エピローグ
起きて見る悪夢①
草薙さん曰く、今回の【エス】は割合実態が判明しているらしかった。
【エス】の名前は、
だが、両親である
その現状から、なんらかの足止め効果のある『変質』なのだと推理されている。どちらにせよ、危機的と呼ぶ他ない。
そう、廊下を歩きながら思い返してみても、実際に突入しないことにか分からないことだらけだ。
ほどなくして、『TSUBAKI』というネームプレートがかかった部屋へと辿り着いた。
「鬼が出るか、蛇が出るか……」
意を決して、俺はドアノブをひねって、部屋へと踏み込んだ。
年頃の少女らしい部屋の様相が見えたが、それも一瞬。
「おいおい……」
すぐさま、俺の視界いっぱいに悪夢のような光景が広がった。
「こりゃまた、大盤振る舞いだな……」
ほの暗い、
出てきたのは、鬼でもなければ蛇でもない、見渡す限り人界の
まかり間違っても、女子中学生の部屋が抑うつ状態のついでに変貌していいものではない。
なるほど、【エス】平坂椿の『変質』は幻覚か。
念のため、スマホを確認。
やはりという結果に、俺は「これ以上使うことはなさそうだな」とぼやいて、ポケットへとしまい込んだ。
「あ、あの……」
すると、俺へと向けられたか細い声があった。
すわ敵かと睨みつければ、そこにいたのはブラウングレーのブレザー姿の少女だった。先んじて目を通していた資料から、それが平坂椿と幼馴染の朝比奈湊が通っている
すぐさま誰なのか見当がついた。
「君は……朝比奈湊さんだね」
「は、はい。あの、あなたは……?」
「しがない清掃業者ってことかな。名乗るほどの者じゃないよ」
流石に弱り切った女子高生相手に、悪魔祓いだの解体業者などといった、剣呑な職業を名乗るわけにはいかなかった。
それでも怪しげな自己紹介になってしまったのを「そんなことより、」と無理矢理切り替える。
「体は平気? 喉乾いてたりしない?」
「ちょっとお腹が減ってますけど、それ以外は大丈夫です」
顔色も悪くない。混乱や不安感はあるものの、健康状態は十分良好と見受けられた。
「不安かもしれないけれど、移動しよう。このまま立ち尽くしてても脱出できない」
「そうですね……」
力ない様子にいっとき不安を抱いたが、涙を
「……大丈夫です。歩けます。ただ、」
「?」
可憐な目鼻立ちが紅潮し、おずおずと片手を差し出す。
「あの……手を、握っていてくれませんか……?」
長いこと独りぼっちだった孤独感からか、人恋しいのだろう。
しかし俺は「ごめんね」と端的に断りを入れる。
「応えたいのは山々だけど、そういうのって昨今、
「あ……す、すみません……」
「じゃあ、行こうか」
「はい……」
――そうして俺は、事前に仕込んでおいた目印を辿り始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます