ローチェリーナの思考

ローチェリーナの思考~プロローグ~

 


 好奇心、それは人間の原動力だ。いや、生き物全てにおける原動力だ。



 これは何だろう? と思考し、近づく、触れる、食べる、捕まえる。

 人類は現在まで数多の好奇心に突き動かされてきた。



 トマトを食べて美味いと気づいたイタリア人。リンゴが落ちるのを見て万有引力を見つけたニュートン。フグに毒があると知らずに美味そうだと食ってはかなく散った名もなき武士。カメムシに興味を示し、食ってみたら死ぬほど苦くて大泣きした子ども。電気ウナギに不用心に触れた愚かな助手と共にビリビリしたウィリアムソン。



 皆がそれに好奇心を持ち、挑み、発見したのだ。



 「んなこと、どうでも良くね!? 細けぇこたぁいいんだよ!」――などと言う考えない葦が大半であれば、文明はここまで発展していない。トマト、重力、フグ、苦虫、電池とは無縁の世界を生きていたかもしれないのだ。



 七草粥ななくさがゆとかいう、雑草のごった煮だって誰かの好奇心の産物だ。いまだって、その辺の野っ原の草を勇んで食い散らかしている奇人きじんによって、新たな価値ある雑草が誕生する可能性も十二分じゅうにぶんにあるのだ。

 結果の大小はあれど、好奇心は何かを引き起こすきっかけ、スイッチボタンなのだ。



 しかし、そんな好奇心が常に有益性をもたらしてくれるとは限らない。スイッチボタンには決して押してはいけないものも存在するのだ。「絶対に押さないでください」と書かれていれば押したくなるのが、人類のさがなのかもしれない。



 その最たるものは核兵器であろう。人類は好奇心に突き動かされ、自らを破滅させる存在を生み出した。その巨大な終末兵器は大国を生み出し、いまや世界は互いが互いをけん制し合う疑心暗鬼の闇の中を長らく彷徨さまよって久しい。



 そして、俺もまた、そんな好奇心に揺れ動かされ、ある破滅へのスイッチボタンを押した。いや、押してしまったのだ。

 そう、――ローチェリーナを目覚めさせる、スイッチボタンを。




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