俺達の明日①
三条の手の者によって確保された後、当然だが俺は【エス】に感染していないかを、隅々まで検査されることになった。
怪我もろくにしていない、五体満足の体なのだ。感染していないことが分かれば、つぶさに解放される……かと思いきや、次は事情聴取。言うまでもなく、内容は俺ではなく、咲弥に関してだ。咲弥をどうやって隠し通していたのか、咲弥の状態などを、これまた隅々まで根掘り葉掘り問い
「あの……」
「はい、なんでしょうか?」
「あいつは……鬼頭咲弥は、無事なんですか?」
「……申し訳ありませんが、その問いにお答えすることはできません」
「アハハハハ……」
「ですよねー」――にべもなく袖にされたが、回答は分かりきっていた。
三条の家の者ならばいざ知らず、俺は【ギロチン】というだけの、まったくの部外者だ。
覚悟はしていたが、草薙さんにすら会わせてもらえないのは、流石に堪えた。加えてスマホも取り上げられている、事実上の軟禁生活。咲弥の処遇が決するまで、保護という名の捕獲だろう。それだけ俺に対する目が厳しいことの証左でもあった。
「はぁ……」
溜息を聞く者は、誰もいない。
今すぐにでもここを飛び出したい気持ちは山々だったが、なにより後が怖い。政財界に名を連ねる三条家を敵に回して、一介の成人男性が太刀打ちできるはずがなかった。
「…………」
――たとえ、これで咲弥が死んだとしても、あいつは後悔しないだろう。
【エス】に感染させられた時には、既に運命は決していたと言っても過言ではない。社会という魔手から逃れられない以上、あいつは後悔なきよう、最大の仇敵の喉笛目がけて牙を突き立てた。
だが……俺はどうだろうか?
恋人だった美月の仇を討ち果たしたものの、感慨はあまりに薄い。実感に足るだけの相手がいないからだろう。
誰なのかは言うまでもない――咲弥だ。鬼頭咲弥。
余裕ぶってるくせに負けず嫌いで、精神年齢が幼いくせに根がひねくれていて、チョコレートが好きでイチゴが嫌いで、死者を笑って舌を出しながら、
――そんな時、
久しぶりに美月の夢を見た。
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