地学部合宿会 第23話
石川先輩は、山本先輩からカードを引いて、右に置いて、カードを四回混ぜてた。混ぜる前に山本先輩のカードは、下にあった。それが一回目混ぜて、上になって。二回目混ぜて、下になって。三回目混ぜて、上になって。四回目混ぜて、下に戻ってきた。それをそのまま右と左の分ていた。つまり、山本先輩からカードを引いた時と、カードの位置は同じ、右側に山本先輩のカードがあるということだ。
僕は、確信を持って右側のカードを引いた。
「やった! 揃いました!」
僕の持っているカードは、悪魔のババだけになった。中村君はこれを無条件で引かなければならなくなる。そして僕は二番手に上がれる。
「うえっ」
僕からカードを引いた中村君は、ババを引きましたと言わんばかりの声を出した。勘のいい岡澤君はそれに気づいたのか、あからさまに嫌そうな顔を浮かべていた。そんな岡澤君は、眉間に皺を寄せながら中村君のカードを一枚引いた。
「ふうー」
そう声を漏らしたのは、岡澤君ではなく、中村君だった。中村君の声を聞く限り、ババは岡澤君に移ったようだ。
そんな岡澤君のカードを山本先輩が引いて、山本先輩は揃わず、六ターン目は終了した。
ことが一気に動いたのはこの七ターン目だった。
石川先輩が山本先輩からカードを引いて、それが揃ったみたいで、まず石川先輩が上がった。そして、中村君が山本先輩のカードを引いて、山本先輩が上がった。山本先輩からカードを引いた中村君も、また揃ったみたいで、まさかの、三人ほぼ同時に上がるという。奇跡みたいなことが起きて、お風呂の順番ババ抜きは終わった。岡澤君がビリだという結果で。
「いやーいい湯だったよ。あれ、ババ抜き終わったの?」
事情を何も知らない呑気な楠木先輩が、湯気を纏いながらお風呂場から出てきた。
「今ちょうど終わったところ」
「そうなんですね。誰がビリになったのですか?」
「岡澤君に決まった。岡澤君、悪いけど、お風呂掃除よろしくね」
「はい……」
禍根の残りそうな試合になってしまって、この場に居づらくなってしまった僕は、楠木先輩も出てきたことだしと、せっせとお風呂場に逃げた。
そんなお風呂に浸かりながら思った。
ここから動きたくないと。
お風呂から出たって、機嫌の悪い岡澤君が必ずいるし、絶対にリビングに居座っているし、その時点でリビング使えないし、何言われるかわからないから、怖い……。
疲れたことを言い訳にして、部屋に篭ろうか。そう言えば、部屋割りをまだ決めていなかったけど、どう分けるんだろうか。僕が山本先輩の立場だったら、ちょうど六人だし、上級生三人と一年生三人に分けるな。それはまずい。中村君は何も気づいていないようだけど、そんな空間にいたら、僕は眠れない。話しかけられても、何を言えばいいかもわからないし、地獄の空間だ。お風呂から上がったら、山本先輩に聞いてみよう。またトランプとかなら、わざと負けることも視野に入れておかないと。
お風呂から上がって、石川先輩が替わりに入っているタイミングで、山本先輩に尋ねた。こっそり聞こうとしていたから、山本先輩が水を飲みにキッチンに向かったのを追いかけた。
「山本先輩。部屋割りって、決まっているのですか?」
水を飲もうとしていたところに、僕が話しかけたから、コップを顔の高さまで持ち上げていた山本先輩が答えた。
「特に決めてないよ。またトランプで決めてもいいし、じゃんけんで決めるのもありかな」
上級生と一年生で分けるという選択肢が、山本先輩の頭に浮かんでなかって、とりあえずよかった。
「あの、少し疲れたので先に休みたいのですが、どちらの部屋を使えばよろしいですか?」
山本先輩は、ポカンとしていた。
「どっちでも大丈夫だよ。似たような部屋に甲乙はつけられないだろ」
「では、僕は左側の部屋で休んでてもいいですか?」
「わかったよ。後のメンバーはトランプでもして決めておくよ」
山本先輩に一礼をして、キッチンを去った。その足で、リビングに置いてあった荷物を持って、リビングを後にした。階段を上がる直前に、楠木先輩に呼び止められた。
「どうしたの?」
「疲れたので先に休ませてもらっているのです」
「そっか。今日は大変だったからね。お疲れ様」
それだけ言って、リビングに戻って行った。
階段を上がりきった僕は、左手にある部屋に入り、押し入れから和風な布団を一式取り出して、窓のそばに布団を敷いた。
疲れたと先輩に言ったのは、ほんの建前で。本当は、山河内さんを監視したかったからだ。監視といっても、どんな行動をしているのか、ずっと見ているのではなくて、会う約束はしたけど、時間や、詳しい場所の約束はしていないから、山河内さんが外に出てきたタイミングで、僕も追うように外にでようと思っているからだ。左側の部屋を選んだのも、窓側に居座っているのも、山河内さんを監視するのにちょうどいいと思ったからだ。
はてさて、山河内さんは、何時ごろに外に出てくるつもりだろうか。僕の予想としては、前回と同じくらいの、日を跨いで直ぐくらいの時間だと思っているが、相手は山河内さんだから、待たせるのは申し訳ない。もし、早めの時間に待ってて、来てくれなかった、何てことになったら、何より怖いのが如月さんだ。下手したら、僕の学校生活のみならず、人生まで破壊されそうだから、この約束だけは、何がなんでも行かなければならないのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます