旅の計画を 第3話、第4話

「ち、地学部の主な活動について話してただけだよ。なあ」

 

「なあ」と僕に振られても、僕には無言で頷くことしかできなかった。

 

「そうだったんだね。で、その写真は何か関係あった?」

 

「こ、これは、去年の天体観測会でこんなことしてたんだよ、って例で見せたんだよ」

 

「だったら、こんな集合写真より惑星や衛星の写真を見せたほうが勉強になると思うな。せっかく撮ったのに自分しか見ないなんて勿体無いしね」

 

「そ、そうだよな。でも一応、初めから話そうかなって思ってて……」

 

「そうだったんだね。じゃあ、次の写真をどうぞ。何を見せるつもりなのかな?」

 

 乃木先輩の怒りは鎮まることを知らなかった。

 

「え、えーっと……あ! これなんかどうかな。天体望遠鏡を使って火星を撮ったんだよ。綺麗に写っているだろ?」

 

「ほ、本当ですね! 凄く綺麗に撮れてますね! 専用のカメラで撮ったのですか?」

 

「ううん。実はこのスマホで撮ったんだよ!」

 

「へえー。最近はそんなこともできるのですか?」

 

「そうなんだよ。最近の天体望遠鏡にはスマホホルダーがあったりするんだよね」

 

「へえー。じゃあ、月はもっと間近で撮れたりするんですか?」

 

「そうだよ。クレーターが見えるくらいには撮れたりするよ」

 

「そうなんですね! 月撮ってみたいです!」

 

「夏にある天体観測会になれば、撮ることができるからそれまでは我慢だね」

 

 僕と楠木先輩のキャッチボールは終わった。

 

「二人ともお話は終わりですか?」

 

「は、はい……」

 

 楠木先輩までも敬語になっていた。

 

「最初から全部聞こえてたわ!」

 

 楠木先輩は頭にパーで僕はグーで肩にパンチを喰らった。

 

「中田君、大丈夫だった? 入部早々にごめんね」

 

「いえ、そんな。僕の方こそ巻き込んですみません……」

 

「大丈夫だよ。僕にとっては日常茶飯だから」

 

 僕は謝ることしかできなかった。

 

「じゃあ今日は、地学部の活動について話をしましょうか。では、カナちゃんお願いします」

 

 そう言って、乃木先輩はもう一人の女の先輩、大原先輩に話を振った。大原先輩は当然だけど、驚いた様子を見せていた。

 

「え? ク、クレちゃん? 班長はクレちゃんだよね?」

 

「こう言う話はカナちゃんの方が得意だから。お願いします」

 

 でも、大原先輩はすぐに折れた。

 

「もう仕方ないな。じゃあ、記録係の私から説明するね。と、その前に私たちの役割について説明するね。今は三人しかいないから、クレちゃん……失礼、乃木が班長で、楠木君が副班長をしていて、私が記録係をしているの。三人にも何か役割をお願いしたいけど、正直な所三人で一年間やってきたからこれと言うもは思いつかないんだよね。でも、記録係の私から言わせてみれば、もう一人記録係がほしいかな」


 その言葉に反応して勢いよく手を挙げたのは山河内さんだ。

 

「はい! 私、記録係やってみたいです!」

 

 さすがは学年一位の優等生と、山河内さんを横目に見ていると、正面の楠木先輩が僕の方を向いてにやけてこう言った。

 

「じゃあ、僕も副班長がもう一人欲しいから、中田君、是非やってみない?」

 

「え! ぼ、僕がですか?」

 

「僕でも何とか務まっているから、きっと中田君でも大丈夫だよ」

 

 それに待ったをかけたのは班長の乃木先輩だった。

 

「それじゃあ不公平。私は堺さんを推す」

 

「じゃあ、これは選挙するしかないのか。中田君と堺さん以外ら相応しいと思う方に挙手で」

 

 投票の結果僕は敗北した。相手は清楚可憐な堺さんだ、当然と言えば当然だ。

 

「中田君、残念だったね」

 

「あ、いえいえ、大丈夫です……」

 

「中田君ごめんね。私は何があってもクレちゃんの味方だから、その、中田君に副班長が向いてないとか全然思っていないからね」

 

「はい、全然大丈夫です……」

 

 僕は心の底から選ばれなくてよかったと思っていた。めんどくさそうな班長や副班長は大変なだけで利益がほとんどないからな。

 

「中田君だけ、役割何も当たらないことになるからただの班員ってことでいいよね」

 

 大原先輩は唐突にそんなことを言った。

 

「そうだね。ただの班員だね」

 

「うんうん。それがお似合いだね」

 

 乃木先輩や楠木先輩までもそんなことを言っていた。ただ、二人の喋り方は淡白で冷たい印象があった。

 

「え! な、何かないんですか?」

 

 ただの班員。それのどこが面白いのか僕には理解不能だったけど、山河内さんはお腹を抱えながら笑っていた。

 

「ごめんごめん。冗談だよ。余ったならうちに来ない? 別の役割を新しく作るのも面倒だし、記録係ってことでいいよね?」

 

 大原先輩の言葉にまたしても乃木先輩と楠木先輩が反応した。


「そうだね。ただの記録係だね」

 

「うんうん。それがお似合いだね」

 

 山河内さんは、一人震えながら大爆笑していた。僕はというと、どうしていいのか分からずに困惑し固まっていた。

 

「大原って冗談とか言わなそうな見た目しているけど、地学部で一番冗談を言うのは大原だから、気を……まあ、こう言うやつだと思って接してないと頭がおかしくなるよ」

 

「ちょっと、どう言う意味よ!」

 

「そのまんまの意味」

 

 この二人の夫婦喧嘩のようなやり取りは数分間続いた。乃木先輩は二人の会話を目で追って、山河内さんは相変わらず大爆笑していて、堺さんは僕と同じくどうしていいのか迷っている様子だった。そんな僕は、部活初日からいじられキャラになっていた。

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