第12話 女子化初出社

 携帯の呼び出し音と、ドアフォンのチャイムで目が覚める……。


 んぁ? 今何時だ……? うわ、もう10時過ぎてる!

「は〜い」とドアフォンのモニターを見ると梓ちゃん。

 パジャマだけはちゃんと着て寝たようだったので、そのまま出迎える。


「忍さん、おはようございま〜す」

「おはよ~ あれ? 梓ちゃん会社は?」

「忍さんをお迎えに……って、忍さん、すごい鼻声。それに、髪ちゃんと乾かして寝ました~?」

「いや〜 たぶんまだちょっと湿ってる……」

 うわ、かなりやばい感じだな。当然、お風呂で色々したことは黙ってる……。

「あ、会社なんですけど秀明くんが部長に説明したら、なんか興味持っちゃって……。部長もVRMMORPG BulletS好きで今回の事件ご存知だったそうで、出社オッケーです~」

「へぇ〜あの部長がねぇ……って、女の子になったことは?」

「あ、それも説明済みです~」

「うぇ〜ちょっとハズいなぁ……。明日だと思ってたからまだ心の準備ができてないけど……ま、覚悟して行くか~ あ、昨日のワンピースとカーディガンでいいのかな?」

「まだスカート慣れないでしょうから、一応パンツスーツも用意しましたよ〜 XSサイズなんでたぶん大丈夫だと思います~ あとパンプス買ってきたんですけど~」

「いろいろありがとう……。でもなんか梓ちゃん楽しそうなんだけど……」

「はい〜 忍さんのほうが年上ですけど、その外見でなんか妹ができたみたいで〜」

「お〜い、中身というか心はまだ男なんだからな!」

「は〜い♪」なんか聞いてないようだ。

「その前に、その髪なんとかしないと……それに、その鼻声もひどいし、風邪薬も飲んだほうがいいんじゃ……」

「そ、そうだね。今起きたばかりだからご飯食べてから……」

「出社は午後からでいいとのことなので、私が忍さんのご飯を用意して、お着替えも手伝いますからね〜」


 梓ちゃんに髪を乾かしてもらって、朝ごはん兼昼食を作ってもらい一緒に食事。

 親友の彼女と一緒ってだけで、なんだか背徳感がすごいけど……今のオレ、女の子なんだよなぁ〜まあ、あんまり深く考えないことにしよう。

「聞いてもいい? 秀明はなんで梓ちゃんと早く一緒にならないんかなぁ?」

「そうなんですよね……仕事、今リーダーやってて面白いって言ってましたよ~ あと、あの人ゲームも好きですし~」

「あれ? でも平日の夜はあんまりログオンしてこないけどなぁ……」

 平日は一緒にいることは知ってるけど一応カマかけてみる。

「平日は私と一緒だから……こんな感じが続くんですかねぇ……」

 あ、なんか悪いこと聞いたかな……?

 ま、彼女なんていないオレには答えようがない。


「しっかし、なんでオレ女の子になっちゃったんだろうか……厄年でもないのに」と話題を変える。

「そういえば忍さん、なんでアバターを女性にしたんですか~?」

「それはただ単に、銃をバリバリ撃つ女の子ってカッコイイ! って思ったからなんだよね」

「あはは、たしかにそうかもですねぇ」


 魔法使いになる前に女の子になっちゃったわけだ……。

 厄年をスマホで検索すると、やっぱり男の33歳は厄年じゃないぞ……え、女だと33歳が本厄! なんか違くない〜? しかも大厄だって! あ〜なんだかな〜

 うだうだしてるうちに、

「忍さん、早く着替えないと会社に行く時間……」と促される。

「あ、うん。そうだね。今日も美味しかった! ごちそうさまでした!」

「おそまつさまでした〜」

「今日はパンツスーツだよね? 初日から女の子! って感じは嫌だし……。

 そうだ、用意してもらった服とか下着とか食材のお金、まだ払ってないや、ごめん。会社にいったときに銀行に寄るね」

「はい、でもいつでもいいですよ〜」

 梓ちゃんは本当いい子だよな〜秀明が羨ましい。


 ブラつけるのをまた手伝ってもらって……。

「忍さん、ナイトブラ着けて寝たほうが良いですよ~? そうしないと、形わるくなっちゃうんで~」

「って、梓ちゃんは大きいからだけど、まだオレはこんなだからいらないよね? それにナイトブラなんて持ってないし~」

「あ、そ、そうですね~」

 などと言いながら、またブラウスのボタンをはめるのに手間取りながら、パンツスーツに着替える。

「あ、パンツも上着もほんのちょ〜っと大きいけど、これくらいのほうが動きやすいかな?」

「あ〜良かった! ブレザーとスカートより、サイズが難しかったんですけど土曜日に抱きついちゃったときの感触で、これ位だったかな〜? ってこのサイズにしたんです……」

