向こう側より愛をこめて①
――――ああ、
いつから俺達/私達は
遠ざかる星々のように、
離れてしまったのだろうか――――?
◇
「――あー、あー、あー。始まったかな? 始まったみたいだね。音量は大丈夫そう?」
スマホの画面上で2Dのキャラクターが動き、ダウナーだが愛嬌のあるハスキーボイスが聞こえてくる。
「はぁい、
久遠ヒバリ――キャラクターのアバターを用いて配信活動をする、いわゆるVtuberである。
挨拶もほどほどに、喉を温める助走らしいミドルテンポのポップスが流れ始める。ネットで人気の楽曲だ。元が可愛らしいデジタルボーカルのため、ハスキーな声色と若干ミスマッチだが、それだけ歌声が肉感的であることの証左でもあった。
……使用人としての仕事もひと段落つき、半ば休憩時間と化した待機状態。咲弥も学校で気が抜けていたが、一応は白衣に袖を通したまま、俺はソファで久遠ヒバリの歌配信をぼんやりと眺めていた。
ミドルテンポのポップスは終わり、ジャズ、
ここまでは他のVtuberと差異はないが、他に類を見ない特徴を有している……それは、曲調に合わせて2Dモデルのイラストがまるっと変わる点だ。
キャラクターデザインはそのままに、
最後は締めくくりに相応しい壮大なバラードと、幻想的な画風の久遠ヒバリが終止符を打った。
「はぁい、それじゃあ今日の歌枠はこの辺で。投げ銭してくれた人の名前の読み上げは、明日の雑談枠で行うからねー。またねー!」
配信もオフラインとなり、俺はスマホをスリープさせて、部屋のドアを見守る。しばらくして、配信部屋から車椅子が滑り出てきた。
「おっ、もしかして配信見てくれてたのかい?」
……もうここまで言えば、久遠ヒバリの正体は明白だろう。言わずもがな、意地悪そうにニマニマと笑う
「ええ。丁度暇でしたし」
「そこは嘘でも『歌声が素晴らしいので』とかって持ち上げるところだよ」
「はいはい」
2Dモデル特化型なのも、下半身が不自由であることが一枚噛んでいる。そのおかげで他者と差別化を図れていることは、幸か不幸か。天は二物を与えずとは言うが、この人の場合、スプリンターとしての才能が失われたからと同時に浮かび上がってきた才能ゆえに、褒めそやすのはなんだか
「飲み物取ってきてくれると有難いかな。配信はないんだけど、この後配信部屋を使う用があるから。大和くんも同席してくれると助かるよ」
「……どういうことです?」
俺は目をしばたかせる。そりゃそうだ。先日の
どんどん自己否定の
「成人男性からのご相談さ。年下の女性との接し方を素直に話してくれればいいから」
「まあ……それくらいなら……」
役立ちそうなことを答えられるか不安しかなかったが、代わりとなりそうなのが俺以外にいないのであれば、致し方あるまい。
「同じVtuberだけど、私とは違って専門事務所に所属している人でね。『
「聞き覚えがあるもなにも、超大手事務所じゃないですか……!」
久遠ヒバリの配信を見れば、動画サイトのアルゴリズムは気を利かせて、オススメに
「これでも私は個人勢の中じゃ、そこそこ名の知れた存在だからさ。この間の人狼ゲームでコラボした折の世間話で、君のさわりを話したら、『相談に乗ってもらえたら……』ってさ」
「いやいや、同僚に聞けばいいじゃないですか」
「確かにそうだけど、同僚伝いで該当人物の耳に入ったら、それはそれで気まずいだろう? だから、同僚じゃないけど同業者の私に白羽の矢が立ったってわけさ」
「まあ……そういうことなら……」
うまいこと説き伏せられた気もしなくはないが、そういうわけならば断わりづらいのもの確かだ。
「もう少ししたら連絡が来ると思うから、その時同席してくれると助かるな……ああ、名前も声も知らない初対面ってのもどうかと思うから、彼の動画チャンネルでも教えておこうか」
――そして、のちに今回から始まる事件の火種であったと分かる、Vtuberの名前を草薙さんは述べた。
「
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