋がる固定式ゲート管理施設である。一般的に携行型ゲート・ポータルを持っていない帝国軍人あるいは帝国臣民が利用できる。しかし、重要施設や機密施設へのテレポートには特別な許可証が必要となっており、それ以外の転送先でも高度なセキュリティ・チェックを受ける場合がある。また、スペクルム・ユニバースからアンストローナ兵の増員や兵器の供給支援を受けることに使用されることもあるが、スペクルム・ユニバースへ行くことは帝国軍の規定及びシステム設計上、不可能となっている。



〈ログドゥア通信棟(754‐CD連絡橋)〉

 地上1380メートルの通信センタービルはかんかつ領域内に展開する各艦船、各兵士の正確な位置情報を首星ヴィアゾーナ、各司令部、かんかつ領域内に展開している艦船と兵士へ常時共有している。帝国が誇る軍用テレポート通信による最先端通信はタイムラグが一切なく、必要に応じ別銀河の指揮官やカーディナル、ボランティアにも情報を提供できた。これらの通信技術はゲート技術に関する応用特秘技術のため、エディア人の最上位技術師でなければあつかうことができない。

 通信棟では単なる通信だけでなく、敵味方を区別するための敵味方識別信号やアンストローナ兵と一般兵(士官、ボランティアを含む)間の最適な情報伝達網の自動作成、戦闘用ヘルメットや義眼といった視覚情報受容機器から得られた各兵士の戦術情報の自動解析と自動共有も行われ、戦場に必要な情報をあわせて兵士に届ける情報処理センターとしても機能している。


 ログドゥアへわざわざ乗り込むような宇宙海賊や犯罪組織はまずいない。それでも軍はアンストローナ兵やアンスケルによる警備を実施し、日頃から万がいちに備えていた。


「これは」


 754階層のC区とD区をつなぐ連絡橋を渡っているアンストローナ兵は手すりと床にあたらしい砂汚れが付いていることに気が付いた。肉眼では見えづらいが、しょうてんを合わせるとすみやかに戦闘ヘルメットが砂汚れの成分、散らばり具合を解析し、それらがログドゥア外部からもたらされたものだと結論を出した。


「こちら754‐CD、侵入者と思われるこんせきを確認した」

『情報を受け取った。警戒レベル・イエローへ移行。建物内の警備を増員中。侵入者を見つけだいこうそくせよ』

「了解」


 アンストローナ兵のヘルメット内蔵スキャナーには侵入者のものと思われる足跡が強調表示される。C区画の方へ進んだようだ。侵入者の種族は二足歩行するヒューマノイドあるいは人間族だろう。


「どうやってこの高さから侵入した?」


 疑問が残るままC区画の自動扉を通過すると、C区画で増員されたアンストローナ兵部隊と合流。とどき者の捜索が始まった。


「銃はスタン・モード。忘れるな、侵入者は生け捕りだ」


 C区画には大量のデータ解析装置と通信暗号化装置、さらに過去の通信れきや上位階級軍人のしょざいが記録されたデータ・ボックスも保管されている。ただし、カーディナルや皇帝は専用の通信網を使用しているため、かんかつ内の通信であってもデータはここで処理されず、記録も一切残らないようになっていた。


『全セキュリティ要員へ。侵入者は保安システムにかいにゅうしているおそれがある。カメラやセンサーに反応はない。有視界モードへ移行せよ』

「これは嫌な予感がするな」

「全くだ」


 アンストローナ兵は通常、戦闘ヘルメット内蔵のカメラアイを通じた視覚情報から視界を得ている。味方の位置や建物の内部構造を映し出したり、必要に応じて二次元ミニマップ、三次元マップを表示したり、銃声や物音の方向を示したりと非常に便利な機能だ。司令部や他の兵士にも視覚情報を共有可能なだけでなく、半無機生命体でもあるアンストローナ兵はそれらの情報をたがいに共有することで、それぞれの個体が上官からの命令無しでも常時最適な行動を取ることができるようになっている。半集合意識とも言われるこの高度な同期ネットワークは無限に供給、使役されるアンストローナ兵にとって重要な戦術基盤となっていた。


さくてきパターン、エコー・チャーリー」


 有視界戦闘ではアンストローナ兵が得意とする数的優位と連携をかせない。司令部や指揮官との効率的な情報伝達にも多大な影響が出る。


「サーバールームを調べる。続け」


 アンストローナからなる警備部隊は通信と映像を解析処理するサーバールームへと入った。身長を超える巨大なアドリィテック・マスサーバーがまるでドミノのようにずらりと並べられている。マスサーバーごとにいくつものランプが点滅し、全てのマスサーバーが正常にどうしていることを示していた。