「えっ……あ、あのときの? 梓ちゃんの胸、大きくて苦しかったけど気持ち良かった……っておい」梓ちゃんの胸の感触が蘇る……。

「恥ずかしいです〜で、でも女の子同士ならハグとかよくしますよ〜」

「そ、そうなの〜? 知らなかった……」

「今度、またハグしましょうねぇ〜」

 よ、よくわかんないけど、なんか梓ちゃんてやっぱりその界隈の人? ……ま、いっか〜


 そうこうするうちに、午後の始業時刻に遅れそうなので急いで家を出る。

 駅まで徒歩10分、4駅乗り換えなしで会社の最寄駅へ。

 会社まで近いし、各駅しか停まらないから家賃もそれほど高くなく気に入ってる。西日がきついけど、眺めがいいんだよね~

 けど引っ越さなきゃいけなくなるんだな……秀明の家にも近いのになぁ……あれ? 梓ちゃんって家どこだったっけ? ま、それもそのうち3人一緒に住む事になるかもだからいいか。

「忍さんって前は今と違ったアバターだったんですよね~?」

「うん、そうだよ? 秀明に聞いたの?」

「はい~」

「前はT-0814っていうオレの好みのタイプの長身で黒目、黒髪ロングの……って、梓ちゃんみたいな感じだったな〜」

「え〜恥ずかしい〜 あ、関係ないですけどあまり人前で、オレって言わないで女の子っぽくしたほうが……」

「あ、そ、そうですわね〜あ、あははは」

「そうですわね〜って、言う人も少ないですね〜」

 なんて話しているうちに、会社の入っているビルに着いた。


「ふぅ〜」これからの事を考えると大きなため息が出る……。

「忍さん大丈夫ですか?」

「お、おう……いや、はい……」

「よくできました〜」

 梓ちゃんが安心させてくれる。


 エレベーターで3階へ。

「じゃ、入りましょうか……」

 と、自分たちの所属している、開発2部に社員証を兼ねているカードキーをタッチして入室。

 あ、社員証の写真って変えなきゃいけない……よね?

「高岡さん出社です〜」と梓ちゃん。

「お、おはよ〜ございます……女の子になっちゃった高岡です……」と恐る恐る入室。

「あの報道、本当だったんだ……」

「うっわ、高岡可愛くなっちゃって」

「え〜? 金髪で赤眼? しかもちっさ〜」

「こ、子供?」

「でもなんで女の子?」

「話聞いたとき、高岡さんなら、あ〜女の子か〜ってなんか納得しちゃった〜」

 え、やっぱりそんなふうに見られてた?

 10数人ほどの部内が一斉にざわつく……。


 部長が部下を見渡し、説明してくれる。

「はい、みんな、少し静かにしてくれ。昨日の報道でもあったように、高岡くんはゲームのアバターの姿になってしまった。見ての通り女性の姿だが、だからといって無神経な言動やセクハラには注意してほしい。

 見た目が変わっただけで、仕事はこれまで通り進める。各自、そのつもりで。

 また、この件については、当面の間、高岡くんや会社の許可がない限り、SNSへの投稿や知人への話題にするのは禁止だ。社外秘として扱ってくれ」

 割と淡々と済ませてくれた……良かったぁ。


「え〜っと、高岡もいきなり女性になってしまったわけで、精神的にも不安があるだろうから、しばらくは俺のチームの秋山と行動を共にしてもらいます。でも、他の女性社員のみんなも、いろいろアドバイスしてやってください」と、秀明が援護してくれる。


 オレもなんか言ったほうがいいのかな? と秀明のほうを見るとうなずく。

「オ……あ、わ、わたし、部長から説明いただいた通り、ゲームの女性アバターを使っていて、トラブルで女の子になっちゃいましたけど、中身は変わりませんので、今までと同じようによろしくお願いします。ときどきガサツな行動をしてしまうかもしれませんが、そのあたりはご容赦ください……」


「了解です!」

「承知しました〜」


 とりあえず、開発2部の同僚は受け入れてくれたようだ……。

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