第7話 女子化初出社

 携帯の呼び出し音と、ドアフォンのチャイムで目が覚める……んぁ? 今何時だ……? うわ、もう10時過ぎてる!

 パジャマだけはちゃんと着て寝たようだったので「は〜い」とドアフォンのモニターを見るとアズサちゃん。

「忍さん、おはようございま〜す」

「あ、おはよ~、あれ? アズサちゃん会社は?」

「忍さんをお迎えに……って忍さんすごい鼻声。ちゃんと髪の毛乾かして寝ました~?」

「いや、多分生乾き……」そう、ひどい事になってる。

 当然、お風呂で色々したことは黙って……。

「あ、会社なんですけど秀明くんが部長に説明したら、なんか興味持っちゃって……部長もVRMMORPG BulletS好きで今回の事件、ご存知だったそうです~」

「へぇ〜あの部長がねぇ……って、女の子になったことは?」

「あ、それも説明済みです~」

「うぇ〜。ちょっとハズいなぁ……。ま、覚悟して行くか~。あ、昨日のワンピースとカーディガンとでいいのかな?」

「まだスカートとか慣れないでしょうから一応パンツスーツも用意しましたよ〜。XSサイズなんで多分大丈夫だと思います~。あと靴はローファーとパンプス買ってきたんですけど~」

「いろいろありがとう……。でもなんかアズサちゃん楽しそうなんだけど……」

「ええ、忍さんの方が年上ですけど、その外見でなんか『妹』ができたみたいで〜」

「お〜い、中身というか心はまだ男なんだからな!」

「はい〜♪」

 なんか聞いてないようだ……。

「その前にその髪、なんとかしないと……。それにその鼻声、風邪薬も飲んだ方が……」

「そ、そうだね。それに今起きたばかり」

「出社は午後からでいいとのことなので、わたしが忍さんのご飯用意と、お着替え手伝いますからね〜」


 アズサちゃんに、朝食兼昼食を作ってもらい一緒に食事。

 なんか親友の彼女と一緒ってのが背徳感満ち満ちてるけど……オレ今女の子なんだよなぁ〜。ま、あまり深く考えるのはよそうっと。

「聞いてもいい? 英明は何でアズサちゃんと早く一緒にならないんかなぁ?」

「そうなんですよね……仕事、今リーダーやってて面白いって言ってましたよ~。あと、あの人ゲームも好きですし~」

「あれ? でも平日の夜はあんまりLOGONしてこないけどなぁ……」平日は一緒にいることは知ってるけど一応カマかけてみる。

「平日はわたしと一緒だから……こんな感じが続くんですかねぇ……」

 あ、なんか悪いこと聞いたかな……?

 ま、彼女なんていないオレには答えようがない。

「しっかし、何でオレ女の子になっちゃったんだろうか……厄年でもないのに」と話題を変える。

「そういえば忍さん、何でアバターを女性にしたんですか~?」

「それはただ単に、銃をバリバリ撃つ女の子って『格好良い!』って思ったんだよね」

「あはは、確かにそうかもですねぇ」

「でも自分が女の子になるってのは厄年?」

 33歳独身、童貞。『魔法使い』になる前に女の子になっちゃったわけだ……。

『厄年』をスマホで検索すると男33歳は厄年じゃないぞ……え、女性だと33歳が本厄! なんか違くない〜? しかも大厄だって! あ〜なんだかな〜。

 うだうだしてるうちに、「忍さん、早く着替えないと会社に行く時間……」と促される。

「あ、うん。そうだね。今日も美味しかった! ごちそうさまでした!」

「おそまつさまでした〜」

「今日はパンツスーツだよね? やっぱりまだスカート慣れてないし、初日から女の子! って感じは嫌だし……。そうだ、用意してもらった服とか下着とか食材のお金、まだ払ってないや、ごめん。今日会社に行ったときに銀行に寄るね」