「死角に注意せよ」


 散開して素早く通路のクリアリングしていく。

 その動きは洗練された切れの良い動きだったが、残念ながらアンストローナ達は頭上からしのび寄っていた存在に気付いていなかった。



〈ログドゥア通信棟(中央警備室)〉


「一体、何が起こっている?」

さくてき部隊の反応が消失。施設内の監視装置にも何らかのかんしょうが働いています」


 アンストローナ兵から報告を受けたユラ(ネコ系ヒューマノイド)の男性、警備主任クイザ・ロウタス・ラージュ軍曹は各所の監視装置、アンスケル、アンストローナからの映像が全て不鮮明であり、さらに侵入者の捜索に向かっていたアンストローナ部隊の反応が全て消失していることをすぐに確認した。


「これは敵の襲撃だ。ログドゥア全域に敵襲警報を発令しろ」

「主任、外部との通信ができません。シールド・ウォール、トラップ・ウォールともに機能不全を起こしています」

「ここをりつさせて制圧する気か。ファルック伍長、部隊を招集し、私とともに来い。非常灯をけに行くぞ」

「イエッサー」

「施設の全出入り口を緊急封鎖だ。これは演習ではない。警戒レベル・レッド。非戦闘員はセーフルームへ退避せよ。全セキュリティ要員はただちに装備をととのえて侵入者を排除せよ」


〝コード・レッド〟

〝機密保護プロトコル発動〟

〝施設内にかんのう式ナノトラッカーを散布。全セキュリティ要員は誤射に注意せよ〟


 左腕にデズライト強化装甲盾、右手に一体型ツイン・レーザー砲を装着したアンストローナ兵が続々とエントランス・ホールに並び、正面入り口には重厚なかくへきが下ろされた。さらに施設内移動用の反重力リフターやテレポーターはエネルギー供給のしゃだんが実行され、外部とつながる全ての通路は正面入り口と同様、緊急防壁が下ろされた。

 ログドゥア始まって以来、このような非常事態は一度もなかった。



〈ログドゥア通信棟(290‐E)〉


〝コー ・レ ド〟

〝機密  プ トコル  〟

〝  内にかんのう     ッカーを散布。             注意せよ〟


 壁やちゅうに投影されているカラーホログラムは職員に対しコード・レッドを伝えているのだが、いずれもノイズがじり、正常表示とは言いがたせんめいな投影となっていた。これは故障ではない。その上、侵入者を見つけ出すためのナノトラッカーからのフィードバックが何も無い。


「くそっ、通信がつながらない。ナノトラッカーの反応すら無いとは。まさかが使われているのか? そんな鹿な」


 広範囲の電子機器、アンストローナ兵に影響を及ぼしている原因はフロアドネス粒子ではないかとクイザは疑っていた。しかし、フロアドネス粒子を安定制御するには特別な技術が必要であり、軍事目的でのフロアドネス粒子のあつかいは帝国でさえ難しかった。


「軍曹、これを見てください」

「こいつは何だ?」


 クイザらは天井や壁に空いた不自然な穴を見つけた。


「爆薬による爆破ではなさそうだ。各員、警戒をおこたるな」


 銃を構えながら素早く進んでいくクイザ達、非アンストローナ帝国兵。行き先は外部へ敵襲を伝えるための非常灯を手動で起動する制御室である。


「正面に敵複数! 下がれ!」


 飛んで来る青いせんこう。クイザと部下らは通路を下がり、左横の通路へと身を隠した。


「連中、何者だ……ラクト、先行して攻撃を防げ」

「おまかせを」


 光学兵器、実体弾兵器の両方に高い耐性を有するデズライト強化装甲盾を構えたラクトが通路へと身体を出し、敵からの銃撃を防いだ。その間、クイザがラクトの背後から敵の攻撃の合間をいながら応戦。侵入者を三人射殺した。


「前進」


 クイザの指示の下、盾を構えたままラクトが通路を進み、部隊も後に続く。


「止まれ。こいつはのようだな。こっちは。なぜこんなところにサズウェル人とワルコタ人が……」


 倒した敵の死体を確認するクイザ。彼らは人間族のサズウェル人とワルコタ人だ。彼らの戦闘服には三角形と三日月が合わさったような、みょうな図形が描かれていた。

 一通り、死体の確認を終えたクイザだったが、ここで予想外の出来事が起きた。


「!」


 フードを深く被った謎の人物がいつの間にか正面に。そして考えるもなく、謎の人物の左腕が伸長し、やりのように変化。デズライト強化装甲盾を構えていたはずのラクトのどうたいにぽっかりと穴が開いた。ラクトをつらぬいたやりじょうの腕はいくつもの細いやりへと分裂していき、勢いがおとろえぬままクイザ、ファルック、他の兵士の身体を容易たやすく串刺しにしていった。


「ば、ばけもの……」


『こちらセクション562、武装した敵多数! 猛攻撃を受けている、増援を求む!』

『スティグレイだ! スティグレイを視認した! 上層部へ連絡を!』

『警備室! セクション33の無人兵器制御センターは敵による攻撃を受けている! このままだと無人兵器の制御を奪われ……』


 通信棟内の警備部隊は謎の勢力からの奇襲を受け、激しい戦闘がいたるところで発生していた。彼ら警備部隊の抵抗もむなしく、一人、また一人と兵士は倒れていった。

 そして、この襲撃事件が通信棟外部へ伝わることはなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る