地学部合宿会 第22話

「諸君。これから、お風呂に入る順番を決める」

 

 山本先輩はキャラが変わったのか、一気に厨二病のような人になった。

 

「待ってました。お風呂の番決めババ抜き」

 

 楠木先輩がそれを拍手しながら迎えた。

 

「一年生は初めてだから、知らないと思うけど、話あって順番決めるの面倒だから、いつもババ抜きで順番決めているんだ」

 

 いつもの山本先輩に戻った。

 

「入る順番は、上がった順になるから、負けた人が最後ってことね。最後の人は問答無用で風呂掃除だから。覚悟していてね」

 

 こうして、入浴順を決める、運命のババ抜きが始まった。

 僕の手札は幸先が悪く、いきなりババがいた。メンバーは全員で六人。配られるトランプの数は一人当たり約九枚。それが一つ揃えば、手札は七枚になり、二つ揃えば、手札は五枚になる。流石に始まりから三枚になっているものはいなかったが、手札が五枚なら早ければ三ターンで上がることができる。そう上手く簡単に進まないとしても、長いことババを持っておくのは危険だ。だからと言って、早々にババを手放して、自分の手札が減ったところで、またババが回ってきても困る。せめて三ターン目。その時に上手いことババを放出できれば、相当運が悪くない限り、回ってくることはないと思う。なら、ババはどの位置に置くのが最適解だ。ど真ん中か、それとも端っこか。僕自身だったら、初めから端っこを引くことはまずしない。端っこというのは、意図的に選ばない限り、無意識下では端っこを選ぼうとは思わない。隣に座っている、僕からカードを引くのは楠木先輩だ。楠木先輩は右利きで、カードも左手に持っている。右利きの人間なら、僕から見て右側のカードが取りやすく、左側のカードは、手の可動域が外を向くから取りずらい。ババの位置は決まった。あとは、取られないように祈るしかない。

 

「どれにしようかな〜よし! これだ!」

 

 楠木先輩は、僕から見て左から二番目のカードを引いた。

 

「あ〜揃わなかったよ」

 

 危なかった。まさか、隣のカードを引かれるとは思ってもいなかった。人の心とはそう簡単に読めるものではないな。特にこの人の前では尚更だ。

 カードを一枚引かれたことによって、僕の今の現在の手札は最初の時と変わらず五枚のままだ。

 一ターン目が終了した時点では、山本先輩に中村君、岡澤君の三人のみ、カードを揃えることができて二枚マイナスになった。

 今のところは順調だ。ここからは楠木先輩が引いてくれることを祈る。

 二ターン目が終了し、僕の手元にはまだババがあった。

 ここまでも順調だ。三ターン目で、楠木先輩がババを引いてくれれば、僕の作戦は完璧だ。

 三ターン目が終了した時点で、山本先輩の手札は二枚。石川先輩の手札は一枚。楠木先輩の手札も一枚。中村君の手札は三枚。岡澤君の手札は一枚。僕の手札は三枚。当然のようにババ付きだ。

 試合が大きく動いたのは、四ターン目だった。四ターン目になっても、相変わらず僕は手札を減らすことができないまま、楠木先輩が僕の手札を一枚引いた。

 

「お、やった! 上がり〜」

 

 楠木先輩は一番に上がった。全体で十一枚もカードがあるのに、僕の手札からピンポイントで引いて当てて、上がった。

 

「楠木が一番か」

 

「申し訳ないです、先輩。お先に入らせていただきます」

 

 楠木先輩は終わるやいなや、着替え一式を抱えてお風呂場へ消えていった。僕らはそれを見送りながら、ババ抜きを続けた。

 楠木先輩が上がったことによって、中村君が僕の手札から一枚引いて、僕の手札は、残り二枚になった。が、まだババは僕の手札に残っていた。中村君は僕の手札から一枚引いたことによって、二枚カードを減らせることに成功していた。山本先輩と岡澤君は手札を減らすことができずにいた。

 四ターン目が終了した時点での手札は、山本先輩が二枚。石川先輩が一枚。中村君が一枚。岡澤君が一枚。そして、僕がババ付き二枚。

 五ターン目。誰も何も揃わず、カードだけが移動しただけに終わった。

 六ターン目。石川先輩が山本先輩のカードを引いている時、引いている瞬間を注視しすぎて、石川先輩の手札が見えてしまった。山本先輩から引く前の手札は、僕の持っているのもとは違った。

 山本先輩から一枚引いた石川先輩は、揃わなかったようで、ため息を吐きながら、二枚しかない手札を混ぜていた。

 石川先輩には悪いけど、手札が見えてしまったから、全体では七枚のカードがあるけど、山本先輩が持っていたカードを引けば、僕は二分の一の確率で上がることができる。分かりやすいように、A、B、C、Jで表そう。

 僕の持っているカードは、決して揃うことのないJと仮にAの二枚だとして、石川先輩の持っているカードをBとする。山本先輩の持っている二枚のカードと岡澤君、中村君の持っている一枚のカードは、どれも、AかBかC。山本先輩の持っているカードを一枚引いた石川先輩が揃わなかったから、引いたカードは、AかC。つまり、山本先輩のカードを引けば、二分の一で僕は上がれる。

 石川先輩にはカードを引く前に、先に心の中で謝っておこう。石川先輩、申し訳ない。

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