地学部合宿会 第21話
違う違う。何で気がつけば山河内さんのことばかり考えているんだ。もう気にしないって、決めただろ。なのに何で、山河内さんのことばかり頭の中を巡るんだ。こう言う時は、違うことを考えて、頭をスッキリさせて切り替えることが大事だ。違うこと、違うこと……地学のこと……それはダメだ。最終的に山河内さんに繋がりそうだから。他と言えば、ゲームのこと。そう言えば、如月さんが僕への連絡手段として始めていたあのゲーム、強くなったのかな。あの出来事以降、僕はろくにログインをしていないから、如月さんの現状を知らないんだよな。ゲーム上で監視されているって言われたら、誰だってログインすることなんてできないよな。
他のゲームもログインしていいのか懐疑的になって、全くあの時は如月さんのせいで苦労したよ。全てのゲームで、如月さんっぽい名前を片っ端から削除して、新規課金勢のフレンドばかり、一時期登録していた。おかげで、今でもフレンドの枠は全て埋まっていない。まあ、無理に埋める必要はないから、空きがあっていいけど、今まで一杯になったことしかなかったから、いまだに変な感じで気持ち悪いんだよな。早く埋めたい気持ちと、これは如月さんか、と悩む日々からおさらばしたい。時間が勿体無いし、それで、何度も有用そうなプレイヤーを先送りにしてきたからな。
雄大な星空を見ながらふと思った。僕は一体何をしているのだろな。と。今更過去のことを思い出したって、何の解決にもならないし、逆に悩む一方だし。
深く、長いため息を吐いていると、星空写真を撮っている楠木先輩が、心配そうな目をして僕を見ていた。
「大丈夫?」
「はい。大丈夫です……」
「全くそう見えないけど?」
「今日一日長かったので疲れただけです」
「あー確かに。今日はよく動いたもんな」
「はい」
「でも、今のため息はそれだけじゃないだろ?」
これはまた話を掘り返されるのかな。でも僕には他に言える言葉がない。
「はい……」
「さっきのこと?」
「ええ、まあ……」
「そっか。話し合うのが心配?」
「いえ、そうではなくて……」
「考えてしまうんだね」
何でそれを……。
楠木先輩まで如月さんのようなことを。
と言うか、また顔に出てたのか。いやいや、人の顔が見えるくらいには明るさはあるとは言え、そんな瞬時に理解できるほどの明るさじゃないし、楠木先輩は、ため息を吐いた瞬間以外は、僕の方を見ていないのだぞ。顔以前の問題だろ。
僕の声色だけで、それを読み取ったのだとしたら、如月さん以上に恐ろしい存在だと、僕は思った。
「考えたくもないのですがね……」
「それはダウトだよ。中田君。考えたくなくても、自然と考えてしまうのは、それは、もう恋だよ。中田君は山河内さんのことが好きなの?」
今日の楠木先輩はよく喋る。こんな話を楠木先輩とするとは思ってもいなかった。と言うか、そう言うことに興味があったんだな。
「人としては……好きですよ。自分に真っ直ぐで、勉強もできて、運動も得意で、誰にだって優しいし、顔も可愛いし、悪いところなんて一つもないじゃないですか。でも、逆にできすぎていて、そこが怖いんですよね。だから、好きって感情はないですね」
そう言って僕が楠木先輩の方へ顔を向けると、そこになぜか山河内さんがいた。
「楠木先輩、今日はどんな写真が撮れたのですか?」
「見てみるかい。まずは夏の大三角。そして、これが土星。これが木星」
「へえー。綺麗に撮れてますね。あとで写真送ってください」
山河内さんが、楠木先輩のところに来たことによって、堺さんまで楠木先輩のとこのに集まった。だから僕は、見たかった乃木先輩がいる天体望遠鏡の方へ場所を移した。
「中田君も望遠鏡を覗いて見たいのかい?」
「ええ、そうです。今は何が見えますか?」
「今ならなんと……土星が見えるよ!」
「そうなんですね」
と、言いながら、乃木先輩には目もくれず、望遠鏡を覗き込んだ。
「うわあ、すごい……」
言葉を発するつもりなんてなかったが、その圧倒的な土星を前に、つい声が漏れていた。
「でしょ! 教科書に載っているような、土星が見えるでしょ!」
「こんな小さな望遠鏡でも、土星の輪がしっかり見えるんですね」
「小さくて悪かったな」
「あ、いや、そ、そう言うことじゃなくてですね。教科書に載っているような土星って、もっと大きな望遠鏡でしか、観測できないと思っていたので」
「それって、天文台にあるような巨大なものを想像している?」
「は、はい……」
「あれはこの望遠鏡で見るよりも、もっとはっきり見えるよ。一般公開している天文台もあるから、いつか見学に行ってみるといいよ。凄すぎて腰を抜かすよ」
「そうなんですね。いつか行ってみます」
これにて星の観測会は幕を閉じた。
乃木先輩と大原先輩は天体望遠鏡を片付け、僕は集められた星図の整理をしていた。乃木先輩たちが天体望遠鏡の片付けを終えて、また一年生のみんなとは距離を置いてコテージに戻った。
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