第11話 まだ2日目

「どうするんだ、忍」

「どうするったって、女の子になっちゃってここに住み続けるのもアレだし、だいいち会社もどうするか……。あ〜もうこの2日かそこいらで、いろいろあり過ぎて一度に決めらんないよ〜」

「そうだよな……わりぃ忍、おまえの気持ち考えてなかった」

「そうよ〜忍さんの言う通りよ、秀明くん。それと忍さんは、少し考えるのやめたほうがいいかもですよ~」

「うん、そうだね……」

「ま、会社のほうだけど、今朝の報道を上の人間も見てるだろうから、アバターの姿のままってのは理解してもらえるだろうな。女子なのはまぁおいといて……」と秀明。

「いや、女の子なのは、あんましよくない」

「え〜忍さん可愛いから大丈夫ですよ〜」

「なにそれ〜 ま、オレとしては、とりあえずVRMMORPG BulletSの提案は全部とはいかないけど、ある程度受けるつもりなんだよね。……でも慰謝料もらったとしても、会社は勤め続けたい」

「忍……」

「あ〜もうどうすっかな〜 ここしばらくは、外にも出られないしなぁ〜」

「……じゃ、お洋服持ってきたから、またお着替えでもしますか〜?」

「え〜もうそれいいよ〜」


 VRMMORPG BulletSの2人が帰ったあと、お着替えタイムが始まることもなかったけど、なんか疲れた。

 お昼も近くなってきたし、何か食べに行くか、梓ちゃんがご飯を作るって話になった。オレはあまりお腹が空いてないし外に出たくないから、レンジでチンするだけのものでいいんだけど、2人はどうするつもりなんだろう?

「忍、おまえ昨夜食べてなくて、今朝もカップ焼きそばしか食ってないんだろ? 大丈夫なんか?」

「ん〜なんか食欲ないんだよね……さっきはとりあえず飯! とか言ったけど。それに外、出たくない……」

「そうか~ 何ならいけそうだ?」

「あ、カレーなら食べられるかも。カレーならレンチンできるレトルトあるしご飯も。あとは〜レンチンして食べられるパスタが何種類か……」

「……レンチンものばっかだな。おまえ、ほんと独身男の標本みたいだな!」

「あ、秀明くん、それより食材買ってきてるから、私、あれ作るよ〜」

「それがいいな! 梓の、あれは美味いぞ〜」

「あれ? まぁいいや。いいな〜カップルって」

「忍さ、おまえレンチンとゲームと株だっけ? そんなんだから、彼女が……あ、わりい。今は女子なわけだから……その……」

「いいよ、気にしないで。別に女の子になったからって、誰かのお嫁さんになるつもりはないし。だいたい、普段から自炊もしてないで、レンチンメニューで済ませてるんだし……。あ、それよりも食料の補充しなきゃ……」

「しばらく外にも出づらいでしょうから、私がご飯作りに来ましょうか〜?」

「い、いや、それは悪いよ。それに、ここから転居するかもしれないし」

「そういやそんなことも言ってたよな……あいつら」

「うん。もしそうならできれば2人と近い場所がいいな」

「具体的にどうするかは、作ってきた文書を見てからにして、今は梓にメシ作ってもらって、それから少しゆっくりしようぜ。俺、腹減ったしさ〜」

 秀明に気を使わせちゃったかな? ま、こいつに限ってそんなことはないだろうけど。

「うん、今作るから〜 お台所借りますね〜」と梓ちゃんが席を立つ。

「ありがと〜 あ、そういえばフライパンとか……あった?」

「はい~」


 上にポテチを砕いたのが乗ったチャーハン風なものと、付け合わせのサラダを作り始める。

 あ〜これ、2つともあの映画に出てきた料理と同じだ……一度食べてみたかったんだよね〜

「梓ちゃん、手際いいねぇ……いい匂い、お腹空いてきた〜」

「――はーい、お待たせで〜す。お皿は適当に大きいのに盛りましたから、食べる分だけこっちの小皿によそってくださいね〜」

「はい、いっただきま〜す」

「いただきます!」

「めしあがれ〜」

「うま〜! これ、あの映画に出てきた料理と同じだね! 一度食べたかったんだよね〜」と思わず口に出しちゃった。

「あ、バレちゃいました? でも美味しいでしょ~?」

「うんうん、これなら毎日でも食べられそう。秀明はいいなぁ〜」

「ん? あ、そっか……食べ慣れてるしな〜」

「なんだか感想薄いな〜 やっぱりもう2人一緒になっちゃえば?」

「ん〜?」秀明は素知らぬ顔。

 梓ちゃんは顔真っ赤にしてるし……やばかったかな? ま、オレニハカンケイナイケドナー。


 お腹も一杯になって心持ち不安も和らいだ気がするけど……。

 だけどな〜、悩んだからって身体が元に戻るわけじゃないし、VRMMORPG BulletSの運営が今日話したこと以外にどんな案を持ってくるのかもわからないし……。

「しかたないけど確定してるのはオレは女の子のままというのと、ここで暮らし続けるには不都合があるってことだよね」

「……それじゃ、いっそのこと3人で暮らしちゃいません~?」と、梓ちゃんがとんでもないことを言い出す。

「うわ、それは選択肢になかった! さ、3人で暮らすって……同じ家に? オレ、2人がえっち……」

「っておい! 梓、んなわけないよな?」

「そ、そうですかね~?」

 梓ちゃんはちょっと天然入ってるなぁ。


「私そんなつもりじゃなくって~、同じマンションに3部屋並びで暮らすのがベストかな~と思って言ったんですけど~? 3人一緒ならこの事件? について一番わかってるわけだから、何かあったら秀明くんが守ってくれるし、私は2人の面倒、特に女の子にまだ慣れてない忍さんのお手伝いもできると思うんですよね~」