「はい、でもいつでもいいですよ〜」

 アズサちゃんは本当いい子だよな〜、英明が羨ましい。

 ブラつけるのをまた手伝ってもらって……。

「忍さん、つるぺたでもナイトブラ着けて寝た方が良いですよ~? そうしないと、形わるくなっちゃうんで~」

「って、アズサちゃんは大きいからだけど、まだオレはこんなだからいらないよね? それにナイトブラ? なんて持ってないし~」

「あ、そ、そうですね~」

 などと言いながら、またブラウスのボタンをはめるのに手間取りながら、パンツスーツに着替える。

「あ、ほんのちょ〜っと大きいけど、パンツも上着も余裕と思えばいいくらいかな?」

「あ〜良かった! ブレザーとスカートより、サイズが難しかったけど土曜日に抱きついちゃったときの感触で、これ位だったかな〜? ってこのサイズにしたんです……」

「えっ……あ、あのときの? アズサちゃんの胸、大きくて苦しかったけど気持ち良かった……っておい」アズサちゃんの胸の感触が蘇る……。

「恥ずかしいです〜。で、でも女の子同士ならハグとかよくしますよ〜」

「そ、そうなの〜? 知らなかった……」

「今度、またハグしましょうねぇ〜」

 よ、よくわかんないけど、なんかアズサちゃんてやっぱりその界隈の人? ……ま、いっか〜。


 そうこうするうちに、午後の始業時刻に遅れそうなので急いで二人で家を出る。

 最寄駅まで徒歩10分。4駅乗り換えなしで会社の最寄駅へ。

 会社まで近いし、各駅しか停まらないから家賃もそれほど高くなく気に入ってる。西日がきついけど、眺めがいいんだよね~。

 けど引っ越さなきゃいけなくなるんだな……英明の家にも近いのになぁ……あれ? アズサちゃんって家どこだったっけ? ま、それもそのうち三人一緒に住む事になるかもだからいいか。

「忍さんって前は今と違ったアバターだったんですよね~?」

「うん、そうだよ? 英明に聞いたの?」

「はい~」

「前はT-0814っていうオレの好みのタイプの長身で黒目、黒髪ロングの……って、アズサちゃんみたいな感じだったな〜」

「え〜恥ずかしい〜。あ、関係ないですけどあまり人前で『オレ』って言わないで女性っぽくした方が……」

「あ、そ、そうですわね〜。あ、あははは」

「あ~『わね』はいらないですね〜」と話しているうちに、会社の入っているビルに到着。


「ふぅ〜」これからの事を考えると大きなため息が出る……。

「忍さん大丈夫ですか?」

「お、おう……いや、はい……」

「よくできました〜」

 アズサちゃんが安心させてくれる。


 エレベーターで3階へ。

「じゃ、入りましょうか……」

 と、自分たちの所属している『開発2部』に社員証を兼ねているカードキーをタッチして入室。

 あ、社員証の写真って変えなきゃいけない……よね?

「高岡さん出社です〜」とアズサちゃん。

「お、おはよ〜ございま〜す……女の子になっちゃった高岡で〜す」と恐る恐る入室。

「あの報道、本当だったんだ……」

「うっわ、高岡可愛くなっちゃって」

「え〜? 赤目で金髪? しかもちっさ〜。こ、子供?」

「でも何で女の子?」

「話聞いたとき、高岡さんなら『あ〜女の子か〜』ってなんか納得しちゃった〜」

 え、やっぱりそんなふうに見られてた?

 十数名ほどの部内が一斉にざわつく……。

 部長が部署の一同に言う。

「高岡くんは昨日の報道にあったように『ゲームのアバターの姿』の状態になったのですが、見ての通り女性なのでセクハラなどは気をつけてください。ですが、中身は変わらないので今まで通り仕事は通常にやってもらうので全員そのように願います。また、この件は当面、高岡くんおよび会社の許可なくSNSなどへの投稿や友人知人へ話すなど一切禁止、社外秘とします」

 あ、割と淡々と済ませてくれた……良かったぁ。

 英明からも「え〜っと、高岡もいきなり女性になってしまったわけで、精神的にも不安があるので、しばらくは俺のチームの秋山と行動を共にしますが、他の女性社員の方もいろいろアドバイスしてやってください」と援護してくれる。

 オレもなんか言った方がいい? と英明の方を見ると頷く。

「お……あ、わ、わたし、部長から説明いただいた通り、ゲームの女性アバター使っていまして、トラブって女の子になってしまいましたけど、中身は変わりませんので、今まで通りよろしくです。時々ガサツな行動してしまうと思いますけど、その辺りはご容赦ください……」

「了解です!」

「承知しました〜」

 とりあえず部署の人たちは受け入れてくれたようだ……。

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