旅の計画を
旅の計画を 第1話、第2話
放課後になり僕は地学部の部室に顔を出した。今日も昨日と変わらず部活紹介をしているが、やはり日に日に体験入部者も減っている。先輩方もどことなく元気がない様子も伺える。三日目にして初日の三分の一にまで減っていたらそりゃ元気もなくなるよ。先輩方には悪いけど、僕は地学部に入りたいから一桁、いや片手に収まるくらいの人数になってくれた方がありがたい。
そんな、僕の願いは叶った。体験入部も終わった一番最初の本格的な部活始動時に集まった一年生は、僕含めて五人だった。男三人に女が二人。内役は、僕と山河内さん。そして、同じクラスの堺さん。後の男二人は知らない。
「じゃあ、皆さん自己紹介をお願いします。天文班と地上班どちらを希望するかも合わせてお願いします」
一年生は全員で見つめ合い、一番手を譲り合った。そんな中先頭を切ったのは、多分想像つくだろうけど、山河内さんだ。
「はい! 一年三組、山河内碧です。小さい頃に家族とよく行っていたキャンプで星に一目惚れをしたので天文班を希望します」
一番手だったこともあり、喝采の拍手に包まれた。みんな一番を嫌がっていたくせに、一番が決まるとそれからは順調に自己紹介は続いた。
「一年四組、堺真咲です。宇宙分野に興味があり入部しました。なので私も天文班希望です」
「一年一組、中村悠俉です。地震についての研究をしています。地上班希望です」
「えーっと、一年六組の岡沢悠太と言います。地学部にはその……皆みたいな大義な理由やないんですけど……石とかちょーっと興味あるかな。ってな感じで地上班希望します」
岡沢くんなんか訛りがすごい。
皆んなの自己紹介を聞いているうちに僕は一番最後になってしまった。
「えーっと、一年四組、中田大智です。地学部の入部理由は知っていると思います。なので天文班希望です」
山河内さんの時と比べると少し活気を失っていたが、拍手に包まれて自己紹介を終えた。
「それじゃあ、自己紹介も終わったことだし、早速天文班と地上班に別れて活動しましょうか」
部長の掛け声で、部員は窓側と廊下側の二手に分かれた。体験入部の時と同じように窓側に僕ら天文班が集まり、廊下側に地上班が集まった。天文班は六人だから、机を二つずつ向かい合わせて対面できるようにした。僕は一番後ろの窓側に座わって、僕に正面には二年の男の先輩、楠木先輩が座った。僕の左隣には、何でか堺さんが座った。同じクラスとは言え、話も碌にしたことないから妙に気まずかった。
「天文班の男子僕一人だったから、入ってくれて本当に嬉しいよ」
「はは、あ、ありがとうございます」
急に話しかけられてうまく対応できなかった。 なのにそんなことなど全く気にしてないくらい安堵した顔をしていた。確かに、ただでさえ少ない人数なのにこっちの班にはあの乃木先輩がいるからな。肩身は狭かっただろうけど、僕が入ったところで肩身の狭さは変わらないと思う。むしろ窮屈かも。
「じゃあ、みんな。今日は、何について話し合おうか? 宇宙? それとも惑星? それとも恒星?」
もうすでにマニアックだ。初心者の僕にはイマイチ違いがわからない。恒星も惑星も宇宙に含まれるのではないのか。その疑問を持っていたのは、僕だけじゃなかった。
「はい! 乃木先輩。恒星と惑星の違いは分かるのですが、宇宙の議題はどんなことを話し合うのですか?」
「いい質問だね。宇宙の議論は、主に超新星爆発やブラックホールとかそういうことを話し合うんだよ」
「なるほど……それは楽しそうですね!」
「でしょ! 君、分かる人だね」
二人の会話に僕を含め他のメンバーは取り残されていた。
「乃木先輩ってすごいですね。乃木先輩に比べたら僕なんてただの素人ですよね」
僕らの席から乃木先輩の席は一番遠く、流石に聞こえてないと思い楠木先輩にそんなんことを聞いていた。
「中田君はまだ入ったばかりだから、そんなの当然だよ。これからいろんなことを知っていけばいいし、あれは単なるマニアだからあそこまでにならなくていいと思うよ。と言うか、ならないでね。強制はしないけど」
山河内さんと乃木先輩はさっきよりも話を広げ盛り上がっていた。
「乃木先輩って、いつもあんな感じなのですか?」
聞こえていないとは思うが、一応小声でそう訊いてみた。楠木先輩も僕に合わせてか、かろうじて聞こえる小さな声で答えてくれた。
「いつもはもう少しおとなしいんだけどね。多分だけど、初めてできた後輩に興奮してるんじゃないかな」
「そうなんですね。あの感じしか知らないので、おとなしい乃木先輩ってなんだか想像つかないですね」
僕がそう言うと楠木先輩は笑っていた。
「いいもの見せてあげる」
そう言ってスマホを操作し始め、準備が整ったのか僕に画面を見せた。
「これは何の写真ですか?」
「去年の天体観測会の写真なんだけど、見てこの緊張しきっている顔」
見せられた写真に写っている乃木先輩は顔が固まって全身に力が入っている様子だった。
「乃木先輩でもこんなに緊張しているなんて、よっぽどな会なのですか?」
「そうでもないよ。乃木が緊張しすぎているだけ」
楠木先輩との楽しい会話を続けるも、それは突然終わりを告げた。
「君たちは何の話をしているのかな?」
乃木先輩は笑った顔を見せていたが、近くまで来ていて眉間に皺が寄っているのが確認できた。
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