 そっか、梓ちゃんの言うことも一理あるな。さっきの、天然入ってるは、前言撤回だな……。

「そ、そうだよね〜 あ、あははは」

「だ、だよな〜」

「でもさ、さっきも言ったけど、2人もうほんと一緒に暮らしちゃっていいんじゃないの?」

「ん〜 秀明くんがまだその気にならないんです……」

「……」秀明はダンマリを決め込む。

「秀明、おまえ梓ちゃんと付き合ってもう何年経つんだよ? ま、女の子のオレには関係ないけどな〜」


「そっちだよ、忍! 俺たちのことより、おまえのほうが優先度っていうか緊急度が上だろ?」

「あ、なんか秀明、逆ギレしてる?」

「ちっが〜う! 梓が言いたいのは、同じ場所で暮らすのも一理あるってことだろ? あの連中が忍を軟禁してるかどうかは知らないけど、どうせ精密検査だとか言ってあれこれやるつもりに決まってる! だったら、俺たちで忍を守るために一緒に暮らす必要があるんだ!」

「あれやこれ……ねぇ……」考えるとゾッとする……。

 すっかり秀明の中ではVRMMORPG BulletS運営は悪の組織扱いだな。

 ま、オレもあまり快くは思ってはいないけど、今のところアバターと切断されていないくらいで……ってこれは一大事なんだけど、他の実害はまだなさそうだしなぁ……。やっぱりオレってぼーっとしてるのかな?


「忍、今回の事件で一番得をするのは、おそらく精密検査の結果を手に入れるあいつらなんだぞ? わかってるのか?」

「運営が提示してきたのは、オレに対する慰謝料と住む場所の提供、それに精密検査の実施くらいしかまだわかってないんだ。 内容については、近いうちに覚書とか合意書を持ってくるって話だから、それまではあれこれ考えてもしかたないんじゃないかなって……」

「それもそうですね~、忍さんの言う通りです。今は仲間割れしてる場合じゃないと思います~」

「梓が3人で暮らすなんて言い出すから……」

「また秀明、蒸し返すんだから。梓ちゃんの言うこと、一理も二理も……そんな言葉はないけどさ、これって逆にこっちから提案してもいいんじゃないかな?」

「そうだな、提案はしてみるべきだな」

「じゃあ、決まり。オレの転居条件は、秀明と梓ちゃんと同じマンションか、少なくとも近くに住むこと。それ以外の内容については、相手の文書を見てから判断する……ってことで」

「ああ。じゃあ、次は会社の話だけど、明日、俺から部長にそれとなくVRMMORPG BulletSで強制ログアウトされてアバターのままになった事件がありましたねと、カマかけてみるわ。忍は体調不良で休むことにする」

「うん、お願い」

「で、その反応を見て、話すかどうかは俺が決めていいだろ? もし大丈夫そうだったら、実は……って話して、明後日にはブレザーとあの短いスカートじゃちょっとまずいから、せめてワンピースとカーディガンで、梓と一緒に出社してくれ」

「うん。オレもあのパンツ見えそうなスカートはちょ〜っとね。あ、靴は……」

「靴は私買っておきますね。他に入り用なものあれば、食料、飲料とかも明日届けます~」

「本当ありがとう……2人とも……涙出る……」

「いいってことよ!」

「ええ、3人揃ってのチームじゃないですか~! あと、しばらくは私忍さんの食事も担当しますから~」

「え?」

「だって、忍さんったらすぐに『食欲ない~』って言って食べないじゃないですか……身体によくないですよ~」

「ま、そうだけど……秀明、いいの?」

「なんで俺の許可がいるんだよ」

「だってさ……」

「気にすんなって。俺も梓もおまえがいなきゃ……」

 ちょっとしんみりしたけど、夕飯後2人は帰っていった。


 ◇


 明日、会社のほうは秀明がなんとかしてくれるだろう。

 ん? そういえばVRMMORPG BulletSの運営には確認してないけど、会社にいっても良かったんだろうか? ま、いっか〜

 今日は女子化してまだ1日、2回目のフロ……なんだよな。

 昨日は急いでたからまあこんなもんかと思ったけど、やっぱりまだ慣れない自分の裸に戸惑う。けど、これがオレの身体なんだよな……。今日はしっかりチェックしてみよう!


 おお〜、こういう構造なんだな〜と、ほとんど興味が先走って……あ、なんか気持ちいい……ってヲイ……これ、ヤバい……クセになる……。

 少しは理性が働いたようで途中でなんとかやめて、シャンプーをまた大量に使って――あ、リンスを梓ちゃんに頼むの忘れた――髪を洗って、身体もスポンジで……。


 風呂から上がり髪をタオルで乾かそうとしたんだけど、完全に乾かす前に寝入ってしまった……。

